蛇沼の伝説
ものすごく久しぶりの更新になります。
方針が決まったはずだったのですが
自分の中であまり納得が出来なかったので
何度も、書いては消し、書いては消しを繰り返しました。
次の日の朝、一樹は目覚まして居間へ向かうと
父親が、のんびりと朝食を食べているのに驚いた。
現在時刻は朝の8時半
何時もなら、とっくに家を出ているはずの父親が
のんびりしているのだ。
驚くのも当然である。
「父さん、どうしたの?
これじゃあ、完全に遅刻だよ」
すると父親は、心配するなという顔で
「ああ、大丈夫だ。
実は、今日も休みを取ったんだ。
本当は昨日だけのつもりだったんだが
せっかく病状が回復したんだ
母さんと何処かへ出かけようと思ってな」
今まで、ゆっくりと夫婦で過ごす時間もなかった二人だ。
病状も治まり、普通と変わらない生活を送れるようになったのだから
今日くらいは、夫婦で楽しんでも
バチは当たらないだろうということらしい。
「確かに、そうだよね
今まで父さんは頑張ってきたんだから
今日くらいゆっくりしてもいいと思うよ。
母さんも喜ぶだろうし」
「今までは、まったく出来なかったからな
今日くらい、母さん孝行したほうがいいと思ってな
ところで一樹は、いつ向こうに戻るつもりなんだ」
父親としては、一樹に暫くここにいて欲しいと思う反面
なるべく早く、あの薬を調達して欲しいと思う気持ちもあるようだ。
「俺は、今日にもT県に戻ろうと思うんだ。
薬の件もそうだけど、卒論研究もしないと不味いからね
それに、俺がいると父さんも母さんものんびり出来ないだろ」
一樹としては、父親と母親とゆっくりのんびりするのに
自分がいては、少し邪魔かな思う気持ちもあるようだ。
「そうか、そんな事は無い
とは言えないな。
まぁ薬の件は頼んだ。
それと、卒論はしっかりと頑張れよ」
そう言うと、父親は残りの朝食を食べ始めた。
母親は、せっかく父さんがよくなったのだから
もっとゆっくりすればいいのにと言っていたが
一樹は、向こうでの研究が面白いから
なるべく早く戻りたいと言って誤魔化した。
しょうがないわねと言って、上機嫌で仲良く出かけていった。
(母さん、結構気合入ってたな
久しぶりなんだろうな、父さんと二人で何処か出かけるの)
二人の、久しぶりのデートを見送り
向こうへ向かう準備を始めた。
特に家から持っていくものはないので
着替えを詰めて、準備はすぐに済んだ。
そして、車に乗り込みT県を目指す。
事前にパソコンを使って調べておいたので
途中で、業務用スーパーにより
砂糖50㎏、胡椒20㎏と麻袋を買い込んだ。
さすがに、これだけの量を運ぶのは大変なので
ホームセンターによって、折りたたみ式リアカーも買い込んだ。
(これだけあれば、1万2000イェンくらいにはなるだろう
一気に、全部卸す訳にはいかないけどね)
そうやって必要なものを買い込み
大友さんの喫茶店に向けて、再度車を走らせた。
勿論、大友に会いたいという理由もあるが
蛇沼の話を詳しく聞きたいと思ったからだ。
(大友さんに顔を見せないといけないし
何より、あの蛇沼について
詳しく話を聞きたいからな
あのホムペだけだと、イマイチ詳しい事はわからなかったからな)
途中休憩を挟み、午後3時頃に大友の店に着くことが出来た。
この時間でも、大友の店の駐車場には車が一台も停まっていなかった。
(この店、よく潰れないな・・・)
一樹は、結構失礼な事を思いながら
店に入っていった。
「こんにちは~大友さん」
「やあ、一樹君か久しぶりだね
研究は進んでるのかな?」
そうやって、大友は笑顔で出迎えてくれた。
店内には、誰も客がいないようだ。
「ええ、ボチボチですね。
ところで、お客さん他にはいないみたいですね」
「まぁ、困ったことに
こんな店に通ってくれるのは、一樹君くらいなもんだよね」
そう、悲しそうに大友は話してくれた。
こんな田舎町では、喫茶店をしていくのは
やっぱり難しいのかもしれない。
「そうですか・・・
今日は、大友さんに聞きたいことがあるんですがいいですかね?
