『優しき光』
光堂を除く、本当の事情を知る仲間たちの心はざわついていたが、その時はやって来た。
いよいよ別れの時、本当の別れの時。
もうお互いが会うことは決して無い、最後の時
多村、ペレー、マナは真剣だが、何処か悲しい眼差しで、そこに立っていた。
そう、この後、光堂か、マサ、どちらか一人しか地球に帰れないのを知っていたからだ。
光堂はその事実を知らず、このすぐ先の未来を知るのはマサの胸の中だけだった。
姿を消していたコードーは、船に戻ってきていた。
「準備は良いか?これから地球に戻す、身体が下から消えていくけど大丈夫だから」
「ああ」光堂は頷いた
「二人で地球に帰った後は、俺達もそのテレパシーとかいうので、みんなに語りかけてみるよ、なっ、マサ!」
マサは突然口を開く
「光堂、言わなかったんだけど二人は帰れないんだ」
「えっ?」
光堂は自分が今、マサの口から聞いた言葉を信じられなかった。
「今、なんて?」
「地球にはどちらか一人しか帰れないんだよ」
「何でだよ」光堂はもう一人の自分、コードーを見て言った。
「すまないが、お前達二人は死んでここに来たんだ、戻れるのは一人、一人しか戻れない理由は、今説明した所で理解は出来ないだろう。俺達を超えた、大きな宇宙の流れがあるんだ」
その時だった。
マサが急に土下座をしたのだ。
「ごめん、光堂 どうしても地球に帰りたいんだ、おれが帰って良いかな」
「えっ・・・・」 と光堂
みんなは黙って二人を見つめていた。
「アハハそうかよ、当たり前じゃないか、マサが帰りたいって言うからここまで来たんだ、そうしてくれ」
光堂の本心だった。
マサはコードーを見つめた。
コードーは頷く
「マサ帰ったらさ、俺の家族に心配要らないって伝えといてくれよな、それから元気でやれよ」
もちろんマサが帰りたいと自分の意志をハッキリ言ってくれたのは嬉しかった。
もちろんこういう状況だったと知ってたら、始めからマサに帰ってもらう決断を自分がするのは分かりきっていたことだったから。
ただ、ほんとは正直少し悲しくもあった、マサならこういう伝えかたをしないと思っていたから、ちゃんと言ってくれると・・・
まあ、マサが帰れるなら、本当に心から嬉しかったし、良かった。
少しさびしい別れ方ではあったけど、マサが無事に帰れるなら、光堂は心から嬉しかった。
しかし、すぐさま異変に気づいたのは光堂だった。
「どういうことだ、何でだよ」
そう、光堂の身体が下から消え始めていたからだった
「マサ、お前嘘つきやがったんだな、こうでもしないと俺がお前を帰そうとするのを知ってて」
そう、いつでもマサは光堂の気持を良くわかっていた。
わざとそうしたのだ、光堂に残りの地球での人生を生きて貰う為。
光堂は涙を流した。
あんなに帰りたがっていたじゃないかマサ
友の気持ちを一瞬でも分からなく、気づかなかった自分が悔しかった。 くそっどうして?
消えゆく最後の景色の光景は一生忘れることはないだろう
宇宙人達は優しく見つめ、最後まで暖かいエネルギーを送ってくれていた。中には涙するものも
コードーも自分自身との最後の別れをしっかり見つめていた
マナは涙を流し、手を降っている
そして、多村、ペレー 、マサ
しっかりと光堂を見つめ
あの誓いのペンダントを光堂が見えるようにかざしていたのだ。
それが光堂の見たみんなの最後の姿だった
マサ みんなっ。
光堂が再び目を覚ました場所、それは静かな病院のベッドの上だった。まわりには憔悴している自分の家族がいた。
「ああっ良かった、あんたずっと意識不明だったんだよ」
「まっ、マサは」
家族は下をうつむいた。
光堂はその様子を見て、全てをさとった
やっぱりマサは死んだんだ。
その事実に打ちのめされ、光堂は声を殺し泣いた。
マサが俺を生かしたんだ。
一番帰りたかったはずなのに
どうして俺が助かり、マサが……
全部ただの夢だったのか?
首元に先程までつけていたペンダントはなかった
どうして、俺だけ?
