第103話:厄神様はかく入浴し
というわけで復活のガラスの靴です。
どーも風邪が治らないんですよねー。じゃあ復活じゃないじゃんとかそういうのはとりあえず置いておきまして。
別に体調不良で起き上がることもできない訳ではないのでここの更新にも本来なんら影響を及ぼさないはずなのですが、どうしても気力がそがれてしまいまして。申し訳ありません。
連続モノの真っ最中ですので、これからはできる限り早めに更新するようにします。
では、どうぞー。
「ややっ!? これは一体どうしたことか!? 私が息子に蹴落とされてから帰ってくる間に女性が増えている!!」
「男も増えてんだけど。相変わらずだなオッサン」
「これはこれは! お初にお目にかかるよ父君! 僕は直樹氏の親友の神楽龍一さ!」
「おやこれは珍しい。お嬢さんはどちらの出身かな?」
「……? ここ?」
「とりあえず話がややこしくなるから父さんはこれ以上喋るな」
「――つまり、旅館の宿泊費が無料だと聞いて飛んできた、と……?」
「その通りだよ直樹氏! 生徒会長としてこのような面白いイベントを放っておけるはずがあるまい!」
今さら訊きたくもなかったが、一応礼儀としてなぜここにいるかを神楽に訊いてやったら案の定訳の分からない返事が返ってきた。一体どの段階で聞きつければこんな早くに到着できるのか聞いてみたいものだ。それから今回の旅行と生徒会長は何の関係もない。
「で、お前らは?」
一緒についてきた桜乃たちに尋ねる。
「神楽に連れてこられた」
「私もそうよ。行き先とメンバーが分かっていれば丁重に断ったのだけれどね」
「お屋敷にいたらリュウが迎えに来たの」
「ちなみに私は最初から同伴させていただきました」
分かった。もういい。丁寧な説明ありがとう。
それにしても、これで殆どいつものメンバーと変わらなくなってしまった。別に悪いことじゃないからいいんだがな。
「さて、直樹」
……唯一の問題はこの親の存在か。
「私は一足先に温泉に入ってくる。お前たちも入るなら早めのほうがいいぞ」
「お?」
なんだ、てっきりまた頭の悪い発言をするのかと思いきや、勝手に温泉に入りに行ってしまった。これで心配の種が一つ消えたな。
「さて、それじゃ俺達もせっかくだから温泉に――」
「直樹。待ちなさい」
入ろうか、と言おうとしたら藤阪に止められた。何か問題でもあるのだろうか。
「まぁ、すぐに分かるわよ」
「……?」
5分後。
「申し訳ございませんお客様。お連れ様が男湯と女湯を間違えられまして……」
「い、いや、はっはっは、私としたことがうっかりして――」
「いっぺん死んで来いやーーー!!」
――チャポン。
「うむ!! やはり露天風呂というのは良いものだ!! そうは思わないかね直樹氏!!」
「頼むから静かにしててくれ……」
空前絶後の愚か者を葬った後、俺達は改めて風呂に入ることにした。温泉は露天風呂になっていて、昼は新緑の山々を眺めながら、夜は輝く星に照らされながらじっくりと浸かることができる。
「どうやらここは炭酸水素塩泉に分類される泉質のようだな。効能は疲労回復、皮膚病治癒、美肌効果といったところか」
「黄泉センパイ、美肌効果って本当ですかー!? じゃーたっぷりつからなきゃですねー!!」
なんで浸かっただけで泉質なんかが分かるんだよ。
ちなみに死神の言葉に辻が反応しているが、決して混浴などではない。当たり前だ。
ではなぜお互いの声が聞こえるかというと、簡単な話で、板の壁一枚挟んで隣が女湯だからだ。手抜き設定にも程がある。
「あー……、気持ちいいですねー!」
「い……市原さん、今日は随分と機嫌が良いのね」
別に聞き取ろうと思っているわけではないのだが、向こうの声が勝手に耳に入ってくる。
勘のいい皆様はお気づきかもしれないが、市原は例のアレだ。
「あいつももう少し自然な発言をしろよ……」
「そもそも自分が入浴できているという状況で興奮しきっているのだろう。そこまでさせるのは酷というものだ」
そう、市原は今小夜に体を貸している。つまり今ここで温泉に入っているのは実際には小夜というわけだ。
「小――じゃない市原、玉藻をしっかり頼むぞー」
「はい、わかりましたー」
「いやじゃー! わらわはわらわの入りたいように入るのじゃー! なにゆえ体など洗わねばならぬのじゃー!?」
「ダメですよ玉藻さん、しっかり体を洗ってからでないと、他の人に迷惑がかかってしまいます」
「いーやーじゃー!!」
……恥ずかしい。知り合い以外誰もいなくてよかった。
「そういえば、ネーベルはどうしたんだ?」
「ネーベルならあとで入るからいい、なんて言ってたわよ。どうしたのかしらね」
てっきり皆と一緒に入りたがるかと思ったんだがな。
「……吸血鬼の弱点は、お前に教えた筈だが」
「後ろに回りこむな、顔を近づけるな、耳元で囁くな気色悪い!」
死神を蹴り飛ばしながら思い巡らす。吸血鬼の弱点?
