第二十三話
夜が更けその日の日付が変わる頃になって、ようやくダリルは戻ってきた。エリーは店の後かたづけをし終え、休もうとしていた時だった。
「毎日夜遅くまで何をしてるの?」
「魔法使いにはやらなきゃならないことがたくさんあるのさ。仕事というか使命だね」
「そうなの?私には遊んでいるようにしかみえないけど」
エリーはポケットの中から、リリィが持って来た紙包みを差し出した。
「リリィがあなたに渡して欲しいって。お礼を言いに来てくれたのよ」
「残念だな、会ってゆっくり話がしたかった。あんな素敵なレディは滅多にいない」
ダリルは包みを受け取り、中を確認した。紙幣が何枚も入っている。エリーは大金を見て目を丸くした。
「そんなにたくさん?…受け取るつもり?」
「誤解しないでおくれよ。僕はお金目当てに助けた訳じゃないからね」
「じゃあ返す?」
「フン…せっかくの好意だからもらっておくことにしようか」
ダリルは微笑むと包みを懐の中にしまった。エリーは軽く吐息をつく。
「魔法使いさんにもお金は必要なのね。で、ダリルあなた宿代を支払うお金は持っていたんでしょうね?叔母さんが心配していたわ」
「もちろん、これで十分支払えるな」
「?そのお金以外持ってなかったの!?」
「僕は魔法使いだよ。お金を取り出すことは出来ないが、お金を支払ったと人に思わせることは出来る」
ダリルは平然と言ってのける。
「あきれた…それじゃ詐欺師と同じだわ」
「一緒にしてもらっては困るね。詐欺師は魔法を使えない」
「……私もう寝る」
ダリルとのやりとりに、エリーは疲れる。
「こんなに早い時間にもうお休みかい?」
「早い?もう十二時は過ぎたわよ。あなたと違って私は早起きしなきゃいけないんだから」
エリーは頬を膨らませる。
「君と僕の最後の夜だから、夜間飛行に出てみないかい?」
「最後の夜?…」
「君のお望み通り、明日にはここを立つよ。正確にはもう今日だけれどね」
「……そう」
口ごもったエリーを見て、ダリルはフッと笑う。
「僕との別れが寂しいのかな?」
「違う…あなたは早くこの国を出ていった方がいいから…ただ、もう少し魔法のことを知りたかっただけ…」
ダリルの緑色の澄んだ瞳に見つめられると嘘がつけなくなる。別れは寂しい。
「…リリィが、病気になった兵士さんを診て貰えないかって言ってたし…」
エリーはダリルから目をそらす。
「残念だけれど、それには応じられないな。僕は医者ではないから、病人の治療ばかりは出来ない」
「そうよね、あなたは魔法使いなんだから…だから、この国に居てはいけないわ」
ダリルは微笑むと、エリーに手を差し出した。
「お嬢さん、箒に乗って空を飛んでみましょうか?」
(最後までキザね)
そう思いつつ、エリーは微笑んで手を差し伸べた。
「ええ、行きましょう」
たくさんの方に読んでいただいているようで、感謝しています。随分長くなりました…(^^;)もう少し?続きます。最後までお付き合い下さいませ。