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第9話:厄神様はかく驚き

再びのんびりします。

新キャラ登場です。

「――さて、来週には生徒会長選挙が行われます」

 週明けの学校。今日も教壇の上で担任が連絡事項を伝えている。そういえば来週は選挙だったな。忘れていた。

「それに先立って、この時間を使った政権放送が行われますので聞いて下さいね」

 担任がそう言うと間もなく、ガガ、というノイズとともにスピーカーから音が聞こえてきた。

『……えー、テステス。こちら放送委員、こちら放送委員。ヒューストン応答せよ、ヒューストン応答せよ』

 ……うちの学校の放送はNASAにまで繋がっていたのか。

『ヒューストンどうした! 応答してくれ! このままでは……え? 教頭が? 烈火のごとく怒り狂って接近している? ……では皆さん、これから政権放送を開始します。よく聞いて、来週の選挙の参考にして下さい』

 真面目にできるなら最初からしろ。

 そうして何人かの候補者がセーターを学校指定のもの以外でも着れるようにするとか、文化祭を盛り上げるとかいった非常にみみっちい公約を含んだ演説をし、残るは最後の一人となった。

『――では、最後に、現生徒会長の神楽龍一(かぐらりゅういち)君です』

 ……ああ、そうだ。どうして選挙のことを忘れていたのかと思ったら、コイツがいたからだ。

『生徒諸君! おはよう! 君達は有意義な休日を満喫したかね!? ちなみに僕は日帰りで温泉へと行ってきた!』

 黙れ。碧海と厄病神にボコボコにされて再起不能になった俺の休日を返せ。

『さて! 今回僕が実現することはただ1つ! 毎年秋に行われる文化祭に向けて、ここで自由競争市場主義の観点に立った新たな制度を作ろうと思う!』

 感嘆符の多い奴め。少し落ち着いて話せ。

『そう! 文化祭期間中最も人気の高かった団体に、賞金1000万円を進呈する!』

 教室が一斉にどよめく。それはそうだ。1000万円なんて大金、一介の高校生にポンと出す金額ではない。

『安心してくれたまえ! これは公約などという曖昧な宣言ではない! 契約だ! 諸君、賞金獲得のために尽力したまえ! はっはっはっ――』

――ブツッ。

 校内放送が途切れた。

 恐らく放送委員の前口上と今の大風呂敷で沸点を超えた教頭が飛び込んでいったのだろう。

「直樹さん、今のは……?」

「まあデマではないだろうな」

 教室は既に大騒ぎだ。文化祭の賞金を狙って今から出し物を考える奴まででてくる始末である。

 それはこのクラスだけではなく、他のあちこちから歓声と騒ぎを収めようとする担任の怒号が聞こえてくる。うちの担任は飄々(ひょうひょう)としているが。

 普通ならば賞金など不可能であり、明らかに実現しないようなものを公約として掲げる候補者が当選することもこれまたありえないだろう。

 だが、どうやら不可能を可能にする男がこの学校にはいたらしい。

 HRの後の休み時間。まだ選挙の結果が出たわけでもないのに学校中で文化祭についての話が飛び交う中、俺の教室にその男はやってきた。

「やあやあ直樹氏! ご機嫌いかがかな!? 僕の演説は聞いてくれたかね!?」

 というか、俺のもとにやってきた。

「何がご機嫌いかがだ。そのせいで最悪だ」

「これはこれは朝から手厳しいな! 僕と君の仲ではないか!」

 だからこそだ。

「神楽くん、生徒会長選挙、がんばってね!」

「応援してるぞ! 絶対投票するから文化祭はよろしく頼むぜ!」

「任せたまえ! 僕の手にかかればそのようなことは朝飯前さ!」

 教室のいたるところから声援が送られる。それに応える神楽は、確かに喋らなければこれほど会長というイメージに相応しい者はいないような容貌である。

 神楽龍一。モデルと見紛う程の長身と顔、そしてこの学校の第138代生徒会長にして、史上最高の会長と評される男だ。

 成績は高校2年までトップ。この先も首席の座を誰かに譲ることはないだろう。

 そして圧倒的なカリスマと弁論で見事前生徒会長に就任し、わずか半月で当初の公約を達成した。

 その公約というのが部活及び委員会の掛け持ち許可というもので、それまで部活の掛け持ちが一切禁止されていた我が校に新しい風をもたらしたことでその有言実行振りが生徒に好評を博した。

