『岐路』
「重要な話?」
みんなはコードーの真剣な眼差しから、只事では無いと言う事を察知し、息を飲んだ。
コードーは この時、言葉で語らずテレパシーで皆に語りはじめたのだ。
それは、言葉を耳から聴くのとは違い、みんなの意識に直接言葉として響き渡る。
まずは、みんなに伝えたいことは、俺が突然姿を消して何が起こったかということだ。
俺はその日、いつも通りに生活してた。
そこに、ここにいる彼らが訪れたんだ。
今のみんなのように色々真実を教えてもらったり見せられたりした。
今は信じられないかもしれないが、みなも、地球に生まれる前に彼らとの同意のもと、ここに来ている。
これは、全て偶然じゃない、みんながした全ての冒険も。
俺は今こうして全てを思いだしここにいるんだ。
さて本題に入ろう。
まずは俺自身から、光堂とマサがなぜこれだけ違うパラダイムの俺らの世界にいきなり来たのか、この事実から伝えよう。
二人はこの地球に来る前、山に登ったのが最後の記憶だったんじゃないかマサ?
「ああ、そう言えば」
あの時二人は死んだんだ。
「えっ?、そんな」
それで、これだけ違うパラダイムの地球に二人は移行した。
まあ、それも全て計画の内だったんだが。
そして、今みんなに聞きたい
みんなはこれからどうしたい?
この宇宙連合と共に、今後コンタクトをとり活動するか、全ての記憶を消し、もとの生活に戻るか、みんなの自由な選択だ。
すぐさま多村は返事をした。
「俺はやらせてもらう、この記憶を全て消すなんて、そんなもったい事はしたくないね、それにお前たちのその宇宙連合というチームにも何だが興味がわく」
「わたしも、戻るところもないし。それに、ここのみなさんは、あったかくて優しいし、知らなかったこと沢山教えてくれるし、是非やりたいです」
「ペレーもやるウキ」
マサはしばらく黙っていた。
そして口を開く
「やるのは構わないけど、僕たちはもとの地球には帰れないの?」
コードーはまっすぐ、マサを見つめる
しばらくの沈黙の後
意識に言葉が伝わった。
その言葉は予想外のものだった。
それは
どちらか一人だけなら・・・
この理由は今言っても理解できないだろうから、説明は、はぶかせてもらう、全ての流れがあるんだ。
計り知れない広大な宇宙の大きな流れが。
いつか、何故そうなったのか理解出来る時が必ず来る。
今は酷なようにきこえるかも知れないが、いつか分かる。
そして、その一人をマサ お前が決めるんだ、お前の判断に任せる
コードーの瞳は全てマサを信頼し、なにかとてつもなく大切なものを託している様な、そんな風に感じた。
手伝ってもらうとなると、地球に戻ってからやることはたくさんある、地球の人達の意識の変革、宇宙人が存在していることを知っても混乱のないように世界に伝えて欲しいんだ。
明日一人を地球におくりかえす。
それまでに決めてくれるか?
残る者はこちらのパラダイムにしばらくいることになるはずだ。
そしてみんなは、ここにいても良いが、いったん帰るのも良い、そしたら、またコンタクトをとりにいこうと思う。
「あの私このまま、ここに残っても?家族もいないし、ここで生活してもいいですか?」
分かった。
多村、ペレーはいったん帰るんだろ?
