聖騎士の反乱
アーダルベルト頑張れ!!君こそスターだ!!
「クリスティーナ様、漸く貴女と二人きりになれた・・・」
目の前で私の長い髪の一房をとり口付けるのは私の婚約者ではなく私と彼を護るはずの聖騎士。どうしてこうなったんだろう・・・私は自分の記憶を遡ってみることにした。
あれはそう、私達がバルトロスが好きな場所、精霊の棲む湖にデートにやってきたところから始まる。あまりにも神聖な場所に興奮した私は、バルトロスの手を引いて弾む心で湖の先にある水が生まれる場所へと向かっていた。バルトロス曰く、ここの湖は地下から湧くのではなく泉の源泉なるものがあってそこから流れ出ているらさいのだ。その源泉はとにかく不思議で、クリスタルが敷き詰められた窪みからどこからともなく次々と水が溢れるそうだ。水晶には邪を清める力があるからあの湖の水も綺麗なのだと妙に納得したのと同時に、クリスタルから涌き出る清水に大きな興味を抱いた。その不思議な現象をこの眼で見たいと、私はバルトロスが止めないことを良いことに彼が示す場所へどんどん足を進めたのだ。そのせいで侍女や護衛の騎士達が着いてこれなかったことも、ただ一人、アーダルベルトだけが瞳をぎらつかせて黙々と着いてきていたことも気が付かないで。
「此処が、バルトロス様の言っていた場所ですの?」
「そうだよ。不思議だろう?何故かここだけ一面クリスタルで覆われているんだ。だから草も木も生えない・・・何故か動物も寄ってこない、とても不思議だよ」
彼の言う通り、木の虚のようにぽっかりと穴の空いたクリスタルを中心に2メートルほどの周囲の地面を水晶が覆っていた。クリスタルからは水が溢れているのに周囲が濡れている様子もなく、とても奇妙だと思った。バルトロスの言う通り、とても不思議な場所だわ。
「確かに不思議ですね。でも、とても綺麗・・・」
陽の光に照らされたそれは七色に輝いていてとても美しかった。ずっと見ていてもきっと飽きないわ。
「良かったよ。君が気に入ってくれたようで。さあ、そろそろ帰ろう。いつの間にか皆を置いてきていたみたいだからきっと心配しているよ」
「あら、本当ですね。急いで戻りましょう」
私はさっとバルトロスのほうへ振り向いた。そして驚きで眼を見開いた。
「バルトロス様!!」
「くっ・・・」
ドサリと倒れるバルトロス。その後ろに見えたのは、恐ろしいほどの美笑を称えたアーダルベルトだった。彼がいたなんて気付かなかった。確かにこの空間には私とバルトロスしかいなかったはずなのに。
「さすがに唯一の皇太子を殺すことはしません。少し眠ってもらっただけですから、安心なさいませクリスティーナ様」
腕をあげている彼の手からひらりと白い布が落ちた。恐らくその布に睡眠液でも染み込ませていたのだろう。実際に倒れたバルトロスはぴくりとも動かない。ただ規則正しい息使いだけは辛うじて感じられた。
「なんてことを・・・アーダルベルト様、貴方はバルトロス様を御守りする聖騎士ではありませんか!なのにどうして・・・」
「どうして・・・ですか?それは貴女が一番よくお分かりなのでは?」
サクリ、サクリと草を鳴らしてアーダルベルトが少しずつ此方に歩み寄ってくる。私も一定の距離を保とうと彼の動きに合わせて後ろへ下がる。
「酷いお方だ・・・俺の気持ちに気付いていながら、見せつけるように王子と戯れて・・・何度、何度王子をこの手にかけようと思ったことか。でも、我慢しましたよ。血が滲むほど拳を握って、歯が砕けるのではないかと思うほど食い縛って・・・その我慢が漸く報われた」
「きゃっ・・・」
一瞬のうちに間合いが詰められ、私はアーダルベルトに抱き締められていた。
「クリスティーナ様、漸く・・・漸く二人きりになれた。俺たちの邪魔をするものは、なにもない」
そう囁いた彼の瞳は仄暗く、妖しい光を放っていた。
なんかファンタジー感が出始めたけどいいんです!!だってファンタジーだもの!!ちなみにバルトロスが後ろを取られた理由はクリスティーナとのデートに若干浮かれていたからです。