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メリオロスとバルトロス

バルトロスの極寒が如く冷たい視線を受け続け30分程たった頃、王が終いの合図を出してくれて漸く私は色んなものから解放された。



「メリオロス様、酷いですわ。あのような席で私達の話をああも広げるなんて。私はバルトロス様の視線で凍ってしまうかと思いました」


場所は王城の一室。今日はもう夜遅いということで皆城に宿泊することとなった。婚約者である私達は室内のドアで繋がった隣続きの部屋を使うことになった。そして今私は義兄に怒りをぶつけている最中である。だってそうでしょう?わざとバルトロスを煽るように話をするのだもの。私は今でもあの視線を思い出せばぶるりと寒気が走る。この人だって同じ・・・いいえ、私以上にあの視線を浴び続けていたというのにどうして平然としていられるのだろうか。


「ごめんね。だけどあれくらい言っておかないとあの王子は諦めないしその瞳にしっかりと焼きつけてもらわないと」


すっかり寛ぎモードの義兄はどっかりとベッドに腰を降ろしてにまりと笑いサイドテーブルに置いてあるグラスのワインを飲みほした。そしてグラスを置くとちょいちょいと手招きして私を呼ぶのだ。渋々と近付いていくと急に腕をとられあっという間にベッドの上に・・・


「お、お義兄様っ!!」

「こら、名前で呼びなさいと言っただろう?ふふっ、綺麗だよクリスティーナ。まるで額に縫い留められた蝶のようだ・・・縫い留めるピンが俺の腕というのもまたいい・・・」


ほうっと息を漏らすこの義兄のほうが、私には美しく見える。本当に綺麗な顔をしている。それは攻略対象者だからって言ってしまえばそこで終了なのだけれども。整った彼の顔をじっと見つめると、今度は義兄のほうがふいっと顔を逸らした。


「こんなに近くでクリスティーナに見つめられると・・・なんだか照れてしまうな。俺の心臓が壊れてしまうよ」


ヤンデレ要員とは思えない発言である。あら?そういえば今の今まで義兄にそれっぽい、【ヤンデレが起こす奇っ怪な行動】を受けたことがないわ。されたことといえば一晩にして婚約者になったことくらい?やっぱりヒロイン退場の余波はなにかしらの影響を与えているのかもしれない。なんてことをぽやんと考えていると、義兄の方の部屋のドアからノック音が聞こえてきた。


「こんな時間にどなたかしら?」

「俺には大体の予想はついているけどね」


なんて名探偵かって発言をした義兄は私から離れるとドアに向かって歩きだした。私はドアが開く前にさっと身だしなみを整えるとベッドから椅子に座り直した。いくら婚約者と言えど婚前交渉はあまり良くとられないから。義兄もちらっと私の状態を確認してからゆっくりとドアを開けた。




「こんばんは。お越しになるかもとは思っておりましたよ」

「白々しいな。そう仕向けたのは君だろうに」


「え・・・バルトロス様?」



なんと、ドアの先に佇んでいたのは誰あろうバルトロスだった。彼の服装は夜だからなのかきらびやかなものではなく、それでも質の良い夜着を纏っていた。


「やあクリスティーナ、変わらず君は美しい。夜の闇の中ではそれが一層引き立つ」


私の姿を見つけたバルトロスは、晩餐会で向けた冷たい視線ではなく、熱の籠ったものを送ってきた。


「ありがとうございます。しかしどうしてこのような時間にバルトロス様お一人で?騎士も付けないのは危ないですわ」

「どうしても、聞かれては困る話だったからね。そうだろう、メリオロス・ミハエル」


ぎっと睨み付けるバルトロスを飄々と受け流す義兄。若干の恐怖感を覚えた私はとてつもなく逃げ出したくなった。


「えっと、なら私は席を外させていただきますわ」


カタンと椅子を鳴らせて立ち上がると、それを制すように義兄に肩を押さえ付けられ、再び椅子の上の住人となってしまう。


「君に関わる話だし、ここにいて?」


二言を言わせない義兄の迫力に、私はただ頷いた。それを見てにっこり笑った義兄は再びバルトロスに視線を移す。


「今一度、お祝いの言葉をいわせていただきましょう。この度は某伯爵令嬢とのご成婚、誠におめでとうございます。あのように王子を一途に愛するお方を伴侶とされて、貴方は幸福者ですね」

「もしあれがクリスティーナであれば、私もその言葉を喜んで受け入れたのだけれどね・・・何処ぞの悪知恵の働く男の策に嵌められてしまい、見た目も中身もクリスティーナに劣る女を正室に迎えなければならなくなった」

「おやおや、婚約者のいる身でありながら他の女性に目移りはいけませんよ。しかも、相手も既に婚約者のいる身です。そういう世迷い言はあまり口にされぬほうが宜しいかと?」

「狐め・・・さぞ可笑しいだろう。毛ほどに関心を持たぬ女に手をだし望まぬ婚約をした私が・・・焦がれている女性が他人の手の中に行ってしまった私が」


目の前にいる義兄を殺してしまいたいと語るその瞳。バルトロスはそれなりに私を愛していたから、だからそれを奪った義兄を憎んでいる。そして義兄も、幼い頃唯一近くにいた年頃の近い私をずっとバルトロスによって奪われていた。だからその憎しみで彼の心は歪み、バルトロスを貶めることによって私を奪い返し復讐を達成した。それでも義兄の猛攻は止まらず更にバルトロスを追い落とそうとしている。深くて暗い、心の闇の中へ・・・


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