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ブラインドワールド  作者: だかずお
21/27

『対峙の時』



四人は光の橋を力強く全力で走っていた。

無心で、ただただ目の前のピラミッドに向かって突き進んでいる。

自分達の大切な友を、取り戻す為。

夜明けの空気は冷気を帯びていて、四人の吐く吐息は白く

奇妙な大きな円の形を浮かべた様な、赤褐色色の月が、ピラミッドを照らしていた。


光の橋を渡り切ると、何やら目の前に人影が。

暗がりを目をこらして見つめて見ると、こないだ会った、あの部族の人達が馬に乗り立っているのが見えた。


「君たちをピラミッドの近くまで送らせてくれ」


光堂は頷いた。

馬に乗り、彼らのテントの場所でみんなは降りる。

やはり、あのピラミッドの主は何でも出来るのか?

今回の地形は最初の頃と同じになっており、河からピラミッドまでの距離もまた、最初の頃に戻っていた。


そして現在、ピラミッドは、今やもう目の前

光堂が言う「みんな行くぞ」

四人は送ってくれた彼らに礼をして、ピラミッドに躊躇なく向かっていく。


その時だった、前にも度々発言していた、部族の女性が声をあげる

「私たちも、彼らを助けましょうよ、いつまでも怯えてるだけじゃ何も出来ないわ、みんなで彼らと共に」


男達は下を向き誰一人動こうとする者はなかった。

彼らは、あの神と名乗る存在に、すでに心を折られていた。今までに植え付けられた絶対的な恐怖心、そこから動けずにいたのだった。

光堂達は、後ろは振り向かず、ピラミッドに向かい突き進む。

背後からは必死に説得する女性の声とは対照的になんの反応も無い沈黙、女性の声だけが辺りに響いているのが耳に聴こえた。


その時、ペレーが後ろを振り向いて叫んだ。

「みんなが恐がる気持ちは分かるウキ 助けはいらないウキ 」


長老がそれを聞き

「その人数では、あの無数にいるであろう骸骨達に殺されるだけです、何故行くのですか?」


「友達がいるからウキ」


「確実に殺されるんですよ」


ペレーは長老の顔を見つめた「ここで何もしないで諦めてるだけのほうが死ぬよりも、よっぽど恐いウキ」


その言葉を聴いて光堂達は微笑む


多村が「ずいぶんとたくましい事言うようになったじゃないかペレー」と笑った


「勇敢なるペレー様ウキ」


人々は下を向いて、いつまでも立ち尽くしていた。

四人がピラミッドの方に進みつづけると、ピラミッドの真横には断崖絶壁の崖が見える。

その崖の所でまさに儀式は行なわれようとしていた。

崖の先端は少し細く突起した道がのびており、その先端に、木にくくられたマナを発見した。

マナは四人の姿を見て驚きを隠せずにいる


「どうして、ここにいるんですか?」


「俺には彼らを止める事は出来なかった。マナには申し訳ないが、みんなが選んだ道だ。誰一人として後悔はない」光堂はマナに聞こえるように大きな声を上げた。

その言葉を聞き、マナは涙を流した。

まだ出会ったばかりの自分の為に、命を懸けて救おうとしてるこの者達の優しさと、生きる姿勢に触れ、それは悲しさの涙ではなく嬉しさから生まれた涙。

本当におかしな人達。マナはその行動を受け入れ、何が起ころうとも覚悟を決め、四人の男達から目を逸らす事をせず、見届けることを心に誓う、そして祈った。

友の無事だけを。


一番驚いていたのは、神たる男

男は笑い出す

「アハハハハ 本当にこんな馬鹿どもがいたとはなあ、で、どうするんだ」


