第十九話
どれくらいの時間が立っただろう?ジョージが眠るベッド脇の椅子に座って、エリーはうとうとと眠りかけていた。日はまだ昇っていないが、夜明けは近い。
(朝まで眠るつもりなのかな?)
隣りの部屋に行ったダリルはまだ戻って来なかった。 ベッドの中のジョージは、スヤスヤと気持ちよさそうに眠っている。
「もう大丈夫ね」
エリーはほっと安心して、ジョージの寝顔を見つめた。そして、洗面器のタオルを絞り、そっと額を拭く。
「…リリィ…」
不意にジョージの手が伸びて、エリーの手を握った。ドキッとしてジョージを見るが、彼は眠ったままだった。
(寝ぼけてるの?リリィと勘違いしてるのね…)
そう思いつつも、ジョージの手の温もりを感じ、エリーの鼓動は早まった。
(何考えてるんだろう私…)
エリーが手をはずそうとした時、ジョージはエリーの腕を引いて自分の方へ抱き寄せた。エリーはジョージの胸に顔を埋めるような格好になった。ジョージの規則正しい寝息に合わせて、胸がゆっくり上下する。
「……」
ジョージの手は優しくエリーの髪をなでた。ジョージの温もりと優しさを間近で感じる。早鐘のように高まる鼓動を抑えながら、エリーはそのまま瞳を閉じた。
(そろそろ帰ろうか?…)
エリーがジョージの胸の中でまどろみかけた時、不意にダリルの心の声が聞こえてきた。エリーは、はっとして身を起こす。入り口のドアに背をもたせかけ、ダリルが腕組みして立っていた。 じっとエリーを見ている。
「ね、眠っちゃってたみたい…」
エリーは慌てて椅子から立ち上がり、ちらりとジョージを見てダリルの元に歩いて行く。ドキドキする胸と紅潮する頬を必死で押さえながら。
「いつからそこにいたの?」
「少し前からね。君があまりに気持ちよさそうに眠っているもので、起こせなかった」
ダリルはフッと笑う。
「!……」
エリーはダリルを押しのけると、部屋のドアを引いた。
(ジョージのことが好きなのか?)
エリーの心がズキンと痛んだ。ドアを持つ手が震える。
(リリィより先に好きだと言えなかったんだろう?)
エリーは顔を上げると、ダリルの頬をバチンと打った。 涙が溢れそうになる。
「勝手に人の心に踏み込んでこないで!」
エリーは足早に部屋を出ていった。
「……」
ダリルは叩かれた頬をさすりながら、軽くため息をついた。
エリーはダリルを置いて、一人荷馬車を走らせていた。涙があふれ出て止まらなかった。リリィの家のパーティで、エリーは初めてジョージに出会った。その時はまだ、リリィもジョージを知らなくてお互い初対面だった。初めて人を好きになった。エリーの初恋だった。ドキドキしながらリリィに打ち明けようとした時、リリィに先に告白された。『エリー、私好きな人が出来たの』
(どうしようもないじゃない!…ジョージと私は身分が違いすぎるし、リリィは私の親友だもの…それに、ジョージが愛してるのはリリィだから…)
もう吹っ切れたはずだった。ようやく心からリリィ達を祝福出来るようになった。そのつもりだった。
(バカ!ダリルのバカ!…)
ダリルに対する怒りと自分に対する怒りがこみ上げてくる。日が昇り始め、うっすらと明るくなりかけた街を、泣き濡れながらエリーは駆けていった。
読んで下さってありがとうございます!
ダリル二回目のビンタ!^^;色恋の話は苦手なのですが、なんとなく書いてみたくなりました。