まだまだ暴走する聖騎士
私の目の前にいる男・・・アーダルベルトはうっとりとした瞳をしながらするりと私の髪を撫でる。それはもう何度も何度も、髪の毛が切れるのではないかと思うほどしつこく。
「ずっとこうして貴女の銀の髪に触れたかった・・・太陽の光を反射して神々しいまでに輝く貴女の美しい髪を、王子がなんの障害もなく触れるのを見るたびに、俺の心は嵐のように荒れるばかりだった。貴女に近付くことも赦されず、遠くから貴女と王子の仲睦まじい姿を見せつけられて・・・あんなに誰かを憎んだのは産まれて初めてだった」
「消毒しないと・・・」と言いながらアーダルベルトは握っていた一房に舌を這わせた。それを間近で見てしまった私は全身鳥肌が立ってしまう。いくら好きだから、他の人が触れたからと言って舐めますか?舐めないよね?ああ、鳥肌が治まらない。
「王子に貴女の護衛を外され、俺よりも遥かに弱い者共にその大役を任せたときは、あの3人を殺そうかとも考えた。そうすれば貴女を護れるのはやはり俺だけだと解らせることができたろうから・・・でも止めた。俺よりも弱いと言ってもあいつらは聖騎士団に名を連ねている。一兵士に比べれば遥かに強い。そんな奴等が殺されたら?疑いは俺にかかる。王子のことだから例え証拠がなくとも俺を犯人だと断定するだろう。そうすれば永久に貴女の傍にいられない。それだけは駄目だ」
知らないところであの3人の暗殺計画がたてられ頓挫していたとは・・・とりあえずバルトロスのお陰で彼等は助かったようだ。しかし分からない。どうしてここまで私に執着するのか。ヒロインの場合は確か・・・彼女が舞踏会の為に王城へやって来たとき、休憩のために会場を抜け出したのはいいけど迷子になって、そこでアーダルベルトに出会うのよね。それで屈託なく笑う彼女に一目惚れして・・・その後は・・・うん、思い出したくない。でもちゃんとイベントらしきものはあったのだ。でも私の場合ってどうだった?ちゃんとバルトロスの婚約者として挨拶しただけよね?どこにイベントが?
私の疑問を余所に彼は私を軽々と抱き上げずんずんと道なき道を歩いていく。
「待ってください!!バルトロス様が!!」
「貴女には俺の名前以外は口にしてほしくないな。王子は大丈夫、じきに薬も切れるだろうし近くにはあいつらもいるから遅かれ早かれ発見されるだろう」
そうか、私達がいなくてきっと探しているはず。それにここは王領で勝手に入れないから誰かに襲われる心配はない。そこは安心できるけれど、そうなると一番危ないのはやっぱり私だということ?えーっと、私どうなっちゃうのかしら・・・ゲームのお邪魔役は私だったけど現実はアーダルベルトだ。だから彼がどう行動してどう考えるかなんてさっぱりだ。
「貴女にも少し眠っていて貰おう。逃がしはしないが、騒がれたら困るからな。大丈夫、怖いことなんてないからな」
いいえ、貴方が怖いです。なんて言葉を口に出来ないまま、私はバルトロスと同じように薬で眠らされた。
「ああ、眠る姿も美しい・・・早く貴女を俺のものに」
情欲に眼をぎらつかせながら舌なめずりしているなんて、眠っている私にはまったく知るよしもない。
次はアーダルベルト視点です。