とあるヒロインだった少女の回想
今回はもともとヒロインだった彼女の回想です。
「クリスティーナ様」
「はい?」
私と幼馴染みの結婚式に訪れたクリスティーナ様に、私は満面の笑みでこう告げた。
「私の変わりに、彼等のおぞましいほどの愛を受け取ってくださいね」
その美しい顏を真っ青にしている彼女を見て、私は気づいた。ああ、彼女も転生者だったんだと。
「なんということ・・・まさか私がこのゲームのヒロインだなんて・・・」
まだ私が言葉を覚え始めたときのことだった。カラフルな絵本を読むのが楽しくて歩きながらそれを眺めていたのが悪かった。階段で足を踏み外し階下へ真っ逆さま。そのとき強く頭を打ち付けたせいで私は前世の記憶を取り戻したのだ。
『漆黒の愛に囚われて』
それが私が転生してしまった乙女ゲームの名前だ。根っからの腐女子だった私は、大好きな声優さんが出ているこのゲームにも勿論手を伸ばした。パッケージの秀逸さに手に入れたときはすでに勝手にCPを組んでいたりしたものだ。だけど浮かれていたのはゲームを始める時までだった。
「・・・・全然ハッピーエンドじゃないんだけど」
まず最初に攻略者に選んだ王子バルトロスとのエンドは、まだましだったかもしれない。多量の薬を摂取させられ、自分の意思を破壊され彼の為すままだった。生きた人形と言えば聞こえはいいけど、彼がニコニコ笑っている隣でただ無表情に座っているヒロインのどこが幸せなんだろうか。そして悪役令嬢のクリスティーナ・・・彼女は私の命を危険に晒したという罪(攻略者がクリスティーナを排除したいが為)で斬首刑。画面がENDという文字を表示したとき、私は思わずぶるりと体を震わせた。
もしかして王子ルートだけが悪いのかもしれない。そう思った私は他の攻略者ルートも試してみた。しかし結果は同じ・・いや、どんどん悪くなった。一番悪かったのは魔王ガイナリアスルートだ。ヒロインは魔王と同じ不老にされたあげく発狂することも赦されず永遠に魔王に犯され続ける(魔王にしたらただの愛ある行為)。クリスティーナは魔王の部下達の性の捌け口にされ、人より魔力があったせいで魔族の子を産む魔族生産器にされたのだ。彼女は人間のままだったけど死ぬまで同じことの繰り返し・・・殺された方がよっぽど幸せだったと思う。
こんな夢も希望もないゲーム、二度と御免だ。そう思っていたのにまさかそのゲームのヒロインになってしまうなんて・・・最悪な未来を想像して泣き続けたら家族に心配された。すっかり暗くなり部屋から出なくなった私を励ましてくれたのが私の幼馴染みで夫になった男だった。毎日見舞いに来てくれて私を笑わそうと色々可笑しなことをやったくれた。それを見ているうちに私は励まされそして彼を男として好きになっていた。ヒロインとして産まれたけど私は人並みの幸せがほしい・・・そう思った私が考えたのは自分以外にヒロインの位置に立ってもらうことだった。必ずしも私がヒロインである必要はない。彼等が牽かれるのであれば誰だって構わないはずだ。必死に頭を働かせた末に思い至った人物はクリスティーナだった。まあ主要人物の一人だったからすぐに頭に浮かんだわけだけど、彼女が無惨に死んでいく姿を何度も見ていた私としては、やはり少しばかり彼女にも幸せになってもらいたい気持ちがある。あんな死に方するよりはヒロインとして死なない道を歩んだ方が絶対いいはずだ。
そうと決まれば私の行動は早かった。幼馴染みに告白して結婚まで漕ぎ着けて・・・
こうして隣に正装した彼が微笑んでいると、やっと私はこのゲームから解放されたのだと安心できた。そのためにクリスティーナが犠牲にはなるけど、なんとなく彼女なら大丈夫な気がする。だって私と同じ転生者だから下手な行動をして自滅はしないだろうし。でも確実に捲き込んだ責任はあるから、少しばかり彼女の手助けはしようと思う。
彼女が泣きついてくる姿を想像しながら、私は夫である彼にそっと寄り添った。
元ヒロインはクリスティーナを生け贄に幸せを手に入れます。まあ結構酷いですけど自分が可愛いは人類共通です。たまに出るかもしれない彼女はクリスティーナが少しでもましな人生送れるようにサポートに撤します。攻略者に関わらない範囲で。