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金庫と鍵


自由を望むが、束縛は愛している。


校内の殆どを探索し終え、最後に残した場所だった。

 図書館探索の優先順位が低かったのは三万冊の本が散乱していたこととあれが起きた時間が授業中であり無人であったことからだった。

図書館に入ると本棚の本がすべて床に落ちており、足の踏み場がなく、本をよけながらの作業になった。俺やミルは足でどかそうとしたが、ヒュームが「人類の英知を足蹴にするとは、君たちは学生として」などと声を荒げるため、地道に丁寧に本を片付けなければいけなかった。

「みんなちょっと来てくれ」

 ソールが皆を呼んだ。図書館の奥、外国の本が並ぶ列だった。

「この本棚の裏を見てくれ」

 そこには金庫が隠されていた。人が入れるほどの大きさの扉で、何重にもカギがかけられていた。

「ケン、お前の崩壊魔法かけてみろよ」

 ミルは笑いながら言った。

「やめときなさい。カギ以外にも何か魔法がかけられているわね。下手なことするとどうなるかわからないわ」

 そうミルを諭したのはアイリスだった。扉の隅を指さし魔法陣があることを指摘する。

「恐らく禁書や研究資料の類だろう。閲覧可能なものでも原書は保存していると言っていたからな」

 ヴァンが言う。ミルは、金目のものじゃないのか、つまんねぇな、と呟いた。

 禁書か。俺も噂には聞いたことがある。正確には禁書ではなく考古学的な資料であるとのことだが、その内容は今の我々の文化では到底理解できない超古代文明の英知であると。

「まぁ今の状況がかわるものではないだろう。図書館には誰もいなかった。戻って今後の方針を検討しよう」

 ヴァンはそう続けたが、俺は金庫に心を囚われていた。引かれる思いだったが、しぶしぶヴァンに従った。

 アイリスも俺と同じだったのだろうか。彼女も図書館を出るまで金庫の方を見つめていた。


 まずは現状把握。

 一日半前に王都周辺で大規模な爆発があった。その影響は十数里離れたこの学校まで及んだ。ここでの犠牲者、行方不明者はおよそ百八十名。避難できた人数は八十名前後。その内、二十名程度は大きな怪我をしていない。食糧は学校、寮の物を含めて八十人で一週間は持たせることが出来る。

 当面はこのままでも耐えることは可能だろう。しかし、問題は怪我人だ。治癒魔法である程度は抑えることが出来るが、治癒を促進するだけであって、ダメージをゼロにすることは出来ない。体力が消耗しすぎている人にとっては寿命を縮める行為だ。まずは医薬師に診せる必要がある。

 僕たちの選択肢は?

 一つ、救助を待つ。だが、丸一日たっても国家機関であるカント魔法学校に救助は来ていない。ここよりも王都の被害が深刻なら当面助けが来る見込みはない。

 二つ、最寄りの街に赴く。似たような状況であろうが、情報や薬は集まる可能性はある。全員では行けない。何名か選んでいくのが望ましいだろう。あのような爆発があった直後だ、道も通じているかわからない。

 俺たちの話したことはそんなところだ。

 大多数の賛成を以て後者の案を行うこととなった。何の進展もないまま、この場所に居続けるのは心が持たない。そう皆が感じていた。

 町に行くことになったのはヒュームとミル、ソールを含めた計八人。ヴァンや俺は治癒魔法に長けていたため居残り組だ、と言っても出来ることはもうない。しかし、選抜隊など俺にそんな気力は残っていなかった。出来れば貝のように眠りたい。

 図書館の探索は朝早くに行われたため、まだまだ日は高く、選抜隊は早々に出発した。道が荒れていたとしても夕方までには町に着くだろう。

 何もすることがなくなった。

 何かを率先して行おうという気はさらさらないが、緩い義務のなかで生きていくのは楽だった。適当なことに思考を費やし、雑念を忘れることが出来る。

 浮かんでくることは、シュウを出発点とした問答。

 忘れようとすればするほど、深みにはまり足を取られていずれは窒息に至る。

 ズシズシと吐き出しようがない想いだけが溜まっていく。


 三、四時間だろうか。

 俺はすることもなく、ただただ思考を泳がし、いつの間にか眠ってしまっていた。

 そういえば、あの金庫は開くのだろうか。唐突にそんな考えが浮かぶ。錠があるのだから、それを開ける鍵もあるだろう。どこにあるのか。本当に国家機密レベルの禁書であるならば鍵は学校内にはない。しかし、それならば金庫自体もここにある必要はない。ならば、鍵もここにあってしかるべきではないだろうか。

 あるとするならば、理事長室、教員室か?

 やることもなく悶々とするぐらいならば、それぐらいはやってもいいだろう。一度捜索をした場所だ。

 あっけないほど簡単に鍵束を見つけることが出来た。薬草学教授の部屋だった。爆風で荒れてはいたが、鍵のかかっている机の引き出しを崩壊魔法で壊すと古めかしい鍵の束があった。あっけなさ過ぎて、拍子抜けしたが、その他の部屋にはバラの鍵があっただけだった。鍵という鍵を全て集め、再び図書館を訪れた。

 鍵を開ける順番があるらしく間違った順番では再び鍵がかかる。面倒なパズルだ。かかっているという魔法の効果だろうか。選抜隊が帰ってくるまでは出来ることはなく、幸いにして時間は有り余っている。俺は一つ一つ鍵を試し、錠を開けていった。

 昼頃にパズルを解き始めたはずだったが、パズルが解けた時には日が暮れていた。

 ガチャ、ガチ、ガチャと音が鳴り、金庫の扉は開いた。


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