5年後
「はぁ…、暇だなぁ」
そんなことを呟きながら、俺は放課後の部活動を教室の窓から見ていた。
「なにが暇だなぁ、よ。今日はお祝いの日でしょ?シャキッとしなさい」
後ろからきつめの女子の声がする。
「お祝いって、もう5年だぞ?確かにあれは奇跡的だったけど、今の現実は非奇跡的だ」
5年前、俺と幼なじみの2人、計3人はひき逃げにあって死にかけた。
というか、死んだといった方が合っている、それは医者も認めている。
なんだかいろいろ大事なものが無くなったらしい。
解剖されそうになったり、いろいろあったが、まぁなんとか今にいたる。
五体満足で健康だ。
「それに今日は5年目、何かあるかもしれないじゃない」
「あの夢の話は1週間前もして、結局幻だったって決着つけたじゃん」
「それはあんたと啓太だけ」
「それは3分の2ってことに気づいてるか?日本じゃ3分の2の意見は可決されんだぜ」
「それは政治の話、私もあんた達も政治家じゃないでしょ」
それはそうなのだが、だからといって1人の意見に他が従う必要性があるわけではない。
「そっか…もう5年か…、俺たち変わったかなぁ」
「5年前はあんたはもう少し男らしい男の子だったよ」
「お前ももう少し女らしい女の子だったな」
ドカッ、と鈍い音が頭に響く。
「昔は暴力の対極だった気がする」
「あっそ」
握りこぶしをぶらぶらさせて、素っ気なく返事をする。
「変わってないのは…」
「啓太だけだな」
あいつは今でも弱気で優しくて、弱い。
「そーいえば、啓太は?」
「さぁ?先帰っちゃったかな」
「なんだか最近妙に避けられてる気がするんだが…」
「奇遇ね、私もよ」
まぁ愛華みたいなうるさい奴といたくないのだろう。
「痛い」
「なんか失礼なこと言われた気がして、つい」
「…お前部活は?」
「今日は休んだ。最近変な男の先輩に「コーチしてあげるよ」とか言われてて、正直行きたくないのよね」
「スポ薦のお前に教えたいなんて、よっぽど弓道うまいんだな」
「そーなのかねー、私には下心しか見えなかったけど」
うんざりしたようにため息をつく。
「私にも立派な彼氏がいればそういうのに巻き込まれないのになー」
「立派な彼氏をゲットする前に、立派な女の子にならなくちゃなー。今のままだと実は男だって告白されても…」
「告白されても?なに?ききたいな」
「ヨーシ、ハヤクカエロー、キョウハパーティーダー」
鋏が首に突きつけられて上手く声が出なかったようだ。
「それでよし、啓太にも電話しとくね」
愛華が廊下に出る。
「なんもなきゃいいけどね…」
5年前、不思議な夢を見て、不思議に生き返って、不思議に生きている。
実は5年前の言葉を俺は否定しきれない。
「5年後にあなたたちだけの特別な力になる」
あの奇跡を起こしたらのがもしあの欠片なら、また奇跡が起こるかもしれない。
でもそれは恐ろしくもあった。
奇跡はいつも美しいとは限らない。
今の俺は変化を嫌うただの高校1年生。
もし今の平凡で平和な生活が崩れるなら、そんな奇跡はいらないと思っている。
だからあれを幻だと判断した。
あれを否定した。
しかし否定するのには5年程遅かったことに、俺は気づいてなかった。




