第100話:厄神様はかく誘い
「ここまできたのも皆さんのおかげです! ありがとうございますっ!」
「唐突だな……」
ではでは、変わらない日常をどうぞ。
人は、時として困難な選択を強いられる。
それは時としてその後の環境を変化させかねない重要な選択である。
そしてその選択は時として自己に責任のない理不尽なものである。
つまり。
「こんなの誰も覚えてないだろ……」
俺は今、いつかの景品である温泉旅行券の処分に頭を抱えているのであった。
ことの発端は昨晩の会話。
「ところで狭山直樹」
「なんだ? いきなり改まって」
食事中に真剣な顔で話を切り出され、思わず姿勢を正す。
「温泉旅行のサービス券の期限が近付いている」
「なに!? 温泉!?」
「なんで温泉なのに期限が夏場なんだ。それから父さんは頼むからピンポイントな反応を止めてくれ」
死神が出してきた券には確かに有効期限が記載されていた。7月末まで有効、と書かれている。
「ふむ……ここの温泉は確か夏場の天の川で有名だったような気がするな」
それで夏に有効期限があるのか。いつの間にかまともになっていた父さんの情報でとりあえず怪しい施設ではないことが分かった。
「それじゃあ、どうせだから皆で行くか」
「宿泊費が無料になる有効人数は5人までとあるが」
5人というのも微妙な数字だな。小夜は入れられないとして俺と死神、玉藻で3人か。
「温泉か……久し振りだな」
「それじゃ玉藻も行くよな?」
「う〜む……。あまりいきたくないのう……」
「私もせっかく日本に帰ってきたんだ、しっかり疲れを取るとしよう」
「でも玉藻さん、温泉はきっと気持ちがいいですよ」
「ならばいく」
「これで3人か。他に候補者はいるのか」
「温泉旅館といえば卓球だな。これでも私は一時期卓球が趣味だったんだ」
「仕方がない、明日の部活で訊いてみるか」
「それがいいだろう」
「あ、あの辻とかいうやつはいやじゃぞ!」
「……そ、それに未成年者だけでの旅行というのも危険だ。きちんと保護者がいなければな」
「じゃ、桜乃あたりでも誘ってみるか」
「そうだな」
――バンッ!!
「なんなんだお前は!? 私はお前をそんな恩知らずの人間に育てた覚えはないぞ!!」
「分かりやすく怒るな!!行きたいなら素直に行きたいって言えよ!!」
で、結局。
「さーて、直樹、タオルを忘れちゃいかんぞ。向こうにないかもしれないからな」
「本当に連れて行くのか」
「わらわはいやじゃ」
「仕方がないだろ。ああ言い出したら引かないんだから」
「どちらがお父さんなのかわからなくなりそうです……」
年甲斐も無くはしゃぎまくる父さんは放っておいて、俺は眠りについた。
「という訳で桜乃。お前温泉行かないか?」
「……それはせめてオレたちがあと20年歳をとってから言うセリフじゃないか?」
言うな。
「で、とりあえず今週末を使って行こうと思うんだが」
「ああ、いいんじゃねーの? 海の日と合わせて3連休だもんな」
学校は休みだから平日に行ってもいいのだが、部活を休むと松崎に何と言われるか分からない。よって2泊3日で行くとしたらそこしかないのだ。
「で、あと何人行けるわけ?」
「1人」
「……なんで? お前の家、そんなにいっぱい家族いたっけ?」
いろいろあるんだ、仕方がないだろ。
「あっそ。……ところでお前、藤阪は誘ったのか?」
「いや、まだだ。というかあまり誘う気がない」
流石に『温泉行こうぜ!』と笑顔で切り出したら引かれるのは目に見えているからな。
「……う〜ん……、ま、藤阪を誘ってくれよ。あいつきっと温泉好きだし、それにオレ実は日曜に予定が入ってるんだ」
そういうのは先に言って欲しかったな。それじゃあと手をあげて去っていく桜乃を見ながら俺は藤阪にどう切り出そうか考えていた。
桜乃が最初からいたかのように吹奏楽部に顔を出していたことは意識の隅に追いやって。
「な、なあ藤阪」
「何よ、気持ち悪いわね」
当たって砕けろ。その言葉を残した古人を信じて俺は無策のまま藤阪に突撃していた。
「お前、俺が事故に遭った後の退院パーティーのこと覚えてるか?」
「え、ま、まぁ……」
なら話は早い。俺は温泉のチケットを取り出した。
「これが期限もうすぐなんで早いところ使いたいんだ、一緒に行かないか?」
「……は? え? なんで?」
まぁ当然の反応だろう。俺だって桜乃からいきなり温泉に誘われたらそんな反応をする自信がある。
「いや、死神が当てたやつ。どうする?」
「あ、あんたらで勝手に行ってきなさいよ! あたしは行かないわよ!」
残念だ。神楽を誘うのは癪だし、もしもいたら碧海にでも訊いてみるか。
「分かったよ。邪魔して悪かった」
「え? あ、ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
教室を出ようとする俺を藤阪が呼び止める。何かあるのか。
「……その、あ、あんたたちがどうしてもっていうんならあたしだって行かないこともないわよ。どうしてもっていうんなら」
何を言っているんだこいつは?
