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さよならをあなたに

すごい・・・まともな恋愛小説っぽい。

気が付くと私は自室にいた。なんとなくかの令嬢と会話をしてお帰りいただいたことは虚ろに覚えているけれど、その内容や令嬢の表情、自身の行動をはっきりと言い表すことはできないでいた。きっと公爵令嬢としての自分が、弱いところを見せないように頑張っていたのだろう。普通なら・・・婚約者が他の女性に手を出して妊娠させたなんて知ったらきっと、泣き崩れて相手も婚約者も呪ってしまったろう。


「妊娠なんて・・・やっぱり神様がこの結婚を反対しているんだわ。お義兄様に家族ができるのですもの・・・私が身を引けばいいだけですわ」


バルトロスに続いて義兄とまで婚約解消か・・・これではいくら公爵家の令嬢であったとしても受け入れてくれる家があるかどうか・・・良くて伯爵家、もしかしたら男爵家に嫁ぐことも視野に入れなければならないかも。


義兄のことを受け入れこれから愛していけると思っていたけれど、彼に血の繋がった家族ができるならばそのほうがいいだろう。私達はまた【兄妹】として、【家族】として仲良くしていけばいい。だから産声をあげたこの小さな想いの炎は、静かに消してしまおう。消えたくないと目の前で淡く燃える炎から目を背け、私は義妹として彼を支えていくことを決意した。







「クリスティーナただいま。今日は迎えに出てくれなかったけれど、具合が悪いのかな?」

「お義兄様、おかえりなさい」


婚約してから習慣になっていた出迎えに私がいなくて心配だったのか、義兄は部屋に入るなり私を抱き締めた。温もりのなかに香る義兄の香水が好きだった。それは義兄の誕生日に私が贈ったものだったから。義兄に似合うと選んだものはよく彼に馴染み、今ではこの香りがすれば近くに義兄がいると感じられるようになった。だけど今はそれが辛い。抱き締められれば香りは移り、暫くは義兄を忘れられないから。私は少しでも香りが早く消えるように、両腕を突き出して義兄と距離を取った。


「クリスティーナ?」


私の行動を不審に思った義兄は首を傾げた。言わなければ・・・未練が早く消えるように、新しく道を歩むために、彼に【さよなら】を言わなくては。


「お義兄様、お義兄様は私以外にお好きになった方はいらっしゃいましたか?」

「有り得ない。俺がずっと好きで仕方がなかったのはクリスティーナだけだ。他の女性に目移りしたことなんて一度もない」

「うそつき・・・」


どうして隠すのだろう。私は知ってしまったのに。義兄が他の女性を抱き、愛の証である新しい命まで授かったことを、直接聞いてしまったのに。なのに私だけなんて・・・酷い裏切りではないか。


「嘘なんて言っていない。10年以上君だけを想って生きてきて漸く君を手に入れたんだ。この想いを嘘だなんて君にだけは言ってほしくなかったよクリスティーナ」

「いいえお義兄様、私は知っているのです。貴方の愛は他にあることを・・・それを知ったとき、私は思いの外動揺しました。こんなにショックを受けた自分に。私は自分で思っていた以上に貴方を愛してしまっていたんだと、知ってしまいました」


そう、受けいれるのに時間がかかると思っていた感情はすんなりといつからか私の中のあったのだ。いや、もともとあったのかもしれない。だけど気づかないまま今まで来てしまっていた。気付いた時には手遅れだなんて、なんて滑稽なのだろうか。


「気付かなければよかった・・・そうすればこんなに苦しい思いをしなかったかもしれないのに。だけどそれを知ったからこそ、貴方には幸せになってほしいと思えるのかもしれません」


あの日、義兄が家にやって来た日。お父様もお義母様も気付いていなかったけれど私には分かった。義兄は薄い心の膜を張り、自分の心に誰も触れないようにしていたことを。私にはそうでもなかったけれど、実の母親にでさえどこか一線を引いていたと思う。だけど彼は隠すのが上手いからそれに気づく人はいなかった。それはきっと彼なりの気遣い。自分のことで思い悩むことのないように・・・幼かった彼のなにがそうさせたのかは分からないけれど、少しでも安らげる居場所になれたらと、小さいながら思ったものだ。きっとその思いが、私が初めて抱いた恋だったのだろう。結局気付かぬままここまできてしまった今となってはそんなもの塵同然なのだけれど。


私がなりたかった彼の居場所は、もうあの令嬢と新しい命がなっている。ならば・・・



「お義兄様・・・私は大丈夫ですから。もうお義兄様に支えていただかなくとも立って歩けますから・・・だから」


私が彼にあげられるものは・・・


「どうか、本当に愛する女性と幸せになってください。貴方にはもう、守るべき者もが2人もいるのですから」


幼い頃から呪いのように纏わりついた、私を好きだと錯覚している彼の心を・・・私という鎖から解放してあげることだ。





「お義兄様・・・私達の婚約は、なかったことにしましょう」



出来得る限りの笑顔で、私は目の前の愛しい人にさよならを告げた。


クリスティーナが健気な令嬢っぽい・・・だとっ!!しめっぽいのは今回のみ!!次話からおにいたまが大暴走!!の予定。おにいたまは、はいそうですかと頷いたり致しません。早まったなクリスティーナ!!

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