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第106話:厄神様はかく恐れり

というわけでこんにちは、ガラスの靴です。


さて、現実時間にじわりじわりと追いつかれつつある作中時間。

現在は7月も半ば、16日の土曜日深夜です。

16、17、18日の2泊3日の今回の旅、最大のイベントは2日目に起こる予定です。


では、初日最後のイベント(の伏線)をお楽しみ下さい。

「まさか、同じ部屋で寝ることになるとはな」

「し、信じられないわ……」

 部屋に戻るとそこには全員分の布団が綺麗に敷かれていた。

 ……そう、全員分。

「申し訳ございません……。配慮が至りませんでした……」

「なに、構わないさ! 広い部屋で雑魚寝! これこそ学生旅行の醍醐味というものだよ!」

 隣では宿の女将さんに神楽が適当なことを言っていた。趣旨自体には同感だが。

「あんたたち、布団の端っこでも踏んだら死刑だから」

「なーに過敏になってんだよ。これだから自意識かじょ――」

 無神経な発言をした顎を藤阪の後ろ回し蹴りで砕かれた桜乃。

 崩れ落ちた屍を踏み越え、それぞれ自分の布団に荷物を置いた。

「やや、風呂からあがったら皆帰ってきた上に美しい女将さんまで。流石、和服が似合いますね」

「は、はあ……。ありがとうございます……」

 一番の不安要素は父さんだろうなと思いながら、俺達はトランプをして過ごした。

 

 

 で。

「さてそれでは只今から夏の怪談大会を始めよう!」

「「おーーー!!」」

 局所的にハイテンションな午前0時。本当に怪談が始まってしまった。

「神楽はいいとして、なんでお前たちまでそんなテンション高いんだ?」

「だってお前、夏といやー怪談だろ! それにこうやって皆で集まるのも楽しいしな!」

「そうですよー。センパイもこれを楽しむくらいの心のゆとりを持たないと」

「ゆとり、ねぇ……」

 ならこの集団はさぞかし現代社会に揉まれているんだな。

 後ろを見る。

「……藤阪さん、私はもう疲れたわ」

「珍しく同意見ね。あたしも早く寝たいわよ」

「人数が足りませんね」

「玉藻は寝かせた。ネーベルは外へ遊びに行った」

「わたしも眠れるなら眠りたいです……」

 概ねやる気なし。あまりの結束感に涙が出るね。

「ちょっと待て、直樹。ネーベルさんは外へ? いかんな、いくらなんでも危険だ」

 それまで黙っていた父さんが口を挟んだ。たまにはまともなことを言うんだな。

「ここにいる保護者は私だけだ。安全に旅行を楽しんでもらう責任がある」

 そう言うと父さんは部屋を出た、いや、出口で止まって振り返る。

「……それに、もし何かに襲われているネーベルさんを助ければ色々と……」

「帰れーーー!!」

 ……やっぱり最低だ。

「さて、では気を取り直して! 最初は誰かね!?」

「はいはーい! まずは私からー!」

 最初に話を始めたのは辻だった。

 

 ――これは私じゃないんですけどね? ある女の人がブログを始めたんよ。

 そうしている内にやがてある男性からメールが来ました。『愛しているよ』と」――

 

 今のところ怪談に繋がる気配はないな。

「わかった! その男が実は死んでた!」

「ブー、外れでーす」

 いつの間にクイズになったのやら。

 

 ――それで、最初はその女性も適当に返事をしていました。

 でも、男のメールは止むことがなく、いい加減にうんざりした女性は『もうメールしないで』と返しました。

 そしてその時から事態は一変したのです。

 彼女のパソコンには脅迫じみたメールが届き、やがて携帯にも無言電話が。

 家のファックスからは『お前はもう逃げられない』と住所の書かれた紙が送られてきます。

 怖くなった彼女は引越しを決意し、荷物をまとめているとき、見てしまったのです。リビングの至るところに仕掛けられた隠しカメラを――

「ストーップ!!」

「あれ? ダメですか? 結構いいと思ったんですけど」

 それは怪談ではない。

「う、うーん……、1人目から随分とインパクトの強い話だったね……」

 強すぎるわ。見ろ、松崎なんて涙目だぞ。

「次はもう少し怪談らしいものを聴きたいね。誰かいるかな?」

「よっしゃあ! 次はオレだー!」

 桜乃が立候補した。

「これはオレの友達が実際に経験した話なんだけどな……」

「お前に友達なんていたっけ?」

「チャチャを入れないでくれませんかねぇ!!」

 いいから話せ。

「畜生……覚えとけよ……」

 

 ――ある大学生のAは友人Bのアパートで行われた誕生日パーティーに出席したんだ。

 Aさんは一晩中騒ぐつもりだったが、アパートという場所の関係上それは駄目だとBに言われて、、ま、それでも夜中まで騒いでパーティーはお開きになったんだ。

 ほろ酔い気分で自宅に帰る途中、Aはある重大な事実に気付いた。自分のケータイを忘れたんだ。

 明日返してもらおうかとも思ったが、ここからなら直接戻った方が楽だろう。

 そう思ったAは踵を返してBのアパートへ向かってったんだ。

 そうしてアパートに着くと、Bの部屋の電気は消えていた。

 Aは祈りながらドアノブを回した。

 するとなんとそのまま空いてしまったんだ。

 いくらAでもその勢いでずかずかと部屋に踏み込むのは躊躇われたので、「Aだ、ケータイ忘れたから探してくぞ」と小声で断りを入れ、Bを起こさないように電気をつけず手探りで中へ進んでいった。