「水には霊的に清めの力がある。悪魔は水を恐れるものだ。中でも吸血鬼は特にな」
そういえば吸血鬼は水を渡れないんだったか。雨の日なんかは大変だろうな。
「……というか、玉藻は? 小夜は?」
「妖怪は悪魔と違う。幽霊に関しては不明だ」
いいのかそんな曖昧で。
「ふぅ……」
しばらく温泉に入り、いい感じに体が温まってきた。そろそろ出るか。
「おい桜乃、俺はもう出る…………何してんのお前?」
「シッ!! 静かに!!」
風呂に入っている間、不気味なくらい大人しかった桜乃は温泉の端のほうで何かをしている。
「……お前、まさかとは思うが」
「バカだなお前、露天風呂だぜ? 男湯と女湯だぜ? やることっつったら1つしかねーだろ!!」
バカはお前だ。
「お前、向こうに誰がいるのか分かってるんだろうな。ばれたら殺されるぞ?」
「へっ、この響様を甘く見んなって。誰にも気取られずに目的を達成してみせるぜ」
付き合ってられるか。他の2人と一緒に出口へ向かう。
「だが響氏。この壁は5mを越えている。足場も何もない状況でこの壁を乗り越えるのは容易ではないよ!」
「2人ともあの部分を見ろ。板の切れ目の部分で僅かに男湯と女湯が繋がっている。上手くあの地点に入り込めれば目標達成の糸口がつかめるかも知れんぞ」
「もう本当に頼むからお前らはーーー!!」
なんだ? この世界はいつから常識人と馬鹿の境がおかしくなったんだ? それとも元からこいつらは馬鹿なのか?
「なんだ狭山。敵前逃亡か?」
「らしくないね直樹氏! 立ち向かってこそ君だと思っていたのだが!」
「放っておけ。臆病者にこの戦場はくぐり切れん」
なんだそれは挑発のつもりか3バカトリオ?
「言っておくがな、俺には一応お前らを監督する義務が――」
「お、見ろ! ここから向こう側に行けるぜ!」
「やめろこの阿呆ーーー!!」
全力で桜乃を止めに入る。
「なんだよテメェ、寒い奴」
「阿呆かーーー!! やっていいことと悪いことがあるだろーーー!?」
「うむ、僕が許す!」
「お前はとりあえず引っ込んでろ!!」
「時に狭山直樹」
もうこれ以上相手をするのは疲れた。無視だ無視。
「お前が今手をかけているその板は老朽化で腐っているぞ」
「は?」
――バキィ……ッ!!
水戸黄門の印籠レベルにお約束のタイミングで崩れた板。
それに体重を預けていた俺は万有引力の法則にしたがってゆっくりと転倒していく。
世界が、反転した。
――バタン!!
「……ねぇあんたたち。男湯と女湯が板一枚でしか区切られていないってのは知ってた?」
「……はい」
「お前達の会話は、全て聞こえていた」
そんなオチだと思ったよ。
「とりあえず」
仰向けに倒れて天地が逆転した視界に、事前にタオルを装備していた藤阪と碧海と小夜(in市原)の怒りを押し殺した顔がやたらと印象的に映った。
「死刑」
「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「いやですねセンパイー。言ってくれれば喜んで見せてあげたのにー」
「まったく嬉しくないな」
男が4人並んで転がっている寝室はさぞかし奇妙に見えていることだろう。
俺達がようやく立ち上がれるようになったのは、夕飯の後だった。
響「もうこの際辻ちゃんでも――」
満「ひとり3万円でどうでしょー?」
直「リアルな金額はやめい」
葵「というか、あんた最低ね」
響「ノオォォォォォォ!?」
まぁ温泉といえばこれしかないだろうと。
今回の旅行の目標は「ベタベタ」と勝手に設定しております。
お約束。すなわち王道。
さて、ちなみにキャラ投票はさりげなく継続中なのですが、実は今回の旅行で新顔が増えたり増えなかったりな予感が。
といってもまだまだ先の話なんですけどね。
というわけで、次回はとりあえず夜の帝王の覚醒をお楽しみに。
ではではー!