第十七話
「…?何も聞こえないわ」
エリーは窓辺に近づき、窓から裏庭とその向こうに続く道路を見渡した。辺りは闇の中で寝静まっている。
「…君の友達のリリィだ。かなり慌てている」
ダリルは目を閉じたまま答える。
「リリィが?…」
エリーはもう一度通りに目を向けた。
「あっ!…」
通りの向こうから蹄の音が聞こえてくる。音は段々近づき、馬に乗ったリリィの姿が現れた。
「リリィだわ!どうしたのかしら」
エリーとダリルは顔を見合わせると、すぐに部屋を出てリリィの元に向かった。
「エリー!…」
宿屋の店先に、取り乱し今にも泣きそうな顔をしたリリィが立っていた。
「一体どうしたの!?こんな夜遅く一人で馬を走らせるなんて危ないじゃない!」
「お父様もお母様も出かけていて、私どうしたらいいか…」
リリィは緊張の糸が切れたように、わぁっと泣きだした。
「リリィ…」
エリーは優しくリリィを抱きしめた。
「落ち着いて、何があったの?」
「何も言わなくてもいいよ…」
二人の側に立っていたダリルは、泣きじゃくるリリィの様子をじっと見つめていた。
「……分かるの?」
エリーはダリルを見る。彼は真剣な顔をして考え込んでいた。
「とにかく、リリィの家に急ごう。ジョージの身に何かあったみたいだ」
「ジョージに!…」
「…夕方ジョージが家に来たの…そしたら、そしたら突然倒れて…お医者様にも診て貰ったしエリーの薬も飲ませた…でも…」
リリィはしゃくり上げながら、ようやくそれだけ言った。
「分かった、荷馬車を出すわ。一緒に戻りましょう 。リリィもう大丈夫よ」
(ダリル、助けて)
エリーはダリルの目を見つめて、心の中で呟いた。
(最初からそのつもりさ。レディの涙には弱いんでね)
ダリルは微笑むと軽くウィンクした。