第十三話
叔母の用事で知人の家に届け物をした帰り、エリーは数人の近衛兵達に出会った。馬に乗りゆっくりと街頭を進んでいる。その中の一人の騎士の顔を見て、エリーは立ち止まった。リリィの婚約者のジョージだ。お城の警備の仕事に就いたという話は、リリィから聞いていた。
エリーはジョージの元に駆け寄った。その姿を見たジョージは手綱を引いて馬を止めた。他の騎士達には先に行くようにと告げる。
「ジョージ、久しぶりね。お城の仕事はどう?」
「毎日緊張してばかりだよ。緊張しすぎて、最近はよく眠れない。食欲もないんだ」
ジョージは軽く吐息をついた。
「大丈夫なの?顔色もよくないわね…リリィが心配するわよ」
「そうだね。もうすぐ結婚するんだし、もっとしっかりしないと」
「そうだ、良い薬草があるの。疲れによく効くのよ。後でリリィにことづけておくわ」
「ありがとう。エリーはよく気が利いて働き者だな。きっと良い奥さんになれるよ」
「え?…」
ジョージは微笑んだ。
「リリィから聞いたよ、エリーにもようやく恋人が出来たんだって。エリーは可愛いのに男嫌いだから、なかなか恋人が出来ないとリリィも心配していたんだよ」
「ち、違うわよ!ダリルはただの旅人、宿屋のお客!リリィが勘違いしてるだけよ!」
「そんなにムキにならなくても」
「……」
エリーの頬が赤く染まり、うつむいた。
「ごめん、ごめん。今度サムを連れて家に遊びにおいで。そのダリルも一緒にね。リリィや君たちと一緒にいる時が一番くつろげる。…じゃ、警備に戻らないと」
ジョージは馬の腹を軽く蹴った。
「街に魔法使いが入り込んだらしくて、警備に回っているんだ」
「!魔法使い…」
エリーは、はっと息をのむ。
「そのうちエリーの宿屋にも警備に行くことになる」
「……」
ジョージは他の騎士達の元に馬を走らせていった。
エリーはその場に立ちつくし、不安げにその後ろ姿を見守った。
「素晴らしいナイトだな。君の憧れの的かい?」
ビクッとしてエリーが振り返ると、そこにダリルが立っていた。
「容姿端麗、頭脳明晰。だが、少々繊細すぎる。もう少し心を鍛える必要があるな」
「人のことを分析している場合じゃないわよ。あなたお尋ね者になっているみたいだから」
「そのようだね」
「分かっているなら、そんなあやしい格好で出歩かないでよ!あなたは目立ちすぎるわ!」
「怒った顔の君は魅力的だな」
「!……」
言い返す言葉を失ったエリーの顔の前に、ダリルは木の棒を差し出した。
「魔法の勉強は、はかどっているかい?初心者は杖を使った方がいい」
「…これ、魔法の杖なの?…」
エリーは声を低める。
「その通り、杖には魔法の力が込められているからね」
エリーは回りを気にしながら杖を受け取る。
「昔、僕が使っていたものだ。君にあげよう」
「…あの、私にも魔法が使えるようになるのかしら?…」
「珍しく弱気だね」
ダリルはフフッと笑った。
「厳しい修行と、強い思いがあれば、必ず使えるようになるさ」
「……」
エリーは魔法の杖を握りしめた。
「さてと、僕はもう暫く探索に出向いてみるか」
「ダリル、気をつけて。ジョージは宿屋にも来るって言ってたから」
「偉大な魔法使いは簡単に捕まったりしないさ。ああ、それと僕はまだ結婚をするつもりはない。君がどうしても結婚したいというなら別だが」
「!…私だってあなたと結婚なんかしたくないわよ!」
エリーの叫び声を背に受けながら、ダリルは笑って去っていった。