後、ブレンド一つお願いします」
「聞きたいことって何かな?
ブレンドね了解」
そういって、大友はコーヒーを入れてくれた。
一樹は、コーヒーを楽しみながら
蛇沼について、話を聞いてみた。
「蛇沼の伝説かぁ~
一樹君は、あれに興味を持ったのか
あの話は、未だにこの地方の風習として残ってるからね。
それに、神隠しの話とも繋がりがある話だから
一樹君が、興味を持つのも当然だね」
「神隠しの話と、繋がりがあるんですか?」
簡単に自分が調べた結果では
そんな話はなかったので、興味津々の一樹だった。
(こりゃますます、魔獣か亜人が
こっちの世界に来た可能性が高くなってきたな)
「蛇沼伝説の話は
今から約300年ほど前から、この地方で伝えられてる話なんだけどね」
そう言って、蛇沼の伝説について話してくれた。
当時、この辺りで疫病が広がり
大変な量の死者が出たそうだ。
このままでは、村は全滅だと思われたとき
一匹の大蛇が、村に現れた。
村人は、もうお仕舞だと思ったが
その大蛇は、村の惨状をみるなり
村人に、自分の鱗を分け与えこう言った。
その鱗を持っていれば、病は治っていくと。
大蛇に驚いた村人だが、藁にも縋る思いで
大蛇の言う通りにすると
鱗を渡された村人達は、少しずつ体が良くなっていき
3日もすると、元通り元気になった。
村人は何故助けてくれたのかと聞いてみると
大蛇は、こう答えたのだ。
私は、この村の青年に助けられたのだ。
これはその恩返しだと思ってくれればいいと。
さらに大蛇は
鱗を、近くにある沼や泉にでも沈めて
その水を飲んでいれば、もう病にかかることもないだろう
そう言って、村から去っていった。
大蛇が、助けられたという青年は
随分昔に神隠しに合い
行方が、わからなくなっているとのことだ。
村人達は、話を聞いてすぐさま鱗を沼へ沈めたそうだ。
沼の水は汚く濁っていたが
鱗を沈めると、みるみるうちに水は綺麗になっていったそうだ。
そして、その沼の水を飲むと
どんな病気にもかかることはなかったそうだ。
これが蛇沼の伝説といわれる話である。
「これが、この地方に伝わる蛇沼伝説だよ。
蛇沼はすごく綺麗な沼で、美味しい水で有名だったらしいけど
戦前くらいから、徐々に水が濁りだしたらしくてね
今じゃ見る影もなくなってしまったけどね」
一樹は、自分が調べた話だと
大蛇は、そのまま沼に住み着いたのではないのか?
大友の話しとは少し喰い違う部分があるので
その辺りを聞いてみることにした。
「大友さん、僕が調べた話と少し違うんですが
大蛇が沼に住み着いたとなってるんですが
その辺りはどうなってるんでしょう?」
「ああ、それだけど
村から去らずに、そのまま沼に住みついたって話もあるんだけど
僕が調べてみた感じでは
大蛇は去って鱗だけが残ったというのが
今のところ、定説みたいだよ。
まぁ、民話なんて解釈が色々あるものだから
どれが定説なんて、わからないものだけどね」
まぁ、民話なんてそんなものなのかもしれない。
解釈の違いや、時間が立てば
歪んで伝わってしまう事もある。
その辺りの違いは、仕方ないのかもしれない。
(実際に、大蛇がどうなったかは置いておいて
神隠しで消えた青年
それに、助けられた大蛇というのは
向こうの世界の魔獣で、間違いないだろう。
つまり、向こうの世界からこっちの世界へ移動も可能という訳か
これは、少し対策を考えないといけないな)
向こうの世界から、こちらへの移動が可能となると
余計な混乱を引き起こしてしまう。
この辺りは、亜人達と協力して
あの森に、人が入り込まないようにしないといけなくなったのだ。
(