第四話
「ダリル!!」
「やあ、昨夜の夜這いのお嬢さん」
ダリルは店先の箒を数本、手に持ち上げて振った。
「エリーの知り合いなの?…」
リリィは目を丸くしてエリーを見つめた。
「ち、違うわよ!ただの宿屋のお客よ…」
(なんでまだここにいるの?!しかも魔法使いが箒だなんて、あやしすぎるじゃない)エリーは、今にもダリルが箒に乗って空を飛ぶんじゃないかと思い冷や冷やした。
「カラス!」
サムが空を指さして言った。空を旋回していたカラスが、ゆっくりとダリルの肩に降りてきた。不気味な声で鳴くカラスに、リリィは小さく悲鳴を上げた。エリーは手綱を引くと、ダリルの元まで馬車をつけた。
「お客様!今朝出発されるんじゃなかったですか?」エリーは皮肉を込めて言った。
「この国が気に入ってね。もうしばらくいることにするよ。良い箒もたくさんあるようだ」
ダリルは両手に持った箒を持ち上げてウィンクした。
「でも!…」
(なんて呑気なの。状況がまるで分かってないわ。立て札の文字までイタズラして)エリーはダリルの態度に苛立ちを覚えた。
サムは荷馬車から身を乗り出して、ダリルの肩にとまっているカラスを見つめていた。カラスをこんなにも近くで見るのは初めてだった。
「名前はカラスだよ」
サムは驚いてダリルを見た。ダリルは微笑んでサムを見つめ返した。
(今、名前を聞こうとしたんだ)
「だから教えてあげたんだよ」
(え??僕何も喋ってない)
「口で話すより簡単だろ?」
(思ってることが分かるの!?)
エリーは一人で喋っているダリルを怪訝な顔で見つめた。
(お兄さん、すごいや!唇の動きを見なくても話が出きるのって便利だな)
サムは満面に笑みを浮かべた。
「エリー、彼変わっているけどとてもハンサムね」
リリィはエリーの耳元で囁いた。
「え?…」
「送ってくれてありがとう。エリーに素敵な彼が出来たなんて知らなかった。今度ゆっくり話を聞かせて」
リリィはエリーの顔を見て微笑むと荷馬車を降りた。
「あ、ちょっとリリィ。違うわよ…」
リリィは手を振ると仕立屋の方に駆けていった。
「彼女、綺麗だね。ま、結婚相手から奪ってしまっては相手が可愛そうだな」
エリーは軽くため息をつく。
「お客様、宿にお連れしますわ」
「まだ買い物が終わっていないんだ。もう少し待ってくれるかい?」
「もう時間です。どうぞお乗り下さい!」
エリーはダリルを睨んで、ぴしゃりと言った。
「やれやれ、せっかちなお嬢さんだな」
ダリルは箒を店先に置くと、ゆっくりと荷馬車のサムの隣りの席に座った。サムは尊敬の眼差しでダリルをみている。
「ダリル、ともだちになって」
エリーの心配をよそに、サムは心の読めるダリルがすっかり気に入っていた。