第10話:厄神様はかく知りけり
続きです。
休日だろうと一日一話のみです。ごめんなさい。
俺は最近やたらと驚いている気がする。
驚くというのは相手の方が自分よりも何かが上だと知ったときに起きる感情だ。
バトル漫画などではそれが顕著だ。大体驚いた奴が負ける。あと大口を叩く奴もそうだな。
だから驚きという感情はあまり起こるべきではないと俺は思っている。
確かに最近俺の常識を上回る事態がやたら頻繁に起きているのは事実だ。だがそろそろそれに振り回されずに柔軟に対応できてもいいだろう。
……だというのに俺は未だ耳にした言葉の理解を拒否している。無論、理解しようとすればまたしても俺の常識を修正しなければならないからである。
「……スマン、なんだって?」
「僕は、神様さ!!」
頭が痛い。繰り返すな。
ここ最近で急激に信頼性を失いつつある俺の常識から敢えて言わせてもらえば、人間は神ではない。無論、神になることなどできはしない。はずだ。
「厄病神、説明しろ」
ここまできたらもはや無理に隠す必要もあるまい。俺はさっきからぽかんとしている厄病神の解説に理解を託した。
「……どういうことでしょうか?」
駄目だった。
「はっはっは! 厄病神とはなかなか面白い呼称だ! 彼女はまだ神ではないよ!」
うるさい自称神様。やっていることは完全に厄病神だろ。
「確かにそうだな! だがそのような呼び名ではいささか不名誉だろう! 小夜君はそれでいいのかね!?」
小夜って誰だ。
「わたしの名前です」
驚いた。お前、名前あったのか。
「……怒りますよ?」
「悪い。冗談だ」
そういえば自己紹介の時にも名前を言おうとはしていたな。無理矢理厄病神呼ばわりしたら大人しく退いたから忘れていた。
「……でもまあ、厄病神は厄病神だな」
「うぅ……ひどいです……」
「まあいい。それで、どういうことだ。お前が説明しろ」
「よくないです」という厄病神の抗議を振り切って会話を進める。
「説明しよう!」
お前ひょっとしてそれがやりたかっただけじゃないのか。
「僕は神様なのだよ! 小夜君と同じように幽霊から神になり、そのまま最高点まで登りつめたのさ!」
神の最高点ということはまさかアレか、最高神などという代物か?
「その通りさ!」
「ええぇぇ!? そうだったんですかぁ!?」
お前、驚き過ぎ。自分が入ろうとしている会社の社長の顔も知らなかったのか。
「知りませんでした……」
駄目だ。面接で落ちるタイプだな。
「はっはっは! 無理もない! 神が僕だと知っているのはごく僅かだからね!」
放浪社長か。この会社も終わりだな。
「そんなわけで厄病神。未来の無い会社に入ってもしょうがないだろ。違う就職先を探せ」
「なんの話ですか……?」
いや気にするな、話が飛躍しすぎたようだ。
「でもだとしたら有利じゃないか? 最高神と顔見知りになっておけば何かと融通がきくだろ」
神が贔屓するとも思えないが。
「はっはっは! 他ならぬ直樹氏の頼みならば喜んで引き受けよう!」
もう駄目だこいつ。
「そんなことはいけません!」
おお、こいつの方がよっぽど神様みたいだ。
「そうだ! そういえば舞君の紹介が中途半端になってしまっていたな!」
神楽は唐突に市原を指差した。お前、まだいたのか。全く会話に入ってこないから忘れていた。
「さっきも言ったように、僕も元幽霊だ! 神になるために幸せを分けてもらう必要があった!」
まさか……。
「そう! その時に協力してもらったのが何を隠そうこの舞君なのさ!」
マジか。何だか一気に親近感が湧いたぞ。お前も大変だっただろう。
「ええ。少なくとも今のあなたよりは」
ムカついた。
「龍一さんは、神様になるのにどの位時間がかかったんですか?」
俺が市原に敵意を含んだ視線を送っているのを余所に、厄病神が神楽に質問をしていた。
「なあに、ほんの1年程さ!」
なんてことだ。そんなに長いのか。
「舞さんは何か特別なことをしてあげていたんですか?」
「私は何もしていません。強いて言えば、神楽さんの我が侭に付き合ったことぐらいでしょうか」
なんでもないように言うが、こんな普段から我慢を知らないような奴の我が侭なんて俺には想像もつかない。それに付き合うとは、こいつ以外と懐が深いな。
「流石に夜中に布団に入ってこられた時は大変でしたが」
俺は全力を込めて神楽を殴った。それはもう思い切りよく。
「貴様、犯罪予備軍の分際で何が神様だ? 今の犯罪の傾向も貴様が神になった影響か?」
「ま、待ちたまえ! 違う、違うぞ!」
「何が違うんだ? 5文字で説明しろ」
「誤解だ! 僕はただ……」
「字数オーバー。0点だ」
「横暴だーーー!!」
「事情を訊いたところ寒かったようなので布団をもう1セット用意するのは大変でした」
「…………」
「…………」
……寒い?
「だから言ったではないか! 誤解だと!」
「説明不足でしたでしょうか?」
市原の奴はケロッとした顔で聞いてきた。お前、確信犯だろ。
「舞君! 君のおかげであらぬ誤解を受けたではないか!」
「それはやはり神楽さんがそういうイメージを漂わせていたからではないでしょうか」
「なんと!? それは衝撃の事実だ!!」
……案外といいコンビのようだ。
「漫才やってるところ悪いが、そろそろ1限が始まるだろ。教室に戻らせてくれ」
「そうだな! 授業はしっかり受けねば!」
こいつが神だとは今更ながらに信じられない。
「神楽、選挙頑張れよ!」
「任せたまえ!」
「そういえば……」
戻る途中にも神楽に声をかけていく生徒を見て思った。
「お前は元々厄病神と同じで他の奴には見えなかったんだろ? なんで普通に高校生やっていられるんだ?」
「それはもちろん、僕が神様だからさ!」
蹴った。
「……つまり、神様になれば自分の姿を見えるようにも見えないようにも出来るんです」
市原が代わりに説明してくれた。やはりいいコンビだ。
「だったら厄病神。お前も早く神様になれれば人に話しかけられなくてへこむこともないだろ」
「はい! 直樹さん、わたし頑張ります!」
どうやら具体的な到達点の人物に出会って得るものがあったらしい。顔が晴れやかだ。
俺は友人の衝撃のカミングアウトを意外とすんなり受け入れていたことに気付き、同時に衝撃の事実に気付いた。
驚きが少なくなるということは、つまり自分が常識外の存在になってきたからではないか。
結局、俺はその日、藤阪や桜乃に「俺は普通の人間か?」と訊いてまわり、「変」と言われてへこむというなんだかよくわからない行動をとるに至ったのであった。
というわけで11話でした。神様の登場です。
主人公以上に事情を知っている存在として、これからもちょくちょく出てくる予定です。動かしやすいし。
そういえば作者紹介ページというのを更新しました。見なくていいです。
それから、番外編の短編として「厄神様はかく過ごせり」というのを投稿しました。興味がある方はどうぞ見ていって下さい。