骸骨達はまさに四人に襲いかかろうとしている


「この私が感動でもして、赦すとでも?」


光堂は相手の目を見て言う。

「お前には、この絆を壊すどころか傷つける事も出来ない お前の負けだ」


神たる男は憤り 叫ぶ


「やれ」


光堂達も武器を持ち骸骨達に向かっていく


「みんな行くぞ」


「うおおおおおおおおおおお」


骸骨は一斉に四人に襲いかかり、すぐに四人はとり囲まれる

一体の骸骨の槍がペレーの背中を突き刺そうと振りかざされていた。

マサがそれに気づきペレーを押し、間一髪串刺しは免れる。

だがもう、いつ誰がそうなるかも時間の問題だった


多村が突然声をあげ

「ここは俺に任せろ、つっ切るからマナを頼む」多村は振り返り、微笑む。


「ばっ、馬鹿、よせ死ぬぞ」光堂が叫ぶ


そう光堂が叫んだ時には既に遅かった。

多村は一人、無数の骸骨に向かって走り、突き進み始めていた。

全てがゆっくりに見えた。どうして?

そう、時が今にもとまりそうなくらいスローモーションに感じる

目の前、骸骨に一人突き進む多村の姿が、まるでリモコンでいじった映像の様に、ゆっくりに見えた。


「たっ 多村 馬鹿よせっ」


そう、男は自らの死を選んだ、仲間全てを救う為

これが自分の思いつく最善策、友を救う為に出来る事はこれしかない。

一人の男は死を覚悟した上、骸骨達に突進して行った。


それは、大好きな友の後ろ姿

違う次元の世界から来た自分達ですら受け入れ、理解不能な話を信じ、友としてこうして立ってくれた男の後ろ姿


「たっ、多村、ふざけるな自分だけ、自分の事だけ犠牲にするんじゃねぇよ」光堂の瞳からは大粒の涙がこぼれていた。


「多村」 「多村ウキーーっ」叫ぶマサとペレー


骸骨達は一斉に、その友にめがけて槍を振りかざす


父さん、母さん、先にゆく、息子を許してくれ。

でも俺は何一つ後悔はない、おかげで大好きな者達を守れたんだ。

自分の生き様に後悔は無い。

光堂、マサ、元の世界に無事に帰るんだぞ。

ペレーお前は勇敢な男だ、もう何も心配は要らないよな

みんなマナを救い出してくれ!!

じゃあな。


骸骨達は一斉に多村に向け武器を振りかざしていた。


多村が死ぬ


「やめろおおおおおおっ、頼む、やめてくれえええっ」皆は叫んでいた。


「たっ、多村」


辺りに響いたのは何かが崩れ落ち、地面に倒れ落ちる音

光堂は怖くて、とてつもなく恐ろしくて、多村の居た場所を見る事ができなかった。

目の前の現実として、その状況を受け止める自信は無かった。

頭は混乱している、せっかく多村が作ってくれたチャンスを俺は何やってんだ、光堂は再び動き出した。

マナを助けなければ。

後ろは見ず、気付けば前に向かって全力で走っていた。

マナを必ず助ける。


その時だった。

後ろから大勢の人達の声が

「どうやら間に合った様だ」

その声は、あの部族の人達の声。

放った矢は多村を襲おうとしていた骸骨達を打ち抜き、地面に崩れ落としていた、先程の音は多村の倒れる音では無かったのだ。


「我々に立ち上がらせるチャンスをありがとう、皆ペレー様達に力を貸すんだ」


「おおーっ」


彼らの加勢により、多村は間一髪助かったのだ。

ピラミッドの主は、歯を食いしばり悔しがっている

こうなったらあの女だけでも。


多村が叫ぶ

「光堂、マナを助けろ!!」


光堂の瞳からはまたも大粒の涙が溢れていた。

馬鹿野郎心配させやがって。

ああ、必ず助ける!!

マナのもとに無我夢中、全力で走っていた。


男は何やらブツブツと祈り始める

すると、その瞬間 マナの立つ足元の岩にヒビが。


「あっ」皆は叫んだ


直後、マナの立つ崖の先端は音を立てて、崩れて下に落っこちていった。

「嘘だろ、間に合わなかったか」これ以上の言葉を失うインディアンの者達


その時だった崖から飛び出すひとつの影

そう光堂であった。

神たる男は目を丸くして見ていた、なんだ崖から躊躇せず、飛び降りただと?

「馬鹿めっ、死ぬつもりか」


光堂の体全体、崖から落ちて行く


「馬鹿な」助けられる方法は無いのに何故飛び降りた?自分もただの無駄死になっただけではないか。後追い自殺でもしたのか?男はその行動に驚きを隠せないでいた。


だが、次の瞬間だった。

その光堂に続き、すぐに追いついたマサが飛んだ

マサは光堂の足を掴み

マサの足をペレーと多村がしっかりと掴んでいた。


「なんて人達なの」

仲間が動けなきゃ、この行動を察知出来なきゃ死んでたのよ

何と言う信頼…

インディアンの女性は思った。


「マナは無事か?」 一同の祈るような声


先端の光堂の手はしっかりとマナを掴んでいた

その光景を見て みんなは喜び、歓声をあげる


あいつ、仲間を信頼していたのか?それとも、無意識に仲間を助ける為、命を捨ててまで飛び込んだだけなのか?


男は地に膝をつき

「私は、ここに光をみた」そう意味深な呟きをして、うなだれてしまった。

その瞬間、全ての骸骨達も崩れ落ち動かなくなる。

助けに来てくれた人々も手伝い光堂達を引き上げる、みんなは勝利の雄叫びをあげた。


ウオオオオオオオーッ


それは長い間恐怖に支配されていた、人々の魂が解放された、真の喜びの雄叫びだった。


男は光堂達を見上げる

「好きにしろ、殺したきゃ殺せ、もう私には」

男の目は、先程とはまるで違う、別の人間のような目になっていた。

精神は瞳に宿るのだろうか?

男の瞳からは、先程まで持っていた自信は、全く影を潜めてしまっていた。

彼にはもう、戦う意思もない様だ。


光堂達は彼をどうしようとも思わなかった。

背を向け歩きだす。


すると突然、男は突然立ち上がり


「聞くが光堂とやら 地球はひとつか?」


何を言ってるんだこいつは、と光堂は思った。

返事をするつもりもなかったが 「当たり前だ」と気が付いたら、叫んでいた


光堂は立ち止まり、男と目を合わす

そこに立つ男の目、存在は、また先程までの男とはまるで別人

妙な自信は消え失せていたあの瞳は、今度はとても澄んでいて、まるで違う存在のようである


「進んで行けば良い、小屋の裏にある光の扉を」


「君は何も知らない 元の世界に戻りたいのか?本当に?僕は君の知らない事を知っている」私と自身を名乗っていた男の言葉は自らを僕と言っていたのに光堂は気付いた。


「君は知らないんだよ」


「どういうことだ?」


「君らの住む地球は無限にある」

男はそうつぶやき 崖から飛び降りた


「ばかやろう」

光堂は振り返らなかったが、地面に落ちていたきれいな花を崖下に投げた。

みんなは黙って立ち尽くしている

人々は自分達が神と恐れた存在の、あっけない最期に唖然としているようでもあり、後味の悪い結末に少し納得がいかなかった。


その夜は、助けてくれた、彼ら達との宴


お互い、笑いあい


酒を酌み交わし


もう家族のようで、あった。

時代や、考え方、 国が違っても人々はこうして分かり合える

賑やかな宴、歌い声、人々のダンスする音は 夜が明けても、いつまでも、いつまでも鳴り止まず

大地に歓喜の音として鳴り響いていた。

人々は支配から解放されたのだ。

魂の喜びの叫びは終わることなく、永遠に続くような愛の祈りの声は平和な大地にいつまでも響き渡った。



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