第104話:厄神様はかく跳ねりき
どうもこんにちは、ガラスの靴です。
若干嘘予告になってしまった今回のお話ですが、まぁ気にせずどうぞ。
「まったく、一時はどうなることかと思ったぜ」
「誰のせいだと思ってるんだ」
「あんたのせいもあるじゃない」
夕食後、まだ少し痛む体をなだめながら桜乃たちと旅館内を散策する。本気で殴ったなお前。
「それにしても、本当に夏ねぇ」
「夏だよなぁ」
なんなんだお前らは。
「だってほら、見ろよ。もうメシ食ったってのに、まだ日が沈んでねえんだぜ?」
確かに、気がつけば随分と日が長くなったもんだ。夜になってからもう一度風呂にでも入るかな。
「あー! いたいたー! センパーイ!」
「どうした辻」
「神楽センパイが、集合しろーって」
どうやら我らが神様がまたしょうもないことを考えたようだ。
「卓球をしよう!」
「……はあ」
「随分と唐突ですね」
もはや定番となったこの脈絡のない呼びかけ。それにしても温泉で卓球とは、いくらなんでも安直過ぎないか?
「せっかく台とラケットとピンポン球があるんだ! ここでやらなければ失礼というものだよ!」
誰にだ。
「まぁいいじゃん。それじゃ早速始めようぜ!」
自信満々でラケットを手に取った桜乃。その手が指した挑戦相手は――
「どちくしょおおおおおお!! なんで勝てねぇんだああああああ!?」
「……いや、まぁ、気にするな」
「凛さんは本当にお強いですね……」
恐らく高校生というくくりで見るのが間違っているんだろう。
「よーし狭山。こうなりゃペアだ。ダブルスで挑んでやるぜ!」
「そうそう、負けた人は皆が試合を終えるまで次の試合は出来ないよ!」
「なんでだよ!?」
その方がみんな参加できるではないか、と神楽。
「ば、バカな……! このオレが……! 卓球がしたいのに……!」
訳が分からんな。正直言って同情できん。
「さて、では次にやりたい人はいないかね!?」
「センパーイ! やりませんかー?」
なぜ俺なんだ。碧海あたりにぶつかって玉砕してこい。
「うーん……。それじゃ〜碧海センパイ! 勝負です!」
「あ、ああ……」
いやにあっさり引き下がったな。意外だ。
「あと藤阪センパイ」
「なによ」
「私とセンパイがペアなんでー、藤阪センパイと碧海センパイがペアでお願いしますねー」
「……ほう」
「……成程ね……。なかなか面白そうじゃない」
……前言撤回。薮蛇だ。
「うーむ、あの2人がまさかああも結託するとは……誤算でしたねー」
何が誤算だ。試合中にポンポンぶつかりおって。そしてその度に俺はあの場から逃げ出したいのを必死に堪えたんだぞ。
「いやー面白かっ、エヘン、惜しかったですねー」
……確信犯か。
さて、負けたら暫く試合に出れないというルールに則り、少しばかり他の皆を見てみることにした。
「こ、こうやって打つのよ」
「なるほど、わかりました」
「おぉ、お主、意外といい奴じゃの!」
試合用とは別に設けられた卓球台では、松崎が2人に卓球のやり方を教えていた。どうでもいいがペンをシェイクで握るのはまずいんじゃないか?
