第二十二話
翌日の午後、リリィが馬車に乗って宿屋に訪ねてきた。エリーは仕事の手を休め、リリィを出迎えた。なんとなく気まずい思いがある。けれど何も知らないリリィは満面の笑顔を浮かべていた。 エリーはリリィをまだ開いてない居酒屋のテーブルに案内した。
「ありがとう、エリー。ジョージはすっかり元気になったわ」
「そう、良かった…」
「ダリルさんはいらっしゃる?どうしてもお礼が言いたくて来たの」
「出かけているわ。夜まで帰って来ないかもしれないわね」
「そうなの、残念ね」
リリィは手元から紙包みを取り出し、テーブルの上に置いた。
「この間のお礼よ。ダリルさんに渡してもらえる?」
「…治療費ってこと?」
「ええ。いくら支払えばいいか分からないけれど、普通のお医者様より優れた腕前なのは確かだわ」
「……」
(魔法でお金もうけしていいのかしら?)
包み紙の中には、きっと大金が入っているのだろう。エリーは少し複雑な気分だった。「エリー、お願いね」
戸惑ってるエリーにリリィは声をかけた。
「…あ、うん。渡しておくわ」
エリーは包み紙を受け取った。
「ジョージの話だと、お城の近衛兵の方の中にも体調が悪い方がいるらしいの。良かったらダリルさんに診て貰えないかしら?」
「そう言えば、叔母さんも最近悪い病気が流行ってるって言ってたわ…」
「そうなの?…悪い伝染病じゃなければいいけれど…」
「……」
5年前に流行った伝染病のことを思い出し、二人は不安な気持ちになった。エリーの両親や多くの人々の命を奪った病気。あの時魔法の力があれば…。
「大丈夫。今度はきっと助かるわ。…医学だってあの時より発達したんだから」
「…そうよね」
二人は不安な気持ちを紛らせるように微笑んだ。
「あのね、エリー。ジョージが私におかしなことを言うのよ。病気で倒れた晩、徹夜で看病してくれてありがとうって」
「……」
エリーはあの晩のことを思い出し、ドキッとした。
「私は先に寝ていたし、エリーもダリルさんも帰っていたんだから誰もいないはずでしょう?」
「…そうよね」
「でも、ジョージは私が夜明けまで看病してくれたって言うの。きっと、熱にうなされて夢でも見ていたんじゃないかしら?」
リリィは可笑しそうに笑った。
「そうね…夢を見ていたんだと思うわ」
エリーは苦笑した。