また、コンタクトをとりにいく。
コードーはこちらの意識を読めるのか、こちらがどう考えているのか全てわかっている様だった。
俺は少しここをあけなきゃいけない、明日の、みんなの別れには立ち会いに戻るよ。
多村、マサ、ペレー、マナ、は思う。
そうだ 俺たちはこれから・・・・
いよいよ 皆が、それぞれの道を歩きだし、別れの時が近づいていたのだ。
皆の心は寂しくもあった。
宇宙人達は、その心も理解しているようで、暖かいまなざしで、そっと彼らを見守っていた。
「マサどうするんだ?」多村が尋ねる
「みんな、光堂には明日まで話さないで欲しい、自分で決めようと思う」
「わかった」
マナも、ペレーも黙ってマサを見つめていた。
マサにはそれ以上誰もどうするのか問いただすことはなかった。
その話が終わりしばらくたってから光堂は目を覚ます
「ずいぶん寝てたようだ、ここは一体」
起きてすぐ目の前にいたのは、顔が長い存在の宇宙人。
その存在を目にし、自分がやはり夢を見ていたのではない事を光堂は知った。
「あれっ、みんなは?」
「ここだよ」それは多村の声
「確かトカゲみたいな?ワニみたいな宇宙人に身体を持ち上げられて、それ以降、記憶がないんだ」
多村は光堂の顔を見る
「おいっ、明日俺たちはどうやら、お別れのようだぞ」
「えっ?本当か?みんな無事帰れるんだな?」
「まあ、そういう事だ」
「そうか、良かった」
黒楽町に入ってからずっと、張り詰めていた緊張感と責任感がすっととれたようだった。
良かったみんな生きて帰れるんだ。
自然と笑みがこぼれる。
「別れは正直寂しいよ、ただ忘れはしないから」光堂は多村の顔を見た。
多村は黙って光堂に手を差しだす
二人は力強い握手を交わし
「しっかりやれよ」と多村はつぶやき、光堂を見つめた。
目の前には二人を包み込むような壮大な宇宙の星々や、惑星達が広がっている。
「光堂さびしいウキよー」振り向くとペレーが涙していた。
「俺もだよ、俺たちの地球に来たら、しゃべる猿なんてすぐさま有名人になるぜ」
「いつか行ってみたいウキね」
「ペレーには何度も命を救われた気がするよ、ありがとう」
「それはこっちのセリフウキ」
二人はハグをする。
「また、会えるウキよね?」
「ああ、きっと」
「また冒険しようウキね」
「ああ約束だ」
ペレーはこれ以上の泣き顔を見られたくなかったのか、すぐ後ろを向き、去って行った。
光堂もなんだか目頭が熱くなっていて、それを隠すように外を見つめていた。
肩を叩いたのはマナだった
「明日、お別れだね」
「ああ」
「みんなから沢山の勇気と信頼の素晴らしさを教わりました。そして何度も助けてもらいました、これは永遠に忘れません。本当にありがとう」
「こちらこそ、自分の命を投げ出し人を救う強さを、マナには見せてもらったよ、ありがとう」
マナは下を見つめた後、急に真剣な顔になり光堂に言った
「最初は戸惑うかも知れないけど、いつかきっと分かると思います」
???
光堂には、そのマナの言葉の意味が、この時、まだ分からなかった。
マナは微笑み、そして、手をさしだす
二人は握手をかわし
「ありがとう」
近くにいた宇宙人が、さっきからのやりとりを見ていて号泣していた。
「あたしこういうの弱いのよ」
その言葉を聴き、みんな笑っている、彼等もまた地球人と同じ様な感情がある事になんだか親近感を覚えた。
次に横に立ったのはマサだった。
「ふぅーやっと帰れるなマサ、最初は俺もどうしようかと思ってたんだぜ、マサの地球に帰りたいって意志が俺をここまで引っ張ったんだ。
まあ、地球に帰ったら制限ばかりの、信じられないくらい凝り固まった世界に見えるだろうな、彼らに宇宙人なんか言ったって信じるかな?まあさ、帰ったら、あのラーメン屋必ず食べに行こうな、二人のお気に入りの」
マサは微笑み終えると、光堂から目をそらした。
「さてと今日はみんなで過ごす締めの一日だ、楽しくやろう」
光堂は笑い、マサの肩を叩き、みんなの元へ向かい出す。
その日の夜はお互いの世界の話をし、みんなで笑いあい、素晴らしいひと時を過ごした。
生まれ育った環境が違えど、全ての存在はこうして仲良く共に過ごせる
それは本当はどの魂も強く望んでいることなのかも知れない。
地球は国によって分断され、更には肌の色、人種、地位、能力、その様なもので時に人を分けて見る事がある。
それらの視点は、時によって、同じ生命と言う存在を差別し、価値をわけ、分離意識と言うものを強くしてしまう傾向がある。
本来同じ命に線を引き、内に巣食う恐怖や不安が互いの間に終わりなき争いを生んだ。
だが、地球の人達だって、この惑星の人達の様に、戦争をなくし、皆仲良く暮らす、それは決して不可能な夢ではない、人類も必ずみんなで手を取り合える時代が来るはずなのだ。
同じ人間同士が殺しあいをするような時代は、必ず終わる。
この仲間たちといる時、その小さな光の種は光堂の中で確信へと変わっていった。
そう
なぜなら
僕らは同じ
生命なのだから
そして、いよいよ、その時は来た。
そう、それは皆が、それぞれの道に進む別れの日の朝。
静寂と言う言葉がぴったりな静かな朝だった。
それぞれの思いを胸に、その時は訪れる。
光堂はみんなで過ごした時、冒険を思いだしながら、外を眺めていた。
出会いから、些細な会話、共に過ごした色んな思い出が、風景となり頭をよぎる、別れは正直寂しかった。
でも仕方ない、俺達は帰るんだ、自分のいた地球に、お別れの時だ。
光堂の目の前には広大で美しい宇宙空間がひろがっていた。




