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ブラインドワールド  作者: だかずお
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『襲いかかる恐怖』




車は走る、このメンバーで旅行でもしてたのなら、楽しかったろうな、今の車内の雰囲気は、まったく違ったものになっていただろう。

そんな考えが光堂の頭に浮かんでいた。

今、車内で、口をきくものは誰もいない。

車の走る音がこんなにもうるさかったなんて、光堂は砂漠のような、何もない、何処までも静寂が包む景色を見ながら思う。

さっきまで明るかった外は、夕暮れを過ぎ薄暗くなっていた。

死ぬのは怖くないなどと思っていたが、本当にいざ、その状況が自分に直面してきた時、自分でも気付かない、心の底に隠れていた恐れが顔を出し始めていた。

恐れを感じる…生に対する執着

死は怖く無い、未練は無いと思った自分も、やはり心の何処かでは生きたいと言う強い思いがあるのかも知れない。

ガガガガッ

その時、急に車が速度を落とす。

ペレーが車を隠して停められるくらいの、壊れた瓦礫で覆われた小さなスペースを発見して、その影に車を停めたのだった。

「今日はもうじきに真っ暗になるウキっ、ここに車を停めて朝向かおうウキ」

ペレーは車に積んできた食料と、水をみんなに手渡す。


「ありがとうペレー」


「後どれくらいなんだ?」


「実際ここには初めて来るし、分からないけど半分は来たはずウキ」


「明日朝、お前達は帰れよ 俺とマサはここから歩いて行く」


「そうだね 二人はもう帰ったほうがいい」マサも言った。


「落ち着け、まだ半分はあるんだ、もう少し近くまで行かせてくれ」多村は聞く耳を持たなかった。


「そうウキっ、ここまで来てここで帰れなんて水臭すぎウキっ」

気持ちは嬉しかった、だがそんな危ない場所に二人を、これ以上、近づける事は出来ない。もし二人の身になにかあったら、俺は一生後悔する。

そんな想いが入り乱れながら光堂は、ペレーが持って来たペットボトルの水を力強く口に注いだ

「勝手にしろっ」

素直に帰ろうとしない二人に、光堂は嬉しい反面、苛立ちに近いものを隠せなかった。

二人に、なにかあってからじゃ遅いんだ。


「しかし、二人はそうまでして元の世界に帰りたいんだな よっぽど良い世界なんだな」多村が言った。


「良い世界か・・考えたら全くそうでもないのにな、何故戻りたいか、か?」

会いたい人が居るから?こちらの世界でも会えていると言えば会えている(多少考え方は変わっているが)。

自分達にもよく分からない、でも帰りたい気持ちはつのってる。

やっぱり生まれ育った場所だからかもな。

「必ず二人で一緒に帰ろう」光堂とマサが誓いあう。


「しかし、車に乗ってから人っ子一人、会っていないし見かけていない」光堂は昼間の街の情景を懐かしく思った。

沢山の人々や、店 、奇妙な生き物 、あそこはまだ人の賑わいがあった。

だが今居るここは、また別世界の様


「そりゃそうさ、よっぽどの物好きか死にたがり、くらいだろ黒楽町に向かう奴なんか」多村が言う。


「そう言えば、その黒楽町ってのは一体なんなんだ?」


「ああ、実は俺たちも良く分からないんだ、中がどうなってるのか、小さい頃に誰もが大人に教えられる、黒楽町は危険だから絶対に行ってはいけないよ、って」


「光堂、お前、あの話し覚えてないか?いや知らないよな、確かにお前だが、こっちの世界のお前だもんな」あまりに不可思議な発言に多村は、自分で話してても意味がわからなくなり笑った。

