『ピラミッドの主』
紫のピラミッドは、まるで口を大きく開き、不気味に待ち構えてる様に見えている。
「しかし一体、何者なんだ、その神ってやつは?」多村が言った
「さあな!ただ者じゃないのと、むかつく奴ってのは間違いなさそうだ」光堂は残りのペットボトルの水を一気に口にふくむと、力強く歩き出した。
ピラミッドはもう、すぐ目の前
「いっ、いくウキよ」
五人は息をのんだ。
何故なら、近くで見て分かったことは、入り口の扉の上に、石で形づくられた、不気味な鬼の様な顔がこちらを睨んでいたからだ。
石の階段をあがり、中に入って行く
コッ コッ カッ カツッ
足音が石全体で作られた通路の中に不気味に響き渡る。
見るところ中は薄暗く、細くて、気味の悪い通路が、先の見えない程、何処までも長く、まっすぐ続いているようだった。
両の壁には不気味な絵が描かれている。人が怪物に食べられてる絵やら、黄金色の顔した人間、見たことない怪物の様な絵。
何やら文字も描かれていたが、全く読めなかった。
「これがお化け屋敷なら、まだ良かったんだけど」とマサが苦笑いして呟く
「お化け屋敷なら絶対に無事に帰れるウキもんね」
マナは、壁の絵をじっと見ては何か考えたりしているようだった。
しばらくの沈黙の後、マナが言った。
「この絵は何を表してるんでしょうか?」
「分からないウキ、ただ不気味なのは間違いないウキ」
薄暗く、長い不気味な通路
恐怖感のせいか、暗さのせいか、実際に経過してる時間以上に、長い間、そのまっすぐな道を歩いてる気がする。
一体何処まで続いてるのか?
まるで終わりの見えないジェットコースターにでも、乗ったような気分でもあった。
いや、ジェットコースターと言うアトラクションだったのなら、終われば無事に帰れると言う、存在の根底から揺るがされる恐怖感は無い、前提として、無事に生きては帰れるのだ。
しかし、今の現状は違う、ここは何処かの遊園地では無い。
そして、この先に待ち受けるのは得体の知れない存在
これから、実際に対面しなければならない。
いつ何処で襲われるかも知れない不安
光堂達の緊張感、恐怖感は凄まじいものになっていた。
マサの言った通り、これが本当に遊園地などのアトラクションだったら、そんなことを思う。
光堂は自分に落ち着くんだと、言い聞かせるよう、呼吸を必死に整えていた。
ちょっとした物音ひとつでも、心臓がはち切れてしまうんじゃないかと言う程の緊張感、恐怖感。
それは真っ暗な道を、前に進めば進む程、増大してるようにも感じられた。
ここに入る前の憤りは、今や恐怖や不安によって飲み込まれている様だった。
もう今や、前も後ろもほとんど見えないくらいの暗闇になっている
「さっきまでは、まだ薄っすら見えたけど、これくらい暗いと歩けないな、誰かライト持ってないか?」多村がみんなに聞く
「私、持ってます」マナがライトを、カバンから取り出した。
「俺も持ってる」と光堂
二つのライトを灯しながら、五人は更に奥に進む
先頭を歩いていた光堂が、突如叫ぶ
何故なら沢山の人骨が、辺りに散らばってるのを見たからだ
「ウキー 人の骨ウキ」
ペレーは、腰を抜かし地面に座りこんだ。
「あー戻りたいウキ。正直、朝の小屋に戻りたいウキ」
ペレーの額からは大粒の汗が流れ出ている
五人は落ち着きを取り戻し、再び歩き続けた
その細い通路の中は、五人が歩くことによって、潰れ、砕ける骨の音だけが無惨にも鳴り響いていた。
するとマナが
「みなさん、前見て光が」
その光は薄暗い通路の終わりを告げていた。
五人の足どりは、自然と速くなり、光のもとに向かって行く
明かりを見て、五人の不安と恐怖は、少しは、やわらいだ気がした。
明かりがこれ程自分に安心を与える物なんだと、この時初めて光堂は思う。
光の先の通路は、さっきまでとはうって変わり、広々としている
