第108話:厄神様はかく請われり
どうもこんにちは、ガラスの靴です。
教授・教師陣の権威が頂点に達する今日この頃、いかがお過ごしでしょうか?
そんなわけで、いよいよ2日目です。
それではある意味キリのいい第108話、どうぞー。
朝。
布団を剥がされ何をするかと目を開ければ、そこには笑顔の碧海が立っていた。
「おはよう狭山。昨夜はぐっすり眠れたか?」
「……はい」
無言の叱責に耐えられず、いそいそと自分の布団から抜け出す。どうやら俺は最後……から2番目に起きたようだ。
「桜乃、起きろ」
横でグースカ寝ている馬鹿の頬をピシピシはたいてみる、が、効果なしか。
このまま寝かせていてもとりたてて問題はないだろう。俺は放っておくことにした。
「他のメンバーは全員起きてるのか。……って、父さんは?」
いつの間にやらネーベルは帰ってきていたのだが、ネーベルを探しに言った筈の父さんがいない。道にでも迷ったのだろうか。
「なぁネーベル、父さんを見なかったか?」
「ああ、貴様の父親ならどこかの木に吊しておいた」
「……あ、そ。まあ父さんなら別にいいか…………な……?」
気になることも解決されたし、安心して行こうとした時、ふと違和感を感じた。
何か、あるべきものがないような、あるいはその逆か。
「……そうだよ! お前なんでまだ戻ってないんだ!?」
「今さらだね。戻れないから戻らない。それだけさ」
ネーベルは面倒臭そうに自分の髪を一撫ですると、そのまま黙ってしまった。俺の混乱した顔を見て楽しんでいるようだ。
「成程、今晩は満月か」
死神が納得したような顔で近づいてきた。どういうことだ。
「妖怪と言われる存在は洋の東西を問わずその力を月に左右されている。その中で最も顕著かつ代表的なものが、吸血鬼という訳だ」
説明になっているようでなっていない。今日のこいつは調子がいいことは分かったから、何で性格が元に戻っていないかを教えてくれ。
「単純なことだ。ネーベルは言わば『人』と『妖』の混合体。妖の力が最大になる満月の日には、人のネーベル、つまりお前たちが普段日中に接している人格を抑え込んで肉体を支配できる」
つまり、今日一日ネーベルはこの性格らしい。松崎が聞いたら泣いて喜びそうだ。
「逆に、新月の日には――」
「それ以上喋ると命がないよ」
……まあ、察しはついたが。
「あれ、直樹さん。いつの間にお起きになったんですか?」
「……ねむいのう……」
どこかに行っていたのか、小夜が顔を出した。続いて玉藻も現れる。
「皆さん、ご飯の準備ができたみたいです。行きましょう?」
「そうだな」
皆でぞろぞろと移動する。食堂に着くと、既に残りのメンバーが座っていた。
「あ……」
藤阪は俺と目が合うとばつが悪そうにうつむいてしまった。……そこまで気にされるとこっちも困る。
「もー! センパイなにやってるんですかー!? ご飯冷めちゃいますよー? 昨日の夜もこっそり布団に忍び込んでみたらどこかに行っちゃってたみたいですし」
「ああ、悪い悪い」
辻に急かされるまま席につき、…………
「……待て。今、なんて言った?」
「え? 聞きたいですかー?」
……いや結構。
「気になりますね。狭山さんはどこへ出掛けていたのでしょう」
ほら見ろ、市原が食い付いてきた。
「わたしも気になります」
お前もか。言っておくが俺はやましいことは何もしていないぞ。
「……どうして何も言っていないのに『やましい』なんて言葉が出てくるのかしら」
「ぐあ」
「ふむ! 静流君の言う通りだね! 直樹氏がどのような思考を経て今の発言をしたのか、是非とも訊いてみたいところだ!」
断言しよう、神楽は事情を知っている。
「……が、まずはこの美味しそうな食事を頂いてからにしないかね!? 冷めては美味しくないよ!」
「……それもそうね」
「残念です」
2人とも、この話題はここで切れる以上蒸し返されることはないと分かっているのだろう。それ以上追求することはなかった。
「……わたしはまだ気になってます」
……こいつにもそれを求めたい。
「うん、やはり素晴らしい美味しさだね! こんな料理を体験できて僕らは幸せだよ!」
「勿体無いお言葉です」
