二人の婚約者候補
今回本当に短いです。
「このアマァァァァァァアアア~
私の一樹に何やってるのよ!!」
ミミは、櫛名の襟を両手で掴みあげ、大声で叫んだ。
ミミの怒鳴り声が家中に響き、
ミミの声に驚いたミラーノさんが、居間まで飛んできた。
「ミミどうしたの、そんな大きな声をだして」
ミラーノさんが、厳しい声をあげる。
しかし、怒り心頭のミミは、櫛名を揺さぶりながら、
「だってママ!
櫛名が一樹に対して、く…く…口づけをしたのよ」
「いいから、櫛名さんを離しなさい!」
ミラーノに言われて、渋々櫛名を離すミミ。
「櫛名さん、ミミがこうなっている訳を話して貰えるかしら」
ミラーノに言われて、事情を説明する櫛名。
ミラーノは、櫛名の説明を受け、
「事情は分りました。
娘が迷惑をかけたようで、本当にごめんなさいね。
ミミ、貴方も櫛名さんに謝りなさい」
そういって、櫛名に謝罪するミラーノ
そんなミラーノを見てミミは、
「確かに、櫛名に食って掛かったのは悪かったと思うけど、
櫛名が、いきなりく…く…く…口づけなんてするのも悪いのよ!
私が一樹と結婚するのよ!!」
別に一樹は、ミミと結婚すると決まった訳ではないのだが、
ミミの中では、それがデフォとなっているようだ。
そんなミミを諭すように
「一樹さんとの結婚の話は、お互いに了承した訳ではないんだから、
櫛名さんを責めるのは間違ってるわ。
それに、竜人族の未来のことを考えたら、
櫛名さんが、一樹さんに嫁ごうとするのは当たり前よ」
ミミの事だけを考えると、確かに櫛名の嫁入りは賛成出来ない。
娘の恋敵を増やして喜ぶ母親などいない。
しかし、亜人全体の事を考えた場合、
櫛名の嫁入りは反対すべきことでない。
一樹が、自分たちを見捨てるとは思っていないが、
一樹と親しい人物が増えるのは、亜人にとっていいことだ。
親しい人物=守るべき人物となる為、
一樹の守るべき人物が増えるのは、亜人全体にとっては有益なことなのだ。
勿論亜人全体の事を考えて、ミミを疎かにする訳にいかないので、
ミラーノとしては、ミミが選ばれるように協力するつもりだ。
「それと、それなら貴方が一樹さんに選ばれるように頑張ればいいだけよ」
「ママァ~~~」
ミミは、自分の味方をしてくれると思っていた所為か、
かなり情けない声をあげていた。
「ミミ、山猫族だけが、一樹さんを独占しているのは、
亜人全体の事を考えたら、あまりいいことではないわ。
と言っても、櫛名さんが今すぐ、一樹さんの元へ嫁ぐのも問題があるから、
今は、櫛名さんも、ミミも一樹さんの婚約者候補ということにしておきましょう。
それなら、お互いに正々堂々と勝負できると思うわ。
ミミも、櫛名さんも、それで納得してもらえないかしら?」
母親に言われ、渋々納得するミミ。
婚約者候補として、一樹の近くにいられるなら問題ないと納得する櫛名。
しかし、ここで納得してない人物が一人いる。
「あの~すいませんが、
勝手にそんなこと決められても結構困っちゃうですが・・・」
そう、確かにミミと結婚の話は聞いていたが、
それは、いずれお互いの事をよく知ってからという話だったはずだ。
実際、一樹はこの世界で暮らしていく気は、現段階ではまったくない。
よって、ミミと結婚する気も現段階ではまったくないのだ。
そんな一樹にミラーノは、
「一樹さんは、ご存じないかと思いますが、
亜人の中で、女性からの口付けは、大変勇気のいることなんですよ」
ミラーノの言葉の意味がわからない一樹は
「それは、どういった意味でしょう?」
しかし、ミラーノは笑顔を浮かべて、
「一樹さんは、深く考えないでいいんですから。
これまで通りにしていてください。
一樹さんに結婚の意思がないなら、
この話は、婚約者候補のままで終わる話ですから。
それよりも、一樹さんはこの後どうするのですか?
そろそろお昼の時間ですし、お食事を食べるならご用意しますよ」
その有無を言わせない笑顔がとても怖かった一樹は、
「外で食事をしますので大丈夫です」
一樹は、そういって家を出ていった。
ミミと櫛名は、急いで一樹を追いかけていった。