家族が病室を出た後、光堂は何も気力がわかず、ただ一日ぼーっと空を見ていた。
空の色はこちらの心情とは関係なしに、一日の間に、色々な表情を見せた。
もうこの世にマサは居ない。
あれは、全部幻だったのか・・・
光堂は悔いていた。どうして俺だけ助かりマサが。
あれが夢にしても、どうして最後見抜けなかったんだ、マサの取る行動を。
何度も何度も病室のベッドを殴っては、悔しさや、やるせなさに打ちひしがれる。
ある、朝
廊下からこんな会話が
「ねぇ、ママあそこのうちの犬喋るんだよ」
「バカなこと言うんじゃないの」
「本当だよ」
光堂は、今や、あれらの体験は自分の夢だったと思っている。
きっと意識が生死をさまよいみた、幻だったんだ。
ある時、看病に来てくれた多村の顔を見て、光堂は嬉しくもあった。
「マサの事は残念だ、でもマサの分もしっかり生きなきゃな」
多村らしい言葉だった。
光堂は質問した。
「ペレー知ってるか?」
「ペレー何だそれは?」
「いや、何でもない」
光堂は、もはや現実を前に、全ての気力を失っていた。
何の意欲もわかず、ただただ、空を眺めていた。
ある時ニュースを観る。
至るところでの、戦争やら、痛ましい事件
あの夢でみた宇宙人の世界とは、この場所は大違いだった。
あそこにあった一体感、調和はまるでなく、人々、全てはそうバラバラだった。
もし、あの夢が事実だったら、地球はとんでもないほうに向かってる、誰も何も知らず、どこに向かってるかも分からず、エゴの塊の政治家、私欲にかられた権力者に操作され、全ての星から隔離されつづけているのだから。
しかも、誰もその事に気づいていない
しかし、あれは夢。
そう、ただの夢
それに、今はそんな事どうでも良かった、マサが死んだんだ。
光堂はその後も何もせず、ただただ空を見つめては過ごす日々が続いた。
ある時、病室のテレビではUFOの番組がやっていた。
「彼らは実在します」
そんな言葉に番組のコメンテーターは鼻で笑い、映画の見過ぎですよ、この文明が発達した時代に宇宙人なんて、と笑っている。
つくり話、つくり話、嘘 嘘。
その二日後、光堂は退院した。
そして、なんのためか、金のため、生活の為、世間の体裁の為、生きる為、アルバイトをして、ただただ漠然としない日々を過ごしていた。
これが夢なのか?もしかしたらあっちが現実なのか?もう何も分からない状態でもあった、もちろんこちらが現実なのだろうが、何故だろう、あまりにもあちらの世界の方がリアルに感じたのは。
きっと生死をさ迷った事で、脳が少しいかれただけさ、あれは夢だったのだから。
そんなある日の事だった。
仕事に向かう途中、道を歩いていると、声をかけられたのだ。
「あのう、光堂さんですよね?」
「そうですけど」
「やっぱり、私あなたが入院してた、部屋の看護婦だったんですけど、これベッドの横に落ちていたんです」
光堂は自分が目にした物に言葉を失う。
そう、それは、あの誓いのアクセサリーだったのだ。
まっ、まさか、あれは夢ではなかったのか?
今や、あの時の光景がリアルに光堂の頭によみがえって来ていた
「あれは、夢じゃなかったんだ」
光堂は空に向かって叫んだ、みんないる
マサも生きてる
存在しているんだ。
その瞬間、自分のすべき事が分かった。
自分の知った事実を少しでも多くの人に伝えたい。
それから、光堂は至るところで情報を発信し、友達や周りの人々にも話した。
だが、ほとんどの人が鼻で笑うか、変人扱いするだけだった。
そう多村以外は。
二人は精力的に活動を続けた、調べるうちに世界中に同じような体験、同じことを話す人々がいるのが分かった、きっと彼らは知ったんだ。
隠されつづける本当の真実に気がついたんだ。
それから、何十年たっただろうか。
世界情勢もそこまで変わっていない。
いまだに、姿無き力持つ者が都合の良いルールをつくり、情報はコントロールされ、ピラミッド型の社会体制は何も変わらず、世界から争いもなくならず、地球外に存在がいることなど、ほとんどの人間が信じられない時代は続いていた。
しかし、一番の問題はそれらの世界があると言う事では無く、そこから人々の意識が抜け出そうとしない事なのかも知れない。
そう、あの宇宙存在達の意識状態からはかけ離れた制限、分離の意識状態がここにはあった。
光堂はあの体験の後、この地球で生きる事によって気付いた事があった。
この地球は基本、分離の意識から成り立っていたのだ。
人々を国でわけ、国境をつくり、はたまた、宗教や、人種でわけ、争い、競いあう。
同じ命ではなかったか?
いつから、互いに傷つけあい、騙し合い、搾取しあい、互いの首を締め合うようになったんだ?
しかし、それらの世界の中、今分かるのは、その中で自分自身がどう在りたいかなのであった。
世界と関係なしに、自身の在り方は自分で選ぶ事は出来るから。
ある晩、光堂は夢を見る
そこには、随分とたくましく成長した、彼らが立っていてこちらに微笑んでいるのだ、彼らとは、そう、多村に、マサ、ペレー、マナの姿だ。
光堂は、急に意識に語りかけられる様な声に気づいた こっこれは?
導かれるまま、声の呼びかけ通りに、家を飛び出し進んだのだ。
着いたのは、ある広い野原のような場所
空から光るものが、降りて来た。
とても、眩い光を放っている
目をこらして見ると、そこに立っているのは そう
マサ、多村、ペレー、マナだった。
「久しぶりだな、光堂、迎えに来たぜ」
「懐かしいウキね、さて地球の手伝いウキ」
「光堂さん懐かしい」
マサはニッコリ笑い
「またみんなで冒険しよう」
「みんなやっと会えたな」光堂の声は感動と嬉しさのあまり震えていた。
頬には自然と涙が伝った。
「今、地球はすごい時期に入ったんだ、変化の時期だ、長い眠りから覚める時。
それを手伝うためにこの任務を受けおった。さていっちょやろうぜ、光堂」 多村は笑った
光堂は不意にこんな事を思った、終わりじゃないんだな。
マサが微笑む
「当たり前でしょ」
「ああ、やろう」
ちょうど現在、今と言う時に、その一筋の光は地球に降りたっていた。
「さあ、一緒に冒険に出よう」
光堂の身体を暖かく、優しい光が包んでいた。
この物語を読んでくれた あなたへ
これを読んだのはきっと偶然などでは無い
これは彼等からあなたへの誘いである
さあ、自分と言う、真実に目を開く勇気の扉を開けるのは今
完