「……行きたいのか?」
「ば、何言ってんのよ! そんなわけないじゃない!!」
ほほう。面白い。なんかからかいたくなってきたな。
「いやーでもやっぱり行きたくないって奴を無理に連れてくのはよくないからな。他の奴を当たってみる」
「い、いや、だから!」
「そうだなー。それじゃあ碧海でも誘ってみるか! あいつにも普段世話になってるし――」
「……へぇ」
……おや?
「……藤阪、さん?」
「あら? なにかしら? 行くならとっとと凛のとこ行きなさいよ」
調子に乗りすぎるとろくなことがないという事例に最適ではないかな。そんな現実逃避的なことを考えてしまう程の威圧感が俺を襲う。
「ほら、凛を誘うんでしょ? 早くしないといけないんじゃない?」
「い、いやぁ、冗談、ってのはどうだ?」
「まったく面白くないわね」
誰かタスケテ。
――ガラッ!
その願いが通じたのか、教室のドアが開く音がしたかと思うと、桜乃がこちらに歩み寄ってきた。
「何よ響」
「い、いやー悪い悪い! ちょっと調子に乗ってただけなんだよ! な!?」
「あ、ああ!」
「つーわけで今週末に行くから! ちゃんと来てやれよ! それじゃオレはちょっとこいつと話があるから!」
「あ、ちょっ――」
そのままドアを閉めてダッシュ、階段まで来てやっと一息つく。
「お前なぁ、言っていい冗談と悪い冗談があるっつーの」
「あ、ああ……? 悪かった……?」
なんであれが禁句だったのかいまいち理解できなかったが、とりあえず素直に従っておく。
「それにしても、よりにもよって碧海を誘うだなんてまったく――」
「……そ、そうなのか?」
…………。
後ろを見ると、碧海が驚いているのか何なのか複雑な表情で立っていた。
なんでこういう時に限っているんだ。
「よ、よう。……話、聞こえてた?」
「あ、ああ」
さて問題はどこから聞いていたかだが。
「わ、私は問題ない。温泉は楽しみだ」
どうも一番厄介な部分だけを聞かれてしまったようである。
「いや碧海、これには結構深い事情があってだな――」
「楽しみにしている。誘ってくれてありがとう。それでは私はまだ練習があるから失礼する」
「…………」
行ってしまわれた。
そして当日。
「……へぇー、凛も誘われたの?」
「温泉は元々好きだからな。それに狭山の誘いだ。断るわけにはいかない」
「……あの、何があったんですか?」
「わ、わらわは、帰ってもいいのじゃろうか?」
「最悪の組み合わせだと思うが」
メンバー。
俺、小夜、死神、玉藻、父さん、藤阪、碧海。
集合の時点でこの俺の脳裏に浮かんだのは不安の2文字だけだった。
神「という訳で、第1回キャラクター人気投票を行おうと思う!!」
直「ちょっと待てーーー!!」
死「応募方法は簡単だ。この小説の感想か作者のブログに自分の好きなキャラクターを書けばいい」
市「ちなみにお1人様2票です。2キャラクターに入れるのも1キャラクターに集中して入れるのもご自由にどうぞ」
直「話を聞けーーー!!」
というわけで皆様よろしくお願いします。
今まで感想を送ってくださった方は勿論、これまで送ったことがないという方も、キャラクター名だけ書いて評価とかも適当にして名前も『投票』とかにして送ってくれるだけでいいのでよろしくお願いします。
まぁそれでも集まらないだろうと踏んで1人2票という形にしていますが。
ちなみにここまで更新が遅れてしまったのは『長編は一気に書き上げてから出す』という無謀な挑戦をし、しかも失敗したという最悪のケースから起こった不慮の事故です。
本当にごめんなさい。
ではでは、本っ当に人気投票よろしくお願いします!
『集まりませんでした』という事態を防ぐのは貴方様の清き一票です!
濁った一票も可!
ではではー!!