第十八話
ジョージはベッドの中で、苦しそうに呻いていた。顔色は悪く額には汗がにじんでいる。エリーとダリルはベッドの側に近寄った。
「ジョージ、大丈夫?…」
エリーが声をかけると、ジョージは薄く目を開けた。
「エリー…わざわざ来てくれたのかい?平気だよ、たいしたことはない…」
そう言いつつ、ジョージは苦しそうに咳をした。
「喋らない方が良い。かなり具合が悪いようだ」
ジョージを見下ろしながらダリルは言う。
「…彼は?…」
ジョージがダリルに目を向けた時、リリィが洗面器とタオルを運んできた。
「私一人じゃ心細いから、一緒に来て貰ったの」
リリィは水で絞ったタオルで、優しくジョージの額の汗を拭った。
「家の宿屋に泊まっているダリル。魔術師なんだけど、医学の知識も少しあるの。だから、診て貰おうかと思って…」
ダリルが何か言う前に、エリーは早口でそう伝えた。
(君はウソが上手いね)
ダリルの心の声が聞こえ、エリーは咳払いした。
(そう言うことにして!早くジョージを診てよ)
エリーはダリルを横目で睨んだ。ダリルはフッと笑う。
「もう大丈夫。僕は医者じゃないが、名医並の腕はあるからね」
そう言い、ダリルはジョージの服のボタンをはずし胸をはだけると、そっと素肌に手をやった。その様子をリリィは心配そうに見つめる。
「お願いします!お金はいくらでも出しますから、彼を助けて…」
「…大丈夫、命に別状はない。ちょっとたちの悪い病原菌が入っただけだ…」
「リリィ、後はダリルに任せて。あなたはもう寝た方が良いわ。今度はリリィが倒れるといけないから」
エリーはリリィの肩を抱いた。ダリルの魔法はなるべく見せたくない。
「明日にはきっと元気になってるからもう安心して」
「…ええ」
ようやく笑顔を見せたリリィを連れて、エリーは部屋を出ていった。
エリーがリリィを寝かせ戻って来た時、ダリルはベッド脇の椅子にぐったりともたれ掛かっていた。
「ジョージの具合はどう?」
「眠っている。悪い根源は消したから、もう大丈夫だろう。まぁ、かなり体力を消耗しているから、明日一日は休んでいた方がいいだろうね」
「ありがとう」
エリーは、ジョージの安らかな寝息を聞いてほっと安心した。
「私たちも帰りましょうか?」
「少し休ませてくれないか…治癒の魔法は気力と体力を使うんでね。病気や怪我の大きさによって、その力も大きくなる」
ダリルの瞼は今にも閉じそうになっている。
「大丈夫なの?」
「ほんの少し眠れば回復するさ。向こうのソファで眠って来るよ…」
ダリルはよろけそうになりながら、椅子から立ち上がった。
「僕は偉大な魔法使いだから回復も早い…」
減らず口をたたきながら、おぼつかない足取りで歩いて行くダリルを見て、エリーは微笑んだ。
(本当に偉大な魔法使いさんなのかしら?)