プロローグ
斉藤一樹は、夏の山道をファミリーカーで走っている。
大学の夏休みを利用しての一人旅だ。
T県の山道は、緑の山々が生きずつ素晴らしい景色が広がっている。
都心部では見ることの出来ない自然な風景だ。
しかし、そんな素晴らしい風景が広がっているにも関わらず、
運転手はその風景をほとんど見ていない。
(はぁ、ここはこんなにもいい景色のある場所だっていうのに・・・)
そうやってため息を吐いている一樹。
一樹の心はどんよりしている。
いや土砂降りの大雨といったほうがいいだろう。
本当はこの旅行は、一樹の彼女である坂崎雪江との婚前旅行のつもりだったからだ。
しかし、今一樹は一人で旅行に来ている。
理由は簡単、今から2月も前に彼女から別れを告げられてしまったからだ。
しかも最悪な形で、
(雪だけは違うと思ってたんだけどなぁ~。
しかも、あいつがあんな奴だったとは思わなかったよ・・・
多少は吹っ切れたけど、まだまだダメージでかすぎる。)
そう、一樹の心の中は、
別れた彼女と、裏切った親友のことで頭は一杯だったのだ。
斉藤一樹と坂崎雪江は幼馴染と呼ばれる関係であった。
お互いの家は隣同士。
小学校、中学校、高校、大学と一緒で、
高校の卒業式で一樹が雪江に告白し恋人同士となり、
そのまま順調に交際を続けた。
厳しい就職難の中、一流と呼ばれる会社に内定が決まり、
約3年半の恋人生活に別れを告げるべく、
一樹は、雪江にプロポーズをしたのだ。
しかし雪江は、一樹からのプロポーズを拒否した。
その理由は、
「一樹ごめんね、私 義春のことが好きになっちゃったの。
義春も私のことを好きだっていってくれた。」
そう一樹が就職活動に専念している間、
恋人であった雪江は、他の男に取られていたのだ。
しかもその取った相手が、一樹の幼馴染で親友と呼べる藤倉義春だったのだ。
義春は小学校、中学校、高校と一樹一緒になったことはなかったが、
幼いころから、ずっと一緒にサッカーをしていた親友だった。
小学校、中学校では同じクラブチームで汗を流し、
高校では、西の名門、東の名門と言われる高校でのライバル同士。
一樹は、高校3年の春に選手生命を失うケガのせいで、
プロ入りの夢を諦めた。
サッカーから離れてしまったせいで、
義春とは一時期疎遠になってしまったが、
偶然にも同じ大学に入学し、微妙に警戒しながら、昔と変わらず仲良くやっていた。
ちなみに、一樹は不屈の根性で猛勉強し、雪江と同じW大学に進学を果たした。
雪江とラブラブなキャンパスライフを送るために、死ぬ気で勉強したのであった。
義春を微妙に警戒した理由だが、
何故プロ入りを蹴ってまで大学に進学したのか一樹には謎だったからだ。
本人曰く、
「まだプロでやるだけの実力と体ができてないんだよ。
だから、このW大学でプロでも通用できる体作りと、
技術を学ぼうと思ったのさ。
それに、プロで食っていけるかわからないし、
プロ生活も順調にいくかわからない。
大学を卒業して、のちの生活に備えるのもいいと思ったんだ。」
確かにこの大学はサッカーが強いし、偏差値も高い。
卒業しておいて損はないだろうと一樹も納得はした。
しかし、本当の警戒理由は、
何を隠そうこの義春は、もてるのだ。めちゃくちゃもてるのだ。
かなりの2枚目だし、性格もいい。
おまけにプロ確実と言われており、結婚できれば玉の輿なのだ。
過去一樹が可愛いと思った女、一樹に好意を持っていた女、
一樹がちょっと好きだった女、
片っ端から義春にかっ攫われていたのだ。
しかも天然タラシだから始末に負えない。
いくら一樹が聞いても、友達だと返されるのだ。
一樹は、血の涙を流しながら義春の悪行?を許していたのだが、
雪江まで同じようにかっ攫われてはたまらない。
故に、雪江を義春に紹介するのは抵抗があった。
しかし、一樹と雪江は学内でほとんど一樹と一緒にいるのだ。
