3 コンサートへの招待
斉藤愛美は、悩みを僕に話した。
彼女は親の仕事の都合で四月に引っ越してきたので、この高校に以前からの知り合いはゼロだと言うこと。
悪化する視力のため、クラスメイトの顔がよく見えず、未だに顔と名前が一致しないこと。
目の病気のせいで人に迷惑をかけてしまうという悩みで、どうしても遠慮してしまう。友達ができない。部活にも入りずらく、帰宅部だ。学校には居場所がないんだと。この学校でとても孤独を感じると言うこと。
「だから、私、もう学校やめちゃいたいです」
「学校に居場所がなくて、辛い…」
「斉藤さんは、本当は入りたかった部活ないの?」
「…でも、目が見えなかったら何もできないよ…運藤部はもちろん、文化部も…」
「中学では何の部活に入ってたの?」
「バスケ部…でも目がどんどんダメになって、最後はマネージャーやってました」
「何か習い事とかは?」
「ピアノを小学校からやってたんですけど、中学になって楽譜を見るのが辛くなってきて辞めました」
「音楽は今でも好き?」
「好きです!TVも、インターネットも、読書も眼を使う娯楽は私にはあまり楽しめませんし…私に楽しめるのは音楽鑑賞ぐらいかな…」
「どんな音楽聴くの?」
「何でも聞きますよ」
僕はある一つの決心をした。
「絶対、僕が何とかしてあげる」
「斎藤さんが、楽しく学校に来られるようにするから」
「この学校に、斉藤さんの居場所を作るよ」
僕はかばんの中を探した…あった!
「斉藤さん、これあげるよ」
「これは…何かのチケットですか?」
「ああ、クラシックのコンサートのな」
「先輩?」
「何?」
「…私をコンサートに、それはつまり…デート…に誘っているということで…いいんですか?」
「つまり、先輩が私と付き合ってくれることで、私は楽しく学校に来られるようになると…」
「ははは!」
僕は思わず笑ってしまう。
「えっ先輩…違うんですか?」
斉藤さんの顔が赤くなった。そして少し怒ったような表情をした。
「ごめんごめん、デートじゃないよ」
僕はもう一枚チケットを渡した。
「今度市民文化芸術ホールでコンサートがあるんだ。ひとりで行ける?付き添い、必要かな?」
斉藤さんは戸惑う。
「え、先輩のコンサートなんですか?あのおっきなホールでですか?先輩ってもしかして凄いピアニストとかなんですか?」
「ははっまさか。このチケットに大きく書いてる文字、読めないか?」
斉藤愛実はチケットを眼に近づけた。
彼女にも読むことが出来た。
そこには太文字でこう書かれていた。
山見高校管弦楽団、第32回定期演奏会と。