目覚めたクリスティーナ
おはようクリスティーナ!!
「う、ん・・・」
眠りから目覚めた私は、ぼんやりする頭で少しの間体を起こしたまま制止していた。
「ここは、どこ・・・なの?」
周りを見渡しても見たことのない家具しかなく、それは私が知っている場所ではないことを表していた。どうして自分がこんなところにいるのか、漸く覚めてきた頭で考えてみた。確か森の奥の湖の源泉をバルトロスと一緒に見て、さあ帰ろうとしたときにアーダルベルトが現れて・・・そこですべてを思い出した私はハッとなりバルトロスの名前を呼んだ。
「王子はいない・・・」
「・・・アーダルベルト様」
軋んだ音を立てて開いたドアから現れたのは、私とバルトロスを眠らせた張本人だ。アーダルベルトは私に近付くとベッドの横で膝をついた。その姿は騎士そのものでこんな状況でなければ胸も高鳴ったことだろう。
「貴女が目覚めたということは王子は既に起き上がっているだろう。だがここには辿り着けない。ここは俺しか知らない場所だから」
秘密の隠れ家的なやつだろうか。そういえば随分と静かな気がする。使用人もいないらしい。まあ戦場も駆ける彼等は自分のことは自分でしないといけないからいなくても問題ないのかもしれない。
「心配しなくてもいい。貴女のことはすべて俺がする・・・食事も着替えも風呂も・・・なにもかも」
ここはお礼を言うべき?違うよね。アーダルベルトが私を解放さえすればいい話だよね。食事は兎も角、残りは嫁入り前の乙女がやってはいけないことだもの。これでも貞操観念はありますよ。
「アーダルベルト様、お願いですから私を解放してください。こんなことをして貴方はきっと処罰されます。今なら降格か除隊で留まれますが最悪・・・」
「死罪は確実・・・王子の愛しい婚約者を拐ったのだから降格や除隊で済むはずがない。王子は俺の姿を捉え次第真っ先に俺を殺しにかかるだろう。まあ、見つかればの話だが」
クツリと笑うアーダルベルトに、何故笑えるのかと思う。自分の命を懸けてまで私を拐うことはリスクしかないというのに・・・
「どうしてそこまで・・・」
私を求めるの?
「ただ好きだから・・・誰にも奪われたくないほどに、狂うほどに貴女に惹かれるから・・・それでは理由にならないだろうか」
「・・・・・っ」
私は開きかけた唇を閉ざした。だってなんて言えばいいの?私が選んだのはバルトロスなのだから私が言えるのは拒絶の言葉だけだわ。それは彼だって解っているはずじゃない。だから無理矢理私を連れ去った。いくら愛を囁かれても、そばにいても、きっと私はアーダルベルトを好きにはならない。だって今の私は確かにバルトロスを愛しているのだから。あんな束縛王子だけど毎日愛を伝えてくれるバルトロスに、いつのまにか公爵令嬢で婚約者のクリスティーナではなくただの女として彼を好きになった。
「貴女が俺を好きでなくても、貴女は俺を受け入れるしかない。貴女はここから出ることはないのだから」
そう言うとアーダルベルトは片膝をベッドへ乗せる。ギシリと軋むベッドに、もしかしてという焦りが生まれる。しかしアーダルベルトは予想外のことをしてくれた。
「チュッ・・・さすがにこんなに震える貴女を無理矢理抱きはしない。だがいずれはその身も俺のものになると覚悟しておいてほしい」
それだけ言ってアーダルベルトは部屋から出ていった。勿論鍵はしっかりと掛けて。
「おでこにちゅーとか・・・・」
先程アーダルベルトの唇が触れた額に手を翳す。
「バルトロス・・・」
あの行為で思い出されるのはバルトロスだった。彼がよく私にすることだったから・・・アーダルベルトは意識的に真似をしたのかそうでないのかは分からないけど、あれでまた私はバルトロスに会いたくなってしまったじゃない。
「助けてバルトロス・・・私はここにいるわ」
今頃必死になって探しているだろうバルトロスに届くように、なにもできない私は祈るしかなかった。
バルトロス出番なかった!!きっと次回は出るよ・・・ね?