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第107話:厄神様はかく付き添い

ごぶさたしております、ガラスの靴です。


さてここで、十二支は時刻を表すものとして使われることがあります。

一番最初、子の刻が前日の23時〜1時(0時〜2時という説もあり)、続いて丑の刻、寅の刻、と2時間単位で進んでいきます。


すなわち、丑の刻参りとは、深夜1時〜3時に行われるものであり、丑三つ時とは、2時間をさらに30分ずつに分けた内の3つめ、つまり2時〜2時半となります。


以上、豆知識でした。


では、第107話をどうぞー。

――ツン、ツン。

「……おき……、な……」

 怪談大会もそれなりの盛り上がりを見せ、丑の刻になってようやくお開きとなった。

 明日は相当辛いだろうなと思いつつ眠りについてどのくらい経っただろうか、何かが布団を通して俺をつついている。

「……な…き、…きろって言ってんでしょ!」

「あだっ! 何すんだ――って、藤阪?」

 いつまで経っても起きない俺に業を煮やしたのか、頭を思い切りはたかれた俺が目を開けると、怒っているような困っているような、複雑な表情の藤阪と目が合った。

「布団を踏んだら、じゃなかったのか?」

「今さらそんなこと気にするんじゃないわよ」

 なんとも自分勝手である。それで、こんな時間にどうしたというのだろうか。

「……ちょっと、ついてきて欲しいんだけど……」

「は? どこに?」

「……来れば分かるわよ! いいからさっさと来なさい!」

 布団をはぎとられ、すっかり眠気もさめてしまった俺は渋々藤阪のあとをついていった。

 

 

「で、どこに行くんだ?」

 月明かりの差し込む廊下に出たところでもう一度尋ねる。まさか散歩などではあるまいな。

「…………レ…………」

 レ?

「トイレよ! 何回も言わせんな!」

「だからポカポカ殴るなよ! ……トイレ?」

 なんでわざわざそんなもののために俺を起こすのだろうか。

 ……もしや。

「……お前、さっきの怪談が原因だろう」

「なっ!? なに言ってんのよ!! そんな訳ないじゃない!!」

 では何故俺が起こされなければならんのか、合理的な説明を聞かせてもらおうか。

「……煩い! いいからさっさと行くわよ!」

 やれやれ、少しばかり意外だな。自分から『行く』と言っておきながら俺を前に立たせる藤阪がやけにちぐはぐで、苦笑いしながらトイレに向かった。

 俺はその時失念していた。

 藤阪は、怪談大会の間一言も口をきいていなかったことに。

 

 

 廊下を進むと、やがて月明かりの差し込む渡り廊下のような場所に出た。俺達の部屋からトイレは結構遠いのだ。

「……舞の話、本当なの?」

「知らん。でも、あいつは時々嘘か本当か分からないことを言うからな。あまり本気にとってると振り回されるぞ」

 実際の幽霊がどんなものか知ったら、こいつはどんな顔をするのかね。

 と、その時。

――ヒック……ヒック……

「…………聞いた?」

「……何を?」

 とぼけても無駄なのは明らかだった。2人同時に立ち止まる。

「……嘘でしょ……?」

 ギュ、と俺の腕を掴む手に力が入る。

――ヒック……ヒック……、ニクイ……

 これはどうしたことか。

 幽霊ってのはみんな小夜みたいな奴かと思ってたが、やっぱりこういう怨霊もいるのか。

 俺はまだそんなことを考える余裕があったが、こいつは駄目だった。

「なんなのよぉ……」

「お、落ち着けって。どうせ空耳――」

――ニクイ……ニクイッ……ッキャアアアアアア……!!

 耳をつんざくような、とはまさにこのことを言うんだろう。思わず顔をしかめる程の絶叫、そして静寂。

「……何なんだよ……?」

 ぺたん。

 腕が引っ張られ、その方向へ首を向けると、藤阪がへたりこんでいた。

「何、やってんだ?」

「……こし……ぬけた……」

 なんてことだ。

 

 