 片やそのカリスマを活かし学校内の生活態度改善をしたことなどで教師にも評価は高い。

 とまあ色々なエピソードはあるのだが、話せばキリがないので止めておく。むしろ話していて腹が立つので止める。要は学校で最も有名な人物の一人だ。

 去年あたりからそれまで初対面だった俺に何故かやたらと構ってくるようになったことだけ付け加えておこう。

「ところで、お前の後ろにいるのは誰なんだ?」

「おおっ! 流石は直樹氏! 良いところに気が付いてくれるね!」

 友人の後ろに知らない女子がついてまわっていたら嫌でも気になるだろうよ。

「彼女は市原舞(いちはらまい)君だ! ほら舞君、挨拶をしたまえ!」

 高校生というより中学生みたいな身長でメガネをかけている、市原舞と紹介されたその女生徒は無表情で俺の前に立つと、暫くの間無言だった。なんだ。

「……市原舞です」

 俺は狭山直樹だ。よろしく。

「……あなたも、大変ですね」

 失礼だな。何が大変なんだ。厄病神関連なら色々思い浮かぶが。

「そうだな! 直樹氏も不幸と暮らすような生活は大変だろう!?」

 知った風な口をきくな。そんな自信満々な口調だと事情を知っているのかと思うぞ。

「ふむ、何をもって事情と言っているのか定かではないが、君の後ろにいる彼女なら見えているぞ!」

 ……待て。

「恐らく舞君も見えているだろう! どうだね!?」

「……はい、バッチリです」

 ……待て待て待て。

「え? 神楽のやつ、何が見えるって?」

「さぁ……?」

「もしかして狭山くんに幽霊が憑いてるとかー!?」

 馬鹿、大声で見える見える騒ぐから周りのクラスメイトすっかり注目されてしまったではないか。

「……神楽。それと、市原だったか? 悪いが、外で話がしたい」

「いいとも! じっくりと友情を深め合おうではないか!」

 こいつは天然なのか狙ってとぼけているのか。

 

 

 俺達は屋上へ続く階段の踊り場へ来ていた。ここなら誰も来ないだろう。

「……で、何が見えるって?」

「もちろん君の後ろで漂っている幽霊さ! 彼女を憑かせるとは君も案外とお人好しなようだ!」

「な……」

「まあ今のところ災厄も随分軽いようだ! このまま終われるよう私も願うよ!」

 なんなんだこいつは。

 厄病神が見えると言ってきたのは碧海に続いて2人目、いや市原を入れれば3人目か、だが、こいつの口ぶりはどう見てもその裏の事情まで把握しているかのようだった。碧海だって俺に聞くまでどのようなことが俺に起こるのかまでははっきりと知らなかった。

「ひょっとして、碧海に聞いたのか……?」

「碧海君かね? 彼女も存在に気付いていたのか! まあ考えてみれば彼女の家柄上当然のような気もするな!」

 碧海に聞いた訳ではない。どころか、碧海の家の裏家業まで知っていた。

 気味が悪い。

 今までただの友人だった奴から自分しか知らない筈の情報が次々出てくれば誰だってそう思うだろう。

「お前は……なんなんだ……?」

「遂にそれを聞いてくれるか! 僕は嬉しいよ!」

 煩い。質問に答えろ。

「僕は……」

――今思えば、近くに誰もいなくてよかった。

 ……こんな台詞が階段の踊り場から聞こえたら、俺ならそいつらに近寄らないようにするね――

「僕は、神様さ!」


別に厄神様は驚いてませんね。

という訳でまたしても前後編です。

こういう終わり方は楽ですが連続するとくどいですね。

今回の新キャラ、神楽龍一と市原舞でした。

一応言っておくと、神楽が高3、市原は高1です。

神楽の秘密については次回をお楽しみにして下さい。

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厄神様とガラスの靴
こっそり開設。
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