義春に紹介しないわけにはいかない。
なので雪江には、
「義春は天然タラシだから自分抜きで絶対会うな!」
と強く言っておいたし、
義春にも、
「雪江は俺の彼女だ。
だから自分抜きであったら殺す!」
と脅しをかけていた。
そんな一樹に雪江は、
「一樹がそう言うなら、そんなことは絶対にしないよ。」
義春も
「俺がお前の女取ったりするわけないだろうがぁ~。」
と言っていたので、微妙に警戒しながらも安心していた。
事実3年間は何事も無く、雪江とラブラブな生活していた。
しかし、一樹は最後まで気がつくことが出来なかった。
基本DOSUKEBEで抜かずの5発ができる漢だが、
根は善人でお人よしな一樹には、
幼い頃からの親友の悪意に、
「あぁ~やめだやめだ。
もうこれ以上考えてもしょうがない。
悲しいけどこれ現実なのよね。」
一樹は、寂しく独り言を喋りながら車を走らせる。
道をグングン進むと、そこに古ぼけた看板が見えてきた。
その古ぼけた看板を見て、一樹は慌てて急ブレーキをかける。
車から降り、その古ぼけた看板を再度確認すると、
その看板には車で見た通りの不思議な言葉が記してある。
【 この先300m先 右折 異世界へのトンネル 】
(はい? 俺はついに悲しみあまりボケちまったのか?)
だが、ふと一樹は思った。
どうせ誰かのイタズラだろうと。
(記念にデジカメで撮っておこう。
写真を見てくれる人なんて、両親以外にいなくなったけどな・・・
まぁこんな面白看板なら○チャンネルにスレ立てて画像うpすればいいか。)
看板の写真を撮り車を進める。
すると、看板に記してあった通りに右折ポイントがある。
(よし、トンネルのほうもネタとして写真を撮りにいくか。)
一樹は、無駄に元気に車を走らせトンネルに向かう。
その道は碌に舗装もされていない獣道で、ガタガタと車が揺れていた。
右折ポイントから15分ほど道を進むとトンネルが見えてきた。
(トンネルまで意外と距離があったな。
道も悪かったし。
しかし、いったい何の為に作られたトンネルなんだこれは?)
一樹は、トンネルに近づく。
すると、トンネルの横には看板が2枚あることに気がついた。
その2枚の看板には、こう記されていた。
【 異世界へのトンネルです 】
【 大丈夫ですよ~ 帰って来られなくなることはありません \( ^o^)/ 】
帰って来られるのか、それとも来られないのか、
どっちなのかわからない看板だった。
ただ分かるのは、完全にイタズラで作られた看板だと言う事だ。
まさか\( ^o^)/ AAが書いてある看板を本物だと思う人いないだろう。
一樹は、看板を写真に撮って考える。
(こっちにもちゃんとイタズラ看板あるし随分と凝った作りだな。
\( ^o^)/ってやばい感じもするけど、
どうせイタズラだろうし、行ってみるか。
異世界へ本当に行くわけでもないしな。)
一樹は、少し周りや頭上を注意しながらトンネルを進んだ。
異世界へ行ってしまうことを注意している訳では勿論ない。
落盤や落とし穴などがあるかもしれないからだ。
悲しみのあまり人生\( ^o^)/状態の一樹だが、
こんなところで一人悲しく仏様になるわけにはいかないのだ。
ならこんな所に行くなよ!と思うが、
それは、単純に好奇心が勝ったのだろう。
(こりゃ、結構しっかりとした作りのトンネルだな。
トンナルの中に岩なんかも落ちてない。
車でトンネル抜けられそうだな。
ただトンネルの中に照明はないんだが、微妙に明るいのはなんでなんだろう?)
少し疑問に思う一樹だが、そのままトンネルを進む。
5分ほどトンネルを進むと、光が差してきた。
「おお、出口が見えてきたぞ~」
一樹は、まだ気がついていないが、
トンネルを抜けるとそこは異世界だった。
4月17日修正いたしました。
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