表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/24

第二話

 皆が寝静まった後、エリーはある部屋のドアをそっとノックした。しばらく待ったが何の反応もない。エリーは用意していた合い鍵を使って、静かにドアを開いた。

 真っ暗な室内。耳をすませると、規則正しい安らかな寝息が聞こえる。エリーは足音を立てないようにして、旅人の休んでいるベッドに近づいて行った。暗闇に目が慣れてくると、窓辺の椅子の背にカラスがとまって眠っているのが見えた。

 エリーは、ベッドで寝ている 若者の顔を覗き込んだ。

「あっ!…」

 突然若者が身を起こすと、エリーの腕をつかんだ。

「お嬢さん、レディが真夜中に男の部屋に忍び込むとは、どういうつもりだね?」

 若者はつかんだエリーの腕を引き寄せた。

「…!放してよ!」

 エリーはもう一方の手で、若者の頬を思い切りぶった。パチン!という大きな音に、眠っていたカラスが飛び起きてカアカア鳴いた。若者はエリーの腕を放し、エリーは後に引いた。

「いたた…すごい力だね」

 若者はエリーに叩かれた頬をさする。

「ごめんなさい…いきなり腕をつかむから…」

(…でも、勝手に忍び込んだのは私よね)

 エリーは、すまなさそうに 若者を見つめた。

「…それで?夜這いでも、盗みでもないなら、忍び込んだ理由は何かな?」

「それは…これよ!」

 エリーは胸元に忍ばせていた小さな本を、若者の目の前につきだした。

「これ、あなたが忘れていた本ね?」

「あぁ、確かに僕の本だね。ま、たいした本じゃないよ。その本の中身は全部ここに詰まっているから」

 若者はにっと笑って、頭を指さした。

「じ、じゃあ、あなたこの本の内容は全部分かるって言うの!?」

 エリーは驚きのあまり、言葉を詰まらせた。

「て、言うことは、あなたは…あなたは…」

「魔法使いダリルさ」

 涼しげな顔でダリルという魔法使いは答える。

「そんな…魔法使いだなんて!あなた、この国では魔法を禁止されていることを知らないの?もし、魔法使いだって分かったら…」

「死刑らしいね」

「そんなに簡単に言わないでよ!…」

「心配してくれるのかい?嬉しいね」

「明日の朝、すぐにここを出ていった方がいいわ」

「心配いらないよ。僕は偉大な魔法使いダリルだからね」

「……」

 全く気にしていないダリルに、エリーはあきれた。

「偉大な魔法使いは、自分のことをそう言わないわ」

「そう?君は魔法使いのことに詳しいのかい?」

 エリーはドキッとして、手に持った本を強くつかんだ。

「…とにかく、ここは早く出て行って。魔法使いをかくまえば罪になるんだから」

 エリーは本を手にしたまま、足早に部屋を出ていった。


「返すの忘れちゃった…」

 自分の部屋に戻ったエリーは、ダリルの魔法の本に気付いた。部屋の奥のベッドでは、弟のサムが安らかに眠っていた。そっと近寄りサムのあどけない寝顔を見つめる。

(あの時魔法が使えていたら…)

 五年前、平和なこの国に伝染病が流行した。病はエリーの両親の命を奪い、サムの聴力を奪った。国の4分の1の人の命が奪われた。

 サムが寝返りをうち、毛布がめくれた。エリーはそっと毛布をかけ直す。

(いつかサムと一緒にこの国を出ていくわ。私も魔法の勉強がしたい…)

 エリーは魔法の本を抱きしめる。魔法使いになること、それは誰にも言えないエリーの夢だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