まったく訳が分からない会話だな。


「同学年にいた四人組、面白半分で黒楽町に向かったんだ」


「ああ、あの話ウキね」


「四人はその後、行方不明、彼らの姿を二度と見たものはいなかった」

光堂とマサは、その話を聞き、これからの自分達の運命を想像しては息をのんだ。

空を見上げると満天の星

綺麗だ。

こんな綺麗な星、生まれて始めてみるよ、こんなに星が近いなんて、四人は空に敷き詰められた美しい宝石に興奮気味だった。

この時だけは、四人は死の町に向かっている事を忘れ、自分達の真上に広がる、広大な星空を静かに眺めていた。

それはまるで夢のような世界、頭上に楽園がひろがっているようだった。

いつかあんな星々を楽しみながら旅出来たら…


「あっ、流れ星だ 二人が無事に帰れるのを願うウキっ」

流れ星に祈る

こういうのはこの世界にもあったのかと、光堂は自分の来た世界と同じ共通点があった事がなんとも嬉しく、ホッとした。

こんだけ違う世界にも共通点はあるんだ。


その時だった突然辺りから低い唸り声が響き渡る


「ああああぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁあぁぁぁぁ」

聞いた事もない唸り声。

四人はすぐさま恐ろしくなり、車に乗り込んで鍵をかける

「何、この声ウキっ?」

ペレーはハンドルの下のスペースに身を隠しながら叫んだ。

その時マサが、突如声をあげ、叫ぶ

「うわっあっ みんな身をかがめて、絶対に外を見ちゃダメだ」

尋常じゃないマサの声に、みな驚き、車の窓から見られないように身をかがめた。

マサは何を見たのか?とにかく、酷く怯えている。

マサがこんなに怯えてるなんて、これはやはり尋常じゃない。

光堂はマサの表情を見て確信した、一体外に何が?


「絶対に見ちゃダメだ」マサの手は震えていた。


「一体何だ、どうしたんだ?」半ば半狂乱気味に多村が叫ぶ


「しっ」

唸り声がまた辺りに響き渡る

「ああぁぁあぁぁぁぁぁああぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁぁ」

段々声がゆっくり、ゆっくりと車の方に近づいてくる。

ペレーは祈るような形で小声で叫んでいる。

「来ないでくれ 来ないでくれ」

だが祈りを無視するかの様に、無情にも足音はどんどん近づいてくる。

「ダメか」マサが一点を凝視して言った。

すると近づいてきていた足音が突然、何事も無かったかの様に消えてしまった。

皆、下にかがみ、誰一人、外を確認するどころか顔をあげる者は居なかった。

身体は自然とガクガク震え、暫く四人は動かなかった。

いや、恐怖のあまり動けなかったのだ。

近づいてきた何者かの足音は完全に消え、辺りは元の静寂に包まれている。

不気味なくらい静かで異様な程に長く感じる、この今と言う瞬間。

「いったのか?」光堂の足は震えていた。

まだ、車の外をみれないよ

誰も動こうとはしなかった、あまりの恐怖に確認が出来ない。

それ程、常軌をいっした異様な唸り声

そして、マサの尋常なく驚いた表情。

一体、何だったっていうんだ、光堂達はようやく落ち着きを取り戻し、身体をあげ外を覗いてみる。

その瞬間、鳥肌がたった

車の目の前には、いつ顔をあげるのか待っていたのであろう、ライオンの様な不気味な顔、身体はライオン、しかし四本の足だけは人間の足、見たこともない恐ろしい化け物がこちらを覗いていたのだ。

