そして貴方と幸せになる
メリオロス編、ラストです。
あれから2ヶ月、私と義兄はお互いを意識しつつも触れあわない日々を送った。たまにどうしても触れたくてたまらないときがあり、義兄にお願いして抱き締めてもらうこともあった。義兄にとっては拷問のほうがまだましだと思える行為だったろうけれど、好きな人に少しでも触れてほしいと思うのは普通のことだと思う。
今日まで、大なり小なり、色々あった。バルトロスとの婚約がなかったことから始まり、義兄にプロポーズをされ、義兄に女性の影ができれば別れを決意し、バルトロスによる拉致監禁そして強姦未遂・・・人生でおよそ経験するには多すぎる出来事をたった一年のうちに体験した令嬢は、私くらいではないかと思う。だけど大変なことをすべて経験したから、今私は幸せなのかもしれない。
今日は私たちが待ちに待った結婚式だ。義兄が生地から選び細部に至るまで細かに指示した白い花嫁ドレスは着る私ですらうっとりしてしまうほど素晴らしいものだった。動くたびにひらりと舞うから、それが嬉しくて何度もくるりと回ってしまった。教会の扉の前ではしゃぐ私をなんとも言えない様子で見守るお父様は、やはり娘を嫁に出すのは嫌なのだろうか。と言っても、結局帰る家は一緒なのだからそこまで哀愁を漂わせる必要はないと思うけれど。
ギィと荘厳な音をたてて開いた先には、愛しいあの人が。走り出したいのを我慢して差し出されたお父様の腕にそっと手を乗せて、一歩、また一歩、ゆっくりと歩みだした。今、私の眼には神前で待つ彼しか見えていない。あと少しで彼に辿り着く。私はお父様の腕から離れて跳ねるように彼の胸に飛び込んだ。令嬢らしからぬ行為も、この日だけはきっと許されるだろう。だってこの日の主役は私達なのだから。
「綺麗だよクリスティーナ」
「メリオロス様も、とても素敵です」
まるでその空間に自分達しかいない雰囲気を醸し出していると、神父様が大きな咳払いをした。二人してここが教会であることを思い出しクスリと笑いあう。
「汝、メリオロス・ミハエルはクリスティーナ・ミハエルを妻とし、病めるときも健やかなるときも、その生涯をとして愛することを誓いますか?」
「誓います」
「汝、クリスティーナ・ミハエルはメリオロス・ミハエルを夫とし、病めるときも健やかなるときも、その生涯をとして愛することを誓いますか?」
「誓います」
「神の御前で永久の誓いをたてたこの二人を夫婦と認めます」
盛大なる拍手と歓声の中、私達はやっと夫婦となれた。
「ねえメリオロス様、私、今が一番幸せです」
「・・・違うだろう?」
彼の言葉に首を傾げると、彼はふわりと笑い、
「これから、もっと幸せになるんだよ。君と俺と、二人でね」
その言葉に、私も満面の笑みを浮かべる。私は幸せになる。彼と、そしていつか産まれてくる二人の子供と・・・想像するだけで胸が温かくなる。
「そうですね、沢山、幸せが増えるといいですね」
その後の私はと言えば、まあ彼の予告通り、初夜から恐らく一週間ほどは部屋から出られなかったと思う。いつの間にか気絶して、眼が覚めると彼に揺さぶられての繰返しだったから、正確に何日くらい経っていたのかが曖昧なのだ。しかしその間も彼によってしっかり食事の管理をされ風呂にも入れられていたから至って健康面に問題はなかったのだけれど、部屋から出た私を泣きそうな眼で見てくるメイド達から察するに、問題外な蜜月だったのだろう。でもそれが功をそうしたのか、私のお腹には今新しい命が宿っている。これが私を縛りつけるための彼の執念ならば大したものだと誉めてあげたい。
「今度は赤ん坊に君をとられるのか・・・」
「ふふっ、ちっとも嫌そうではないみたいですけど?」
そりゃね、と優しく漸く膨らみ始めたお腹を撫でる。その手つきから、彼の喜びが伝わってくる。
「俺と君を繋ぐ大切な家族だからね。君を少しくらい共有しても構わないと思えるくらいには大切だよ」
「もし貴方に似たら・・・それはきっと面白いでしょうね」
独占欲の塊みたいな彼がもう一人いるのだ。私を取り合う姿が簡単に想像できてしまって思わず笑ってしまう。
「やめてくれ。君が言うと本当になりそうだ」
実際、私の言ったことは当たることになる。産まれた子供が男の子で、それが彼にそっくりなのだ。そして少し成長すると似た者同士、考えることが一緒な二人はどうやって私の意識を自分に向けさせるか競い合う。それが幸せだと、大きくなったお腹を撫でながら私は思うのだった。
fin
これにてお兄様編は終了です。長かった。私的にはまあまあ長かったです。色々、頑張ってきたお兄様に最後くらい普通の幸せをあげたいと本当に普通のエンディングとしましたがまったく後悔していません!!(キリ)
後日談として、クリスティーナは一男一女を産みます。男の子はまさにお兄様の生き写し。お兄様をまんまちっちゃくしたような子供です。勿論性格も似ていて今はクリスティーナが一番好きですが好きな女の子が出来た途端に囲い込みにいくと思います。そしてその様子を見ているクリスティーナが、「ああ、どこかで見たような光景だわ」と呟くのです。さすが蛙の子は蛙です。女の子の方はどちらかといえばクリスティーナに似ています。顔が、というよりも性格が。それに環をかけてぽややんとしているのでお父さんであるお兄様はどこの馬の骨に大事な娘を奪われないかと日々心配でクリスティーナと一緒じゃないと眠れないそうです。
以上で本当にお兄様編は終了です。読んでくださった皆様、ありとうございました。次回は幼なじみ編を予定しておりますが骨組みすらできていないので少し間が空くかもしれません。結末を決めたら書き始めるので生温い心でお待ちいただけたら幸いです。とか言ってすぐに投稿したらごめんなさい。




