メリオロス・ミハエルの闇
あの頃、当時少年と言われる歳の頃の俺は、目の前の【おままごと】が終わるのをただ黙って見ているしか出来なかった。それは俺がクリスティーナとは無縁の者だったから・・・力を持たなかったから・・・だからどんなに悔しくても、【力ある】王子とクリスティーナの間に割って入る資格がなかった。何度あの王子に殺意ある視線を向けた。もしかしたら気づいていたかもしれないけど、放っておかれたのはただ、俺に気をかけるのさえ無駄だと思ったからだろう。俺がこのミハエル家の人間ではないことを知っていたから。
ならば俺を放っておいたことを後悔するように、王子から最愛のクリスティーナを奪ってやろうと俺はミハエル家のあらゆる力をこの身に吸収することにした。義父に自ら申し出て、さらにある約束もさせて、俺は義父に付いてあらゆるものを学んだ。マナーや話し方、紳士の所作、さらに政治・経済や公安のことも・・・流石筆頭公爵だけあって入ってくる情報はまるで洪水のようだった。知恵熱で何度か倒れたこともあり心配されたけど、こんなことで挫けていられないと気力ですぐに回復した。まあ、クリスティーナが泣いて看病すると騒ぐからなおのこと早く回復せざる得なかったんだけど。学び、吸収し更なる知識を得る・・・その繰り返しを約5年もすれば、俺は周りから次期公爵だと言われるようになった。義父もそのつもりでいるらしく、自らの繋がりの深い貴族達に俺を紹介したりする。
俺がこのミハエル家にやってきてもう8年・・・15歳の時には、ミハエル家の全てを手に入れた。いや、クリスティーナの隣に並び立つのに恥じない立場を手に入れたんだ。漸く、あの王子へ討って出る立場に立てた訳だが、潔癖なる公爵家の力だけではあの王子の麗しの顔を歪めることはできない。ならばと、俺は貴族界の闇に手を伸ばした。
貴族の世界は上部は綺麗だが少し潜れば汚いものが溢れている。清廉潔白な貴族もいたりする(義父がそうだ)が、大抵は金と汚職にまみれ己の欲のために平気で他人を犠牲にした。俺はそれらをよくよく観察しながら、俺の役に立ちそうな人材を探した。そう、欲に目が眩み自分達のことしか考えていない・・・色々と手駒として役立ちそうな貴族に目をつけた中、俺はとある伯爵家にその役割となってもらうことを決めた。彼らは俺にとってとても都合が良い存在だった。父親は家を大きくするために娘を良い家に嫁がせたいと思い(まあ、貴族であればそれは普通の範疇ではあるが)娘は恐れ多くも我が国の麗しき王子に恋をし、どうにかして王子の婚約者になろうと色々と画策していた。この娘はなかなか面白かった。王宮に召す侍女を脅し王子に侍る婚約者候補に嫌がらせをしていたのだ。まあ被害が微々たるものだったから婚約者候補達もさして気には止めていなかっただろうけど。大なり小なり、醜い心を持つ娘に興味を持った。・・・だから手をかしてあげたんだ。俺は裏から手を回し娘を婚約者候補に挙げさせ王子に近づけるようにしてあげ、あるものを渡して少し助言をしてあげた。
その結果は、あの夜会で明らかだったろう。幸せそうに王子の隣に立つ娘。あの娘は見事正式に婚約者の椅子を手に入れたわけだ。まあ、この先幸せでいられるかは保証しないけれど。あの王子のクリスティーナに向ける執着は異常だとも言えるからね。まあ、後継ぎくらいは産ませるだろうけど、その後は放っておかれるのではないかな。一方通行の愛情で王子を捕らえたのだから、その結果も受け入れなくてはね。
王族だけは正室の他側室を設けることができるが筆頭公爵の娘は余程のことがないと側室にはなれない。だから王子はクリスティーナを得ることはない。王子が欲しくて仕方ない存在は、これから先俺だけのものとなるのだ。ああ、やっと邪魔なものがなくなった。これで漸く君を手にすることができるよ・・・愛してやまない俺のクリスティーナ。俺のしたすべてを知ったとき、君はどんな表情を俺に向けてくれるだろうか。どんな表情でも、月の女神のように美しいのだろうな。
あんまり黒い部分を描けなかったなぁ(;´∀`)さて、次はまたクリスティーナ視点に戻ります。今年もあと半月、何回更新できるかな・・・