そして壁一面は、全て天井まで、輝く程まぶしい金でできていた。
目の前には階段、そして、その階段のテッペンの上に人影があるのを皆は見逃さなかった。
「ようこそ、わが住まいへ」
「お前は何者なんだ?」光堂が男に向かって叫ぶ
「お前達はこの世界の者じゃないのだろう?」
「お前は何を知ってるんだ?」光堂はつづける
「ああ、まだ何も知らない者たちか」
「ここは、遥か昔の過去の世界とでも言おうか、人々は狩をして暮らす、そんな時代の世界だ、見るところ貴お前達は、少し文明が発達した、ところからやってきたようだな、私は遥か未来からここに来た」
「どういう事だ?」多村が言った
「黒楽町、あそこは特別な磁場の場所でね、あそこは色々な時空間に繋がっている場所なのさ、まだあまり知られてないようだがな」
「お前は何のために、ここに来たんだ?」光堂は再び質問した。
「私のいる時代はずいぶんと意識が進んでいてね、人々はなんでもできてしまうのさ、お前達も見ただろう、あの小屋を。あれは私がつくり、ここに来た当初住んでた場所だ。その後、時空間を迷い、この場所に来た者も暮らしていたみたいだが。見ただろう、電気もないのに冷蔵庫つかえたろう?私の居た時代の技術さ、何でも出来てしまえて便利だろう 意識の力を知ってるのさ」
「何故ここに来たって?私は自分の生まれた場所にいる頃から、ひとつの願望があったのさ、人々を恐怖で支配し、私が王となる事を」
「だが無論、誰もが己の力を知っている、私が住む時代にはそんな統率は出来るはずがなかった。ある時、私は黒楽町の謎を調べ、探しあて、ついに黒楽町のある世界にワープを成功させた。
そして、そこから、ここに住み、この場所で王をやっているというわけだ」
「楽しいぞ、人間を恐怖で支配するのは」
「それで好き勝手、あの部族の人達を殺したウキか」
「そうだ、実に愚かな存在だ、科学力も無ければ、頭脳もない、支配するのはとても容易かった。私にとっては虫けらのような者達だ、何の価値もない 」
「あの人達は、最後には自分達の命を引き換えに、俺達のいのちを助けようとしてくれていた」
「本当に愚かなのはお前のほうだ」光堂が叫ぶ
「今の言葉は聞かなかったことにしてやる、私の部下になれ」
五人の声は重なり合い、辺りに響き渡る
「ふざけるな」
「明日、生贄の儀式をやる、貴様らを生贄にしよう」男は呟き、不気味に笑う。
「貴様らにいい事を教えてやろう、実はあの小屋のすぐ裏に、他の次元に繋がる道があるのだよ、どうやらお前達の意識をテレパシーで読む限り、元の場所に帰りたいようだな、それなら、そこを通るのが良き道に繋がるのは間違いない」
「教えるだけ教えて、すんなり、そんな事させる気は、さんさらないんだろう」光堂は言った。
男はほくそ笑む。
「私は貴様らの喋る、綺麗ごとが、どんなものか興味が出たぞ」男は指を鳴らす、すると男の後ろに沢山の道が開いたのだ。
「全ての道は、このピラミッドの出口につながっている、小屋までの、光の橋も、私が今出しておいた、さあはやく帰るがいい」
言い終えると、もう一度指をならした。
何やら後ろから、もの凄い音がきこえる
ガシャガシャ ガシャガシャ
まるで硬いものが擦り合って鳴っている様な音
「なっ、なんだ?」
振り返ると、先程の道に落ちていた無数の骨がくっつき身体となり、動いてこちらに向かって来ている。数は五十体にはなるだろうか。
「やばいウキ」
「みんな逃げろ」
「絶対に死ぬな」光堂は叫んだ
「分かった」
骸骨達は武器を持ち、すぐ後ろに来ていた。
みんなは、とっさにそれぞれの近くにある道に逃げ込む
すぐ後ろには骸骨達
骸骨は、五人を追っかける為、すべての道に、バラバラに散って行く。
「ふっふっふ、貴様らの綺麗ごととやらを見せてもらうとするか」
男は呟き、不気味に笑っていた。
さあ、私に、人間の本性を見せておくれ
フッフッフッ フッフッフッ 。




