悪役から代理ヒロインにジョブチェンジ
ヒロイン(正規の)登場。
私がクリスティーナ・ミハエルとして生きてきて15年、ここまでの人生はたぶん普通の公爵令嬢として生きてきたはずだ。8歳のときにできた婚約者の為に教養とマナーを身につけ、美の追求も欠かさず、公爵令嬢として女として恥じないように常に心掛けてきた。婚約者との未来を信じて疑わなかった私は、ある人物との出会いにより封印されていた前世の記憶を一気に取り戻すのだった。
それはある貴族の結婚式でのことだった。お家の繋がりで我が公爵家も参列することになり、顔見せのために私も連れてこられた。懇意にしている貴族との挨拶をそこそこに済ませ、本日の主役である伯爵家次期当主とその花嫁にお祝いの言葉を述べるため、彼等のもとへ赴いた。父が挨拶をし、次は自分がと一歩前に踏み出し花嫁の顔を見た瞬間、全身に雷が走ったような衝撃を受けた。幸せそうに笑っていたのはなにを隠そう、『漆黒の愛に囚われて』のヒロインだったのだ。走馬灯のように一気に流れ込む死ぬ直前までの記憶・・・あの強烈な結末の被害者であるヒロインが何故まったく物語に関係ないキャラクターと結婚しているのか、思考停止した私の頭では到底理解できなかった。
「本日は私達のためにお越しくださってありがとうございます。クリスティーナ様は花嫁の私より美しくて嫉妬してしまいそうですわ」
「そんなことはありませんわ。今日誰よりも輝いていらっしゃるのは花嫁である貴女様ではないですか」
動揺しながらも令嬢としての振舞いは忘れない。父と花婿と花嫁のヒロインが会話をしている間に私は考えた。王子との結婚云々は置いておいても、彼女があの5人の攻略者と結ばれないのなら、私が悪役令嬢として彼等に殺されることはないのではと・・・ならば彼女が幸せになることを拍手してお祝いしようと。楽天的な思考に至った私は満面の笑みで2人に微笑んだ。
暫く会話を楽しんだ私達はおいとましようと彼女達に再度祝いの言葉を述べて去ろうとした。
「クリスティーナ様」
「はい?」
呼び止められ足を止めた私に、彼女はとんでもないことを告げたのだ。
「私の変わりに、彼等のおぞましいほどの愛を受け取ってくださいね」
その言葉に、私の眼はこれでもかと言わんばかりにかっ開いたことだろう。くすりと笑った彼女は純白のドレスを靡かせて花婿のもとへ軽やかに歩いていった。
てかあんたも転生者だったんかい!!!
ヒロイン(正規の)は自ら表舞台を退場。その理由は次回で!!