「さぁ行くよ黄泉君! 正義の力を受けるがいい!」
「来い。その希望を絶望に染め変えてやろう」
試合は馬鹿どもがもっと馬鹿になっているだけだった。藤阪や碧海なんかが苦笑いを浮かべながらそれを見ている。
「皆さん、楽しそうですねー……」
「お前も市原の体でも借りてやればいいじゃないか」
「わたしは運動はそんなに得意じゃないですから。それに、舞さんも楽しそうですし」
ふむ。
「神楽さん。お相手願います」
「むぅ! すまない黄泉君! 僕には負けられない理由ができてしまった!!」
「構わん。捻り潰してくれる」
……楽しそう、だな。
「本当に皆さん、楽しそう、で……」
「どうした?」
小夜の視線をたどってみると。
「ふ……ふふ……、オレのサーブを受けてみやがれぇ……」
「うわ……」
キノコが生えてそうな程湿った奴が壁に向かって素振りをしていた。
「よぉ……狭山……」
「あ、ああ」
「オレもお前も負け組……仲良くしようや……」
近寄るな鬱陶しい。
「ふ……ふふ……卓球……」
スポーツの禁断症状みたいだな。健康的なのやら病的なのやら。
「……ん? そういやネーベルは?」
「あれ? いませんね……?」
てっきり全員揃っていると思っていたんだが、姿が見えない。
「ああ、ネーベルちゃんならさっき『気分が悪くなりそうだから帰るの』なんてトンチンカンなこと言って部屋に戻ったぞ」
『なりそう』……?
……まさか。
「随分と退屈なゲームをしているじゃないか」
神楽がサーブを打とうと球を上げた時、部屋の入口から声がした。
「ね、ネーベルさん……」
「やっぱり……」
「やれやれ、相棒め。部屋に逃げ帰ればこの私が大人しく寝ているとでも思ったのかね」
紅の瞳を輝かせた悪魔が笑みを浮かべて立っていた。
「あれー? ネーベルさん、なんだかずいぶん雰囲気変わってませんか?」
「……どうした? 『ミッキー』?」
「んなっ……!?」
いかん、いかんよこれは。
「ふ、ふふ、ネーベルさん、随分とご機嫌ですねー? 私もなんだか一緒に笑っちゃいそうですよー!」
辻、笑顔なのはいいが口の端がひきつってるぞ。
「……ふむ。何か不満な点でも?」
「いえねー? ただなんとなく、先輩への敬意が足りないような気がしますよー?」
お前にそんなもん語る資格はねえよ。
「なんだ、そんなことか、ミッキー『先輩』? これで満足いったかい?」
「……どうやら、話だけではわからないようですねー……」
やめとけ辻。お前じゃ敵わん。色々とな。
「止めないでくださいセンパイ! 私の尊厳とかが色々ピンチなんですよー! それをみすみす見逃せって言うんですかー!?」
ええい煩い。今のネーベルには何を言っても勝てないんだよ。お前もいい加減――
「――と抗議するふりをして喰らえセンパイアターック!!」
「人を投げるなあああぁぁぁぁ!?」
「ふん」
――ぱこーん!!
「……あ、あのー? 直樹さん? 大丈夫ですか?」
「……こういうのは桜乃の仕事じゃないのか……」
あろうことか人を武器に使いやがった辻もさることながら、それを無造作にラケットで打ち返したネーベルにも色々と言いたいことがあるな。
「こんなもので私を倒せると思ったか」
「うーん、やはりセンパイ程度じゃ攻撃力に欠けますねー」
「……って、ちょっとあんたら何なのよー!? いやそうじゃなくて、いややっぱりそれもあるんだけど、ネーベルあんたはどうしちゃったわけー!?」
その時、藤阪が凍りついた状態からようやく解き放たれた。物の見事に恐慌状態に陥っているが、事情を知らない一般人にしては相当な回復の早さだ、と感心したくなる。
ところがまあ、そう呑気に構えてもいられないわけで。
「お初にお目にかかる。私はネーベル=フォン=カルンシュタイン。カルンシュタイン家の1人娘さ」
「1人娘だぁ……?」
「どういうことよ……?」
……ややこしくなってきた。
というわけで卓球のお話でした。
といっても卓球の描写はほぼ皆無です。藤阪vs松崎なんて入れても面白かったかもしれませんが、あんまり描写がくどくなるのも何なので今回はカット。
ネーベル(夜)が少しテンション高いのにはちょっとした事情があります。
それは後々。
なんやかやで繋ぎみたいな感じになってしまった今回ですが、とりあえず次回をお楽しみに〜!