一樹の反撃 2
市場調査を忘れ、ミミの家に戻った一樹は、
ミミと櫛名に亜人達への聞き込みを行ってもらっている。
その間一樹は、
砂糖や胡椒以外の、希少性の高いものを考えていた。
(オストは中世ヨーロッパの文化と、
江戸時代の文化がごっちゃになってて、
希少性のあるものが、よくわからないんだよな。
中世ヨーロッパなら、羊用紙ばっかりのはずだから、
和紙なんて高級品のはずなんだけど、
時代劇なんか見てると、貧乏長屋の障子なんかにも、
和紙は使われてたりするし、
シルクや宝石なんかは、オストでも高価だと思うけど、
日本でもめちゃめちゃ高価だし・・・
やっぱり、もっとこの世界のことを理解しないと、
何が需要があるのかよくわからないな。
今は、飢饉が起こってるから、食糧持ってくれば儲かりそうだけど、
オストの食文化もよくわかってないんだよな。
こっちではあんまり飯食ってないし、
一般家庭の飯を食った事もない。
主食は、小麦?芋?
多分米は作られてないだろうな。
今の日本は夏だから、オストも夏なんだろうけど、
夏にしては気温も湿度も低い。
これは、北海道並だろう。
き○ら397の無いこの世界では、寒い地方での稲作は無理だろう。
飯屋で食った定食には、パンみたい物と、
ジャガイモみたい物が付いてきたけど、
ひえや粟なんかは、こっちにないんだろうか?
あれって、江戸時代飢饉が起きた時に、
農民が食べてたって聞いたことあるんだよな。
江戸時代の文化が入ってきてるなら、
そういった物も持ち込まれて、栽培されててもいいと思うんだよ。
双方の文化がごちゃごちゃで、
情報がないから意味不明状態だよ。)
オストでは、日本語が公用語であり、
江戸時代の知識や文化などが、様々な部分で使われてはいる。
しかし、実は読み書き算盤以外はほとんど浸透していないのだ。
知識面は、分け隔てなく広まっていったのだが、
技術面は、秘匿され一部にしか広まっていないのだ。
特許申請などがないオストでは、
技術を広めることは、自分の首を絞めることに他ならいない。
故に、和紙制作技術、製塩技術、農作業の技術など、
オストの一部での秘匿となっている。
本道のみは、上記の技術と異なり、
オスト全土に広がり、現在の薬師の扱う薬は、
日本の本道と、オストの薬学が混ざり合って出来たものである。
この事実を知らない一樹は、無駄に考え込んでると、
「一樹~帰ったわ~」
どうやらミミが戻ってきたようだ。
「ミミどうだった?」
「そうね、私のほうはほとんど情報なんて得られなかったわ。
こういった事は、櫛名のほうがよく知ってるのよね。
竜人族って、人と一緒に仕事をしたりする事が多いから、
そう言った事に情報もよく知ってるはずよ。」
竜人族は、その高い魔力を使って、
人に混じって仕事をすることを得意としてる。
故に、人間の情報を一番持っているのは竜人族なのだ。
今までは、人の情報など持っていることで、
人間の社会に疎い亜人達の、大事な情報源だったのだ。
(やっぱり、亜人達に情報を集めてもらっても限界があるよな。
でも、俺こっちに亜人以外の知り合いなんて・・・)
「いたぁ~~~~~~~~!」
いきなり椅子から立ち上がり、大声で叫び一樹。
その声に驚いたミミは、
「一樹!
いきなり大きな声出さないでよ。
ビックリするじゃない」
聴覚が鋭い耳は、一樹の声が耳に響いたのか、
耳を押えて、一樹に文句を言う。
「いや、こっちで情報収集を頼めそうな人がいたよ。
今から行ってくるから、ミミ付いて来て。」
そう言って、ミミを連れて家を出る。
「ちょっと一樹、いきなり何所に行くのよ。
別に付いていくのは構わないけど、
何処に行くのかは説明してよ。」
一樹の安全を考えれば、ミミは付いていくという選択しかないのだが、
説明くらいはして欲しい。
「いや、親切な門番さんのところだよ。
オストで唯一の俺の知り合いさ。
困っていたら助けてくれたし。
昼間でも城壁の外は危険だって注意してくれた人なんだ。」
そう、一樹が向かっているのは、
あの優しい門番のハルクのところだ。
ハルクが、商人に対して詳しいかはわからないが、
亜人には知られていない情報など、
もしかしたら、持っているかもしれないのだ。
話を聞いて損はないと思ったのだ。
そのまま、城門へと向かい、
城門まで来ると、そこにはハルクが暇そうに立っていた。
「ハルクさん~お仕事中にすいません。
ちょっとお聞きしたいことがあるんですが
今大丈夫ですか?」
「なんだ一樹か。
どうしたんだ。
それと、隣のべっぴんさんは誰だ?
どうやら見たところ亜人のようだが。」
どうやらハルクは、亜人に対して差別的な感情は持っていないようだ。
反対に、ハルクの同僚はミミに対して冷たい目を向けている。
「こっちは、俺の相棒でミミっていいます。
今日、仕事終わりって何時ぐらいですかね?
その後に相談に乗ってほしいことがあるんですが。」
「夕暮れが交代の合図だから、
それくらいにもう一度来てくれ。
困ったことがあったら言ってくれと言ったのは俺だからな。
相談には乗ってやるぞ。」
「わかりました。
そのくらいの時間にまた来ます。」
ハルクと約束を取り付けた一樹は、
意気揚々と、貧民街の家へ戻って行った。
き○ら397 北海道など寒い地方でも栽培できる美味しいお米の品種。