神楽がベタ褒めするのも頷ける、出された料理は本当に商店街の福引の景品で来た旅館だとは思えない一級品のものだった。
「うまい! おいお主、わらわはしばらくここに住むぞ!」
勝手に住んどけ。
「確かに美味しいわね。これならまた来たいくらいだわ」
「……でも、それにしてはお客さんが少なくないですかー?」
バカお前。女将さんの目の前だぞ。
「……ええ、ここ数年、私どもの旅館は経営悪化の一途を辿っているのです……」
怒られるかとも思ったが、客足が遠のいているのも事実なようだ。
「……そりゃ、あんなものが出ればね……」
「……? 藤阪さん、何か知っているの?」
「ちっ、違うわよ。ただの独り言」
恐らく原因は藤阪が想像した通りの――
「――そうだな。恐らく原因は昨晩に藤阪葵と狭山直樹が遭遇した怪奇現象ではないか、女将?」
そう、昨日の……。
「って、おい死神!! なんでお前が知ってんだよ!?」
「……もう、被害に遭われた方がいるのですか。その通り、あの悪戯が原因でございます」
「成程、それなら客足も遠ざかるものだね!」
「いや、流すなよ! まずなんで死神が知っているかを追求しろよ!」
今さらだとか言うな。抵抗を止めた民衆はただ圧政の踏み台となってしまうだけだ。
「……なら、訊いてみましょうか」
「なんで夜中なのに藤阪センパイとセンパイが一緒にいたんですかー?」
……今日は随分と攻め込まれる日だな。
「……偶然だ偶然。たまたま。な、藤阪?」
「そ、そうそう。偶然よ偶然」
「……怪しいですねー」
これ以上追求したって無駄だ。それより怪奇現象って方には疑問を抱かないのか。
「大方、昨日舞さんが話してくれた怪談と同じでしょう。幽霊なんて本当にいるとも思えませんが」
その幽霊がすぐ後ろで浮遊している、というのは黙っておこう。
「……ほ、本当なの? 藤阪さん……」
「……残念だけど、ね……」
2人揃って絶望的事実の確認をしている藤阪と松崎は案外気が合うのだろう。
「下らない」
その時、それまで沈黙を守っていたネーベルが初めて口を開いた。目の前の膳が空になっているのを見る限り食べ終わってやる事がなくなっただけというのが理由のようだが。
「幽霊だろうが何だろうが、所詮こんな僻地の低俗な力しか持っていないだろうよ。どこかの退魔士みたいにね」
「……興味深い意見だな。ヨーロッパが世界の中心だという時代遅れの考えでどこまで分かった気になっているのか訊かせてもらいたいものだ」
お前はいちいち喧嘩を売るな。碧海も買うな。
「私なら、その幽霊もどきを葬り去ることが出来るが?」
「お、おいネーベル!!」
「……本当なのですか? 神楽様」
「い、いや、まあ……本当かもしれないね……」
さすがの神楽も困惑している。ネーベルは何を考えているんだ?
「ネーベルさんは幽霊を信じてるんですかー?」
「信じるもなにも、事実だよ」
知ってるか? そういうのを世間一般では『信じている』っていうんだ。
「お願いします。狭山様、神楽様。どうかあの忌まわしい幽霊を退治して頂けないでしょうか?」
「いや、女将さん……」
頭を下げられても困る。
「このままあの幽霊がお客様を困らせ続けては、先祖代々続けてきたこの旅館は遠からず店じまいを余儀なくされてしまうでしょう。そうしたら……」
「……そうしたら……?」
「お一人様2泊3日で3万5千円です」
「よしいいか!! なんとしても今日中に見つけるぞ!!」
「「お、おぉーーー!!」」
山の中、運命を一つにした男女の戦いが幕を開けた。
響・智「ちょっと待ってください」
葵「あら響。どうしたの?」
響「どうしたの、じゃねーよ! 結局1度も出番ねーじゃん!」
満「まぁ桜乃センパイですからねー」
響「ノオォォォォォォ!!」
直「……言っておくが父さんに文句を言う資格はないぞ」
智「何故だ! 私はちょっとスキンシップをはかろうとしただけだというのに!」
死「完全なセクシャルハラスメントだな」
さてさて皆さま、おつかいRPGみたいになってきました今回のお話、いかがでしたでしょうか?
実は今回旅行させた一番の目的がこれですので、どうかお楽しみいただければ幸いです。
ではでは、次回をお楽しみに〜!