一樹とミミの後悔
ハルクと別れ、貧民街へと足早に移動する一樹。
一樹は、ミミの言っていた
「いいえ、街の中でも一樹一人で出歩いていたら襲ってくるわよ
人通りの無い場所なら、街の中でも関係ないもの」
という言葉が頭から、すっかりと抜け落ちていたのだった。
一人で、街を出歩いていては、いつ襲われてもおかしくないのだ。
ハルクの言葉で一樹は、自身の安全について
もっと気を配るべきだったと後悔していた。
(早急に森の近くに倉庫兼監視小屋を作らないと不味いな。
土地の購入の方法が分かったら
多少買い叩かれても、砂糖と胡椒を換金しよう。
ハルクさんが言っていたように
街から森の移動の際に、魔獣に襲われることも事もあるだろし
俺じゃ魔獣の駆除なんて、絶対不可能だろうし
この足じゃ逃げることすら出来ない。
街の城門から、貧民街までの移動でも襲われることも考えると
常に護衛に付いていて貰わないと、安心できないな。
倉庫兼監視小屋が出来るまでは
護衛の人達に、森まで迎えに来てもらうしかないな
前回の自身への襲撃事件で
この世界の危険性を、確認したつもりになってたけど。
分かっているつもりになっていただけだったということだな。
こりゃ反省ないと・・・)
水と平和はタダ
そんな日本で暮らしていた一樹が
いきなり、こちらの世界の危険な場所だから、気をつけろと言われても
早々には、頭の切り替えは出来ないものなのだ。
一樹が、貧民街の門を潜り抜けると
監視小屋からは、一樹の来訪を告げるドラが鳴り4回鳴り響いた。
ここまで来て、ようやく一樹は少し落ち着きを取り戻した。
(ここまで来れば安全だろう。
急いで歩いて来たから、膝が痛くなってきた)
呼吸を落ち着かせて、ミミの家までゆっくりと移動しようとすると
ミミが駆け足でやって来て一樹に飛びついた。
「久しぶりね~一樹」
いきなり、飛びつかれて尻餅を付いてしまった一樹。
周りを気にせずに、飛びついてきたミミに少し驚いた一樹だが
それだけ素直な行動が、嬉しかった。
周りのいる亜人達は、少し驚いているようだ。
(なんか、ミミはストレートに感情をぶつけてきて
少し、くすぐったいけど
この感じは、なんかいいな)
「ミミ、久しぶりだね。
それと、随分激しい出迎えだね。
周りの人がびっくりしてるよ。
少し話したいことがあるから、ミミの家へいいかな?」
「わかったわ、さあ行きましょう」
そう言って、少し浮かれ気味のミミは、一樹の手を引っ張りながら歩いていく。
照れくさい一樹は、顔を赤くして引っ張られていく。
周りに亜人達はそれを、微笑ましそうに眺めていた。
ミミの家に着き、中に入ると
母親であるミラーノさんが出迎えてくれた。
父親であるラステさんは、狩り出て家を空けているそうだ。
「それで一樹、話したいことって何?」
ミミはさっきまでの浮かれた顔でなく
真剣な顔になっていた。
一樹も真剣な顔で答えた。
「門番のハルクさんが教えてくれたんだ
最近では、減ったとは言われても
この辺りでは、昼間でも魔獣に襲われることがあるらしいね」
「確かにその通りだけど。
でも、最近は本当に見かけないわよ」
「それでも、なるべく危険は避けたいんだ。
森から街への移動の際に、魔獣に襲われる事があるかもしれない。
完全に、無いとは言い切れないだろ。
避けられる危険は、避けるべきだよ。
それと、城門から貧民街までの移動の際に襲われるかもしれない。
どっちかというと、こっちが本命だけどね」
一樹の言うとおりだった。
確かに、一樹を狙った奴隷商人は始末したが
他にも、一樹を狙っている輩がいないとは限らないのだ。
せめて、こちらに戻ってくる日にちと、時間を一樹に確認して
城門前で待つ位はするべきだったと後悔した。
あの時のキスで浮かれてしまい
そんな事は、頭から抜けてしまっていたのだ。
「ゴメンなさい。
確かに、一樹の危険は少しでも排除するべきだったわね」
ミミはかなり落ち込んだ。
これでは、何の為に高いお金を貰って
一樹を護衛しているのかわからないではないかと。
「ミミ、そんなに落ち込まないで。
俺も、軽く考えていた部分が大きかったから
これから、改善策を考えていけばいいだけだしね」
ミミは、少し考えてから
「そうね、その通りだわ。
私の考えでは、一樹が故郷に戻る際に
こちらへ戻ってくる日にちと時間を教えてもらって
その時間に、森の入り口まで迎えに行くというのが
一番だと思うけどどうかしら」
「確かに、暫くはその方法しかないと俺も思っているけど
俺は、森の入り口に、倉庫兼監視小屋を建てようと思ってるんだ。
そうすれば、重い荷物を森から街まで一人で持ってくることもないし。
倉庫番の人に、森から貧民街まで護衛してもらえばいい」
「確かに、それはいい考えだと思うわ」
「その為には、あの森近くの土地を買い取らないといけないんだけど
土地の購入方法とかミミは知ってるかい?」
ミミは首を横に振った。
どうやら知らないらしい。
(さて、どうしたものかな?
そういった情報をどうやって調べるべきか)
そういった事に詳しい人の当てが、一樹にはまったくなかった。
まあ、当然といえば当然だが。
すると、ミミが
「その辺りは、亜人が協力して調べておくわ。
暫く、時間がかかると思うけど調べられないことじゃないわよ。
それに、誰か知っている人がいるかもしれないし。
今まで、必要だとは思わなかったから
考えたことも、調べたことも無いけど。
それに、私達の村を作るのにも、必要なことだしね
それじゃあ、ちょっと行って来るわね」
そう言うと、ミミは家を飛び出していった。
さっそく、協力してくれる亜人の元に向かったようだ。
すると、ミラーノさんが
「すいません、一樹さん
あの子ったら、一樹さんを置いて何処かに行ってしまって」
「いえいえ、気にしないでください。
なるべく早いうちに、知っておきたい情報ですから
迅速な行動は、かえってありがたいですよ」
そう言って、ミミが戻ってくるまで
ミラーノさんと喋りながら
ゆっくりとした時間を過ごしたのだった。
ミラーノさんは一樹ハーレムには入りません。
本当に入りませんのであしからず。