 テーブルの上をペタペタ触っていたAは首尾良く自分のケータイを見つけ、「見つけたよ、邪魔したな」と言い残してアパートを出たんだ。

 んで翌日、Bは大学に現れなかった。

 AはてっきりBが二日酔いで寝てるのかと思い、からかってやろうとアパートまで行くと、そこにはパトカーが多数停まっていた。

 不思議に思ったAは近くの警察官に事情を尋ねると、なんとBは死んだらしい。

 「あなたは前日に友人たちとBさんの部屋を訪ねたらしいですね。ならあの文字について知っているかもしれない。見てもらえませんか」

 何のことか分からなかったが、とりあえず言われるまま部屋に入っていった。

 部屋は血まみれで思わず目を覆いたくなったが、警察官に指し示された壁を見た瞬間、Aは恐怖のあまり瞬きすら忘れてしまった。

 ……そう、そこにはBの血でこう書かれていたのだ。

 『電気をつけないでよかったな』と――

 

「……どうだ? 怖いだろう?」

「あわわわわ……」

 小夜が涙目で腕にしがみついている。それを見る碧海の目が若干険しくなったのがいたたまれない。

「……ところで桜乃さん、私は以前似たような話をテレビで見た覚えがあるのですが」

「……え?」

 桜乃がギクリとした表情になる。

「そういえば、私も以前クラスメイトが同じ話をしているのを聞いた覚えがあるわね……」

「へ、へぇ〜……、ぐ、偶然だなぁ〜……」

 桜乃の目が明らかに泳ぎ出してきた。

「……お前、どっかから話をパクっただろ?」

「んな!? な、なに言ってんのかなー君は!?」

 やはり図星か。どうせそんなことだろうと思ったが。

「さて、次は誰かな!?」

「私でよろしければ」

 トリックを見破られて消沈した桜乃を放って、市原が挙手した。そのままぽつぽつと話し始める。

 

 ――平穏な生活を営むAさんはある日、温泉旅行へ出かけることになりました。

 夜中にふとトイレに行きたくなったAさんは不吉な話を思い出してしまいました。

 『この旅館は呪われている』と。

 夜中になるとどこからか女性のすすり泣きが聴こえてくる。その泣き声は段々と近づいてきて、それがすぐ後ろまで聞こえるようになると……

 それを思い出してしまった彼女は急いでトイレへ向かいました。

 しかし……

――シクシクシク……

 聴こえてきてしまったのです。呪いの泣き声が。

 恐ろしくなった彼女は早足でトイレへ向かいますが、泣き声はどんどん近づいてきます。

 そして、

――ニクイノ……ニクイノ……

 首のすぐ後ろから、泣いていた声が話しかけてきました。

 彼女は泣きながらトイレに入り、鍵をかけました。

 すると声はやがて小さくなり、安心した彼女が扉を開けようとした時。

――ニクイノ……ニクイノ……

 頭上から、声。

 震えながら、ゆっくりと上を見ると、トイレの扉を乗り越えて、髪の長い女性が覗き込んでいたのです。

 目を背けることができない彼女に、その女は語りかけます。

――ニクイノ……ニクイノハ……

 

「お前だぁ!!」

 

「…………きゅう」

「お、おい松崎!? おーい!?」

 物凄い剣幕で指をさされた松崎がぷっつりと気絶した。なんだ今の迫力は。

「ま、舞ちゃん、そんな声もだ、出せるんだぁ……」

「僕も流石に驚いたよ……」

「恐縮です」

 ところが、こんな話の後でも呑気に茶をすすっている奴がいた。死神だ。

「おい死神、お前も少しは怖がれ」

「そうだよ黄泉君! 君が怖いと思った話を聞かせてくれないかね!?」

「ほら、お前は何が怖えんだよ!?」

 よってたかって迫る俺達に従い、死神が厳かに口を開く。

「熱い茶と饅頭が――」

「……それは松公だ」

 おあとがよろしいようで。



舞「という話を先程聞きました」

直&響「「ここの話かよ!?」」

小「よ、黄泉さんはお茶とお饅頭がお嫌いだったんですか!? す、すみません! 今まで気がつきませんでした!」

黄「……いや、構わない」

凛「……お前たち、元気だな……」

 

 

さてさて、というわけで怪談大会でした。

最初の辻の話はもちろん現実に犯罪ですので、お気をつけください。

桜乃の話は完全に定番の怪談。

よく『電気をつけたら』なんてタイトルがついていた気がします。

で、舞の話は完全にオリジナルです。

にも関わらずどこかで聞いたような匂いがプンプンするのは偶然の一致ということでお見逃し下さい。

オチは絶対あれと決めていたので満足です。

言い残すことはありません。


ではでは、次回、真の初日最後のイベントです!

さようならー!

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厄神様とガラスの靴
こっそり開設。
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