神隠しにご用心
もし、貴方が異世界にいけたらどんなことをしますか?
無事に祠へ戻ることが出来た一樹は
車に乗り、あの世界のことを考えた。
(まったく、あのトンネルが本物だなんて思わなかったよ。
しかも、蓋を開ければ中世ヨーロッパ並で獣人までいるなんてな世界なんてな
事実は小説よりも奇なりとはよく言ったものだな。
それよりも、何故あのトンネルが騒ぎにならないかが問題な気がするな。
ちょっと町に戻って、さぐりを入れる必要がありそうだ)
そう考えて、近くの町まで車を走らせた。
まずは、スーパーへ行き砂糖と胡椒を買うことにした。
(砂糖は、10kgでもスーパーでも問題なく買えたけど、
胡椒10kgは厳しいな)
砂糖10kgくらいであればスーパーでも扱っているが
むしろ、取り扱いのないスーパーがあったら見てみたいものだ。
しかし、胡椒10kgとなると中々お目にかかることはない。
一樹の行ったスーパーにも胡椒は置いてあったが
35g入り粒胡椒といった小さなものしか扱っていなかった。
(胡椒の価値が今ひとつわからないからな
中世ヨーロッパでは一握りの胡椒は、同じ重さの黄金
もしくは牛一頭と引き替えにされた。
なんて話があるくらいだからな。
安いってことはないと思うが、300イェンっていのが日本円に直すと
どれくらいの価値なのかわからないのも問題だよなぁ
やっぱり、向こうで現物を見ておくべきだったな
取り合えず、多めに持ってくしかないか・・・)
「すいません、この辺りに業務用スーパーみたいなとこって
ないですかね?」
砂糖1kg1袋253円(税込)×10と食料品や飲み物を会計中
レジのおばちゃんに聞いてみた。
「ああ、隣町にあるよ。
国道○○をずっとまっすぐで着くからね」
「そうですか、ありがとうございます。
そういえば国道○○ですが、あそこに変な看板ありませんか?
その先を、300mほど行くと右折できる場所があったんですが」
「何言ってんだいあんたは、
あの道に隣町までずっと一本道だよ。
何か勘違いしてるんじゃないかい?」
「そうですか、多分俺の勘違いですね。
ありがとうございました」
そう言って砂糖と担いでスーパーでて考える。
(つまり、他の人にはあの看板は見えないってことか?
まあ、あのおばちゃんが気づいてないだけで
新たに道が作られた可能性もあるが)
そう考えながら、一樹は車で隣町まで向かう。
道中には、やはりあの看板があり右折ポイントもあった。
そこから300mほど進むと同じような看板が立っていた。
【 この先300m先 左折 異世界へのトンネル 】
しかし、他の車はまったく気にした様子はないようだ。
(やっぱり、俺以外には見えてないのかな?
でも、手の込んだイタズラだとしか思えないけどな
実際今でも、俺が夢でも見てたのかと思っちまうよ)
そして、隣町の業務用スーパーで黒粒胡椒500g入り820円(税込)
を20個購入し、砂糖と塩を入れる麻袋も購入した。
(さすがに、ビニール袋にいれた状態で渡すわけにはいかないからな。
明らかにオーバーテクノロジーすぎる。
麻袋なら、あの世界でもおかしいってことはないだろうないだろう)
業務用スーパーを出るとその近くに喫茶店が見えた。
広い駐車所がある喫茶店だが
そのわりには1台も車が泊まっていない。
しかし、チェーン店系の店とは違うレトロな佇まいをしたお店だ。
(全然客が入ってない・・・
仕方ないのかもしれないな、チェーン店なら1杯180円で飲めるものを
大体500円から600円で売るんだからな。
でもあの感じだと、昔からここにある店って感じだし
情報収集のために入ってみるか。
それに、美味しいコーヒー飲みたいし)
結構なコーヒー好きの一樹はその店に入っていった。
「いらっしゃいませ」
中に入ると、品のいいおじさんが出迎えてくれた。
「ブレンドコーヒ-を一つ」
わかりましたと頷いて、コーヒーを入れるマスター
店内には一樹以外に誰もいなかったので
一樹はマスターに色々なことを聞くことが出来た。
この町のこと、この店のこと、マスター自身のこと
マスターはお喋り好きなのか、大いに会話が盛り上がる。
ここのマスターは大友さんと言って、30歳で脱サラして以後10年
ここで喫茶店をしているそうだ。
まぁかなり経営は厳しいらしいが
かなり打ち解けたと思い、一樹は例のトンネルについて話題を振った。
「マスター、この村から県道○○を上ると途中で変な看板があって
左に曲がれる場所があるでしょ。
そこを登るとトンネルがあるんだけど、
あのトンネル何処かに繋げる計画でもあるんですか?」
はて?という顔でマスターが答える。
「あのお客様、県道○○はS町までずっと一本道ですよ
それに県道に看板なんてなかったと思うんですが?」
その答えを聞き驚愕する
だが、なんとか笑顔を維持してこう答えた
「そっかぁ~俺の勘違いだったかな?」
(やっぱり俺以外には見えないのかな)
ふと、そんな事を考えていると大友が意外なことを言い出したのだ。
「もしかすると、お客さんは神隠しに近いものにあったんじゃないですかね?」
「神隠しですか?」
「ええ、ここら辺には神隠しの伝説が昔からあるんですよ。
まぁ何処にでもありそうな御伽噺ですがね。
何かを潜り抜けると、どっかに消えるって話ですよ。
ただ、残されてる話だと潜り抜けるものに決まりがなかったみたいですね。
お客さんみたく、トンネルだったり、祠だったり
古井戸だったりしたらしいですよ。
それで、神隠しに遭った奴は突如ひょっこり帰ってきて
またいきなりどっかに行っちまうなんて変な話なんですよ。
普通神隠しに遭って戻ってこれたのなら
もう二度と、そんな事にならないよう気をつけるのが普通じゃないですか。
しかし、この話だと何度も戻ってきては
何度もいなくなってるみたいなんですよね。
まぁ戻ってこなかった、なんて話もあるんですがね」
「そうですか、それは面白い話ですね
それにしても、随分と詳しいんですね」
「これでも、大学時代は民俗学を専攻してましたからね
地元の話なんですからね、
研究して、卒論のレポートにこの話を書きましたからね」
「貴重な話を聞けて楽しかったです。
これ、コーヒー代です。
どうも有難うございました」
「お客さん、もし神隠しにあったら
教えてください。
町おこしに使えるかもしれませんからね」
勘定を払い、店を出て車に戻る一樹。
辺りはもう薄暗くなっていた。
(つまり、大友さんの話だと
あのトンネルは神隠しの状態であり
神隠しに会った人は、あの世界に行ったってことか
まぁ戻ってこなかった人は、向こうに永住したか
それとも、向こうで何かあって命を落としたかだな。
これなら、俺以外にあのトンネルが見えないのも
なんとなく分かる気がするな。
波長とかそうゆうのが合わないと見えないとかあるのかもしれないな。
たまたま俺は合ったっていう訳か)
そう結論づけ一樹はあの不思議なトンネルに向かって車を走らせた。
(傷心旅行が面白いことになってきたな)
1月22日に修正しました。
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