無題
何も考えることが出来ずにいた昨晩とは違って、今夜は幾分冷静だ。
昨夜は一晩中シュウを眺めていた。シュウの体が視界に入ると言葉が浮かばず、ただただ暗闇の中に焦点をぼやかすことしか出来なかった。考えようとはしていたと思う。それでも言葉は形を持たず、浮かぼうとしていた意味は曖昧に露散した。露散した言葉はシュウの体に吸い込まれ、俺は茫然としていた。
今夜は、やっとまとまった言葉が生まれ始めた。しかし、言葉の作り方が変わったような気がする。以前の俺では浮かばなかった言葉ばかりが生まれ、単語を作り、文章として意味を成す。
新たな情報で再構成された悟性は知覚と思考を根本から覆す。
助けられなかったのか?
シュウの死の意味は?
誰が悪い?
俺かシュウか、それとも?
誰が憎い?
自分?
復讐するのか?
何も帰っては来ないのに?
自分の無力さが嫌い?
ただの自己過信か?
攻めてきたのは、スラヴォイ、マードック?
何のために?
資源なのか、教義なのか?
その為に人が死ぬ意味はあるのか?
死ぬことで他の誰かが助かる?
理不尽、不条理?
何の罪もない人が死んでいるのか?
本当に罪はない?
罪とは?
生きること。
生きることが罪。
それならばみんな罪人。
間違っている。
この世界の何が間違っているのか。
シュウを殺したこと。
誰かが死に誰かが救われるならば、
それがこの世界の理ならば、
理不尽さが人間の克服すべき課題ならば、
世界を憎むことが宿命ならば、
俺は不条理さを消すための不条理になろう。
殺して救われるのは間違っている。
殺したら殺されろ。
自問自答が頭を巡り袋小路。一人ではゴールすることのできない迷路が広がり、内へ内へと誘導される。外に答えは有るはずなのに、内面の奥に潜り込んでいった。
俺は寝る前にそんなことを考えていた。