「お前、そんなに怖いなら先に言えよな」

「だっ、だから言ってたじゃない!」

 いや、聞いてないし。

 なんとかトイレに辿り着いた頃には、藤阪も落ち着いていた。

「じゃ、さっさと済ませてこい」

「……あ、うん……」

 それっきり藤阪は動こうとしない。

「……今度は何だ?」

「……あ、あのさ、ちゃんと、いてくれるよね?」

「…………」

 仕方がない。俺は扉近くの壁にもたれかかり、早く行って来いと促した。

「……ねえ、いるの?」

「いるって言ってるだろっ。いいから早くしろ!」

「い、いるんだったらなにか話しなさいよね! いなくなったかと思ったじゃない!」

 状況が状況なので、極力何も話さないようにしたのに、人の厚意を何だと思っているんだ。

 一瞬、さっきの怪談話をもう一度聞かせてやろうかとも思ったが、流石に冗談じゃ済まない気がしたのでやめておいた。

「ネーベルのこと、どう思った?」

「ん? まぁ、最初は驚いたけど、別にそれならそれでいいんじゃない? 静流あたりが困るだけでしょ」

 あまり気にしてはいないらしい。なら助かる。

「……ところで、長くないか?」

「煩い! デリカシーがないわね!」

 ここまで連れて来ておいてデリカシーも何もあったものじゃないがな。

「そもそもあんたねぇ――」

――ヒック……

「――……う……そ……」

 ……何もここで来ることはないだろう。壁から身を起こし、藤阪が中にいる扉を背に渡り廊下を見る。

「……直樹……あたし……」

「心配するな、俺がここにいるんだ。お前は中に隠れてろ」

 ざわざわと、周りの木々が音を立てる。そのざわめきに隠れるように、すすり泣きが近づいてくる。

――ニクイ……ニクイノ……

「誰が憎いんだよ、こんな回りくどいやり方でどうにかなるのか?」

――……ナルワ……ダッテ……

 驚いた、会話が成立するとは。

――ニクイノハ……

 一瞬、強い風が吹き、思わず目を閉じる。

 そしてもう一度目を開くと、眼前に浮かんだ女の生首と目が合った。

「……えーと……もしかして……」

――ニクイノハ……オマエダアアアアアア!!

「俺かーーー!?」

 生首が叫びながら迫ってくる。ここにきてようやく俺は危機感を覚えた。非日常に慣れすぎるのも考え物だね。

――……!!

「……っ!?」

 その時の情景を、俺はうまく言葉にできない。

 迫りくる生首は、粉々に砕かれたガラスのように、あるいは風に吹き消された砂山のように、とにかく俺が呆気に取られている間にかき消えていた。

「……なん……だったんだ?」

 ふと足元を見ると、どこかで見た覚えのあるクナイが転がっていた。

 ……明日、怒られるかもな。

 そんな不安を抱えつつ、俺は藤阪の入っているトイレの扉を静かにノックした。中からガタガタ、と音がする。

「俺だ。終わったぞ」

「……ほんとに?」

 当たり前だ。

「……あの、さ――」

 

 

 藤阪は今、俺の背中におぶられている。うまく歩けないとかなんとか言って、楽するつもりじゃなかろうな。

「……あのさ、怒ってる?」

「あん? なんで?」

「……だって、こんなことに付き合わせちゃって」

 こんなの今に始まったことじゃないだろ。まぁ今回は若干いつもと勝手が違ったが。

「少なくとも、楽ではないな」

 俺のその答えに、背中がビクリと震える。

「……ただまあ、そういうのも全部ひっくるめて、楽しいよ。俺は」

「……ほんとに?」

 この問いを聞くのは今日何度目だろう。

 こいつらしくない、と言うのは簡単だが、それは俺の勝手なイメージの押し付けだ。真剣に問いと向き合う。

「嫌なことを黙ってやるほど俺は『いい人』じゃないんだ。そのくらい知ってるだろ。ま、こうしてお前のワガママに付き合うのも悪くないしな」

 一息にまくしたてる。後ろは見ない。柄じゃないな、と感じながら視線を彷徨わせていると、後ろでクスッ、と笑い声がした。

「……ばーか。あんたいつの間にそんな生意気なこと言えるようになったわけ?」

「そうだな、お前が腰を抜かした時からかな」

「……忘れろっ!!」

「痛っ! お前、この状況で殴るのは反則だぞ!?」

 この瞬間が、とても心地よい。

 どちらからともなしに笑い出した俺達を、月が静かに照らしていた。

満「……誰ですか? これ」

葵「ああああああんたなに見てんのよ!? いいからとっととどっか行きなさいよね!?」

静「あらあら、流石の藤阪さんにも苦手なものがあるのねぇ?」

葵「うるさーーーい!! あんた、絶対いつかの仕返ししてるでしょ!!」

響「……何やってんだか……」



というわけで、怪談やってるとお化けって近づきやすくなるらしいねという第107話でした。


藤阪さんにもこんな一面があっていいかな、と思って作った回なのですが、若干やりすぎてしまったかなーという気持ちもあったり。

とりあえずすぐ近くの知人に見せたらすこぶる好評だったのでこのまま投下しました。


さて、次回からいよいよ2日目です。

といってもあんまりイベントはありません。

2日目と3日目合わせて1日目と同じくらいかな?


ではでは、次回をお楽しみにー!

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厄神様とガラスの靴
こっそり開設。
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