その化け物が人の首を咥えながら、こちらを見つめニタアアアッと笑った。

「うわあああっわぁぁぁぁぁ」

車内はパニックになった。

するとペレーは、パニックのせいか外に出ようとしている。

「ペレーよせっ」光堂は叫んだ。

ドアを、ガチャガチャしているが鍵がかかって開かない、ペレーは完全にパニック状態になっている。

外に出ようとしているペレーを多村が抑え、光堂が後部座席から前に移り、エンジンをかける。

その化け物は、咥えていた首を捨て、車に突進してきた。

車のフロント部分が、少し潰れたがエンジンがかかる、光堂はアクセルを全開に踏み込み、その化け物に突進した、化け物は身体を反らせ避け、振り返り、こちらを睨みつける。

そのまま全速力で、車は真っ直ぐ走った。

「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁ」

後ろで獲物を逃がした悔しさからか、怒りをブチまける様な、化け物の異様な唸り声が辺りに響いている。

後ろを振り返ったマサは驚いた。

後方に更に同じ化け物が二匹車を狙っていたのだった。

「取り囲まれていたんだ、あのままいたら四人食われていた」

マサの発言に皆はゾッとする

もし、ここまで、歩いて来ていたら、確実に食べられていただろう。

車内には会話は無く、沈黙の中、車は走り続ける。

暫く走ると、車を停め「みんな大丈夫か?」

光堂は運転をした事が無かったが、気付いたら咄嗟に運転していた「なんとか、出来るもんだな」額からは汗がこぼれ落ちていた。

少し落ち着きを取り戻し光堂は皆の表情を確認する。


「ああ、大丈夫だ」多村が答える


「うん大丈夫」マサも落ち着きを取り戻している。


しかし、ペレーは未だにガタガタ震えていた。

車の中の会話はその後もなかった、少し遅れてたら、あの咥えられてた首は自分達のものになっていただろう。

静まり返る闇の中 光堂が言った

「ペレー、多村、お前達はこれ以上は来るな」

戻らない覚悟を決めていた多村だったが揺らいだ 、ここに来て初めて気持ちが揺らいだ、目の前のあの恐怖に心は折れかかっていたのだ。

ペレーは静かに頷く。

光堂と、マサは、二人がとにかくここから、無事に戻れるか心配だった。

くそっ、もっとはやく二人を帰しておけば。

車の中、四人は辺りをずっと警戒して確認している。

車内の空気を変えようとマサが

「しかしさっきの化け物滑稽な姿だったね」

誰も返事のしない状況に、光堂と多村 ペレーはようやく笑い出す。

だが再びすぐに車内は静寂に包まれる。

光堂は空を見上げ人間は死んだらどうなるんだろうか?と考えていた。

当たり前に死は、生と隣り合わせのはずなのに今まで自分が死ぬなんて考えた事なかったな、ふとそんな事を考えている。

明日も、明後日も、何も変わらずに当たり前に続くものだと信じていた。

死を間近に感じ、そんな事を何度も考える。

光堂は綺麗な星空をじっと見つめていた。


本当に綺麗な星空


多村は外を確認して、危険はなさそうだと思うとペレーを外に呼んだ。

中々外に出ようとしないペレーだったが、何か多村が言いたい事があると察したのか、辺りが安全なのを確認すると、ようやく外に出た。

二人は何か話してる様だった、聞かれたく無い話なのか、少し車から離れて話ていたので光堂達には聞こえなかった。


「ペレーお前に聞きたいんだが 黒楽町の入り口まで、二人を車でつれていくのは嫌か?」

ペレーは返事をせず黙っていた


暫くしてペレーは

「二人は友達行くウキっ」と顔をあげる


「無理してないか?無事に帰れる保証は出来ないんだぞ?」


「多村はどうウキっ?行くのは知ってるウキ、ペレーも行くウキっ」


「覚悟はあるんだな?」


ペレーは頷いた。

車内で、光堂とマサは、二人が何を話してるか気にはなっていたがあえて話題にはしなかった。

二人は車に戻って来て「代わりばんこに休息をとろう、一人が起きて 後の三人は寝る それを一時間おきに交代にしよう」多村が提案する。

分かった。

最初は光堂が起きていた。

三人の寝顔を見ては眠くなったが、多村と、ペレー 、マサの顔を見ていたら突然泪がこぼれ落ちた。

信じられない様な話を信じ、命をかけて自分達を送ってくれている友

いつでも自分の事を信じ、味方でいてくれる親友マサ

彼らへの感謝が、込み上げては泪が止まらないのだ。

こんなことは初めてだった。

誰にも見られないように光堂は涙を拭った。

夜空の星だけが、四人を優しく包んでくれてるように感じる

光堂はただ黙って深夜の沈黙の中、暫くじっと星を独り見上げていた。



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