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ブラインドワールド  作者: だかずお
20/27

『忘れられない光景』



光堂がとっさに入った道には、マナも一緒だった。


「マナ前を走れ」


「はい光堂さん」


二人は全力で走っていた。

背後からは無数の骸骨達が追って来ている。

薄暗い道だが、微かに射し込む光により、しっかり前は見えていた。

この道もひたすらまっすぐ続いている。

いくら走っても、出口の光は見えて来ない

一体どれくらい走れば逃げ切れるのか?それは分からなかった。

精神力と持久力の勝負、後どれくらい?本当に出口に繋がってるのか?みんなは無事か?

しかし、そんな事を気にして、足を止める時間は二人にはない、今は生きる為、出来る事はただ走るだけだった。

すぐ後ろからは不気味な骸骨達が槍を持ち追っかけてきている


「急げ 急げ」光堂は全力で叫んでいた


すぐ後ろには、骸骨の群れ


ただ光堂には正直安心な気持ちもあった。

何故なら、この場に関してはマナは自分の前を走っている。

もし追いつかれそうになったら、少なくとも自分が犠牲になって時間を稼げば少なくともマナは助かる。そんな思いが頭をよぎっていた。

ガシャ ガシャ

骨がぶつかり合い、奏でられる不気味な音がどんどん背後から迫って来る。

こんな緊迫した状況の中、いや、こんな状況だからだろうか

骸骨の動く音、自分達の足音、自分の呼吸を、冷静に感じている自分もいた。

みんなは無事だろうか?

頭に色々よぎりながらも、全力で必死に走り続ける


「光堂さん前に出口が見えます」


「よしっ頑張れ」


その時、出口のほうから声が


「おーい光堂、マナ急げ、俺達は全員無事で、お前達をここで待ってる、急げー」


みんなは無事だったみたいだ。

よしっ。

光堂の心に火が灯ったようだった、希望が湧き上がる。

後は俺達が逃げきるだけだ。


「マナ無事に逃げ切るぞ、いける」


「はいっ」


その時だった、ゴゴゴゴゴオオッ何か大きな物が引きずられる様に動く音が響いた。

なんと通路の一部分の石壁が動き、マナの足を挟んでしまったのだ。


「そんなっ」


光堂は石を動かそうとしたがビクともしない、一旦マナの前にでて、前から力いっぱい石を再び動かそうとしたがビクともしない。


「くそっ、ダメだ」

光堂は地面に座り込んでしまった。


「私のことは放っておいて逃げて下さい、ほら約束したでしょ、自分の命優先で逃げるって」


「いや、マナをおいて逃げられるはずがないだろう」

光堂は今やあきらめ、逃げるつもりもなく地面に座り込んでいた。


その時だった


ピシャン 光堂の頬に痛みが走る

頬に走った感覚とは正反対に、その音は優しく、岩の間を反響し響き渡った。

その音は、マナが光堂の頬をはたいた音


「しっかりして下さい、あなたが逃げなきゃ、みんなはきっと逃げないわ、そしたら、みんな捕まり殺されてしまいます。私は覚悟くらい決めてここに来ました。約束して下さい、みんなで無事に戻ると、それが私の願いです」


「だめだ、それでも、マナだけ置いて行く訳には行かない」


「光堂さんが残っても、みんな死んでしまう、私はそんなの嬉しくない、友達全員を死なせちゃいけない、行って」


マナの嘘偽りのない真剣な瞳と気持ちに触れ、光堂はなにか吹っ切れた様だった。


光堂はマナをしっかりと見つめる

「分かった」


マナは微笑んだ

光堂は振り返らず走り去った。

自分は仲間を置いて逃げている。

他の者達の為に、自らの命すら厭わない心を持つ者を一人見捨てて逃げているのだ。

通路の外には、みんな無事に待っていた。

「みんな走れ」

光堂は間髪入れずに叫ぶ

みんなも後ろを振り返らず、全力で、光の橋を目がけて走りだす。

不思議なことに、なんと、すぐ目の前に河があり、光の橋は出来ていた。

これも、あいつの魔法?何故ここに河が?

まるで自分達を逃すように、奴が何かしたのか?光堂は思う。

まるで生贄は出来た、後はもう帰れと言ってるようだった。

みんなは目の前にある光の橋を全力で走り渡る。


すると次の瞬間、天から声が鳴り響く

「生贄の儀式は明朝五時に行なわれる、夜中に再び道をつくる、死にたい者は来ればいい」

そう言い終わると声は、何事も無かったかの様に消えた。

皆は必死に無我夢中で走っていて、気づいていなかった。

橋を走ってる最中、ようやく、みんなはある異変に気付く。

マナがいない

光堂が、走れと言ったものだから、みんなは全員無事だと思いこんでいた。


「おいっ、光堂、マナはどうした?」声を張り上げる多村


光堂は黙って走り続けていた。

橋を渡り切り四人は反対側、無事に小屋の方に辿りついた。


「マナは捕まったウキか?助けに行くウキよ」


「ああ、そうだ、戻ろう」


「うん、行こう」


みんなのそう言っている言葉を、しっかりと聞いていた。

光堂も、どれほどそうしたかったか。

だが、これは奴の罠、きっと、みんなを捕らえ殺す為だろう。

それが狙いだ。そうすれば全滅。誰も助からない

それに今みんなで戻れば、マナの覚悟も、意思も、無駄になる。

マナと約束したのだ。

光堂は力のない声でつぶやいた

「今は小屋に戻ろう」

みんなは、思っていた答えと違う光堂の反応を見て、顔を見合わせた。

しばらくすると、光の橋は消えてしまい、反対側に行く道は消えてしまう。

先程言っていたようにまた後に橋を出現させるつもりなのだろう。

小屋に歩いて戻る道のりは、誰も口を開かなかった。

ピラミッドに住む王たる、あの男はイスに座り憂いていた。

「これが人間、人間の本性だ。口では偉そうなことを言えど自分の命が危ないと分かったとたん仲間をおき逃げてしまうのさ、滑稽なり」と・・・


四人は小屋に無事にたどり着いた。


「マナを助けに行く準備をしよう」と多村


「そうだね」マサも続く


「よしっ、行くウキ」


「死ぬんだぞ」光堂はつぶやいた。


「何を言ってんだ、そんなのは百も承知だ」と多村


光堂の心は揺らいでいた、ここで全員で助けに行き、全員で死ぬ事が一番の解決策だろうかと。

その時マナの表情と気持ちが心に浮かぶ


「あなたがしっかりしないで彼らの命を失ってはいけない」

そんなように言われてる気がした


「いや、この小屋の後ろの道に進もう」


突然、多村が光堂の襟元をつかんだ。

「一体どうしたんだ?お前らしくもない、マナを一人おいて行くのか?それとも今更ながら、俺達の命が惜しくなったか?」


光堂は言いかえした

「仲間の命が危ない時、自分の命を優先しろって言ったよな、あの時のお前の気持ちとマナの気持ちが一緒ならどうする」


「まあ二人とも落ちいて」とマサが言った。


多村は続ける

「光堂、お前はそれで良いのか?最後にマナと話したのはお前だ、きっとマナの気持ちを聞いたんだろう。それなら俺も、お前とマナの気持ちを尊重する、それで良いんだな」


光堂は力なく呟いた「ああ、明日、朝その道を通って進もう」


「助けに行かないウキか?」


「そうみたいだな」


マサは黙って光堂を見ていた。

光堂にはとても辛い選択だった。

マナを見捨てるか、友の命を巻き込むか、とてもどちらかを選ぶ事は出来なかった、せめて自分がマナと代われたら。

光堂は一人、布団を頭からかぶり横になる。

布団の中

自分の気持ちを隠す様に、布団の中、目はしっかりと開かれていた。

時はたち、辺りは真っ暗になる。

窓からは、あの橋が出現する時に現れる光が差し込んでいる

自分にはマナを見捨てることなんて、出来やしないことを光堂は知っていた。

だからと言って仲間の命も無駄には出来ない

光堂が考え、決めていた決断は、一人で向かうことだった

マナを置いて逃げた時、最初から決めていた、皆が寝静まった後、黙って一人助けに行くと。

部屋を振り返らず、そおっと、みなに気付かれぬよう黙って小屋を出た。

小屋の前で心の中、皆に話しかける


多村みんなをよろしく頼む、お前は、しっかりしてるから何とかしてくれるだろう。


ペレー、怖がりのお前をこんな危険な旅に巻き込んでしまって済まなかった


それからマサ 俺の代わりに元の世界に無事に帰っておくれ


みんな、絶対に生きて帰るんだ。

そう言い終えると、皆が寝ている小屋に向かって頭をさげた、みんな、黙って行って、すまないな。

マナは俺が必ず助け出す。

光堂は光の橋に向かって歩き始める

すぐに、大地から湧き上がる様に放出されている、まばゆい光が光堂の目の前に広がった。


次の瞬間、光堂はその場に立ち尽くしてしまう


その時見た光景を、一生涯忘れることはないだろう

光の道のまばゆい光に包まれ、腕を組んだ、多村 ペレー マサの、三人が目の前に立っていたのだ。

彼らは光堂の気持ちを全て察していた。

光堂が仲間を見捨てるはずがない。

多分こうするだろうと。

その上での彼らの決断として、今ここに立っていた

彼らは、黙ったまま 首に巻く、あの誓いのアクセサリーを空にかざし、光堂に見えるように持ち上げる。

光堂は瞳に浮かぶ涙で、前が見えなくなった


すると多村が「遅いぞ」と


「ビビって来ないのかと思ったウキ」


「みんなで無事にかえる選択肢だってあるよ」とマサが微笑む


そうだった。

光堂はみんなから、仲間を信頼することの大切さを学んだ


そうだ。


マナを救い出し、みんなで無事に帰るんだ。

俺達なら出来る。

仲間を信頼するんだ。

涙を拭い前を見る


「マナを助けて、みんな無事に戻るぞ」光堂は叫んだ


「おおーっ」


真っ暗闇の森の中

四つの光は、不気味に待ち構える、あの紫のピラミッドに、再び向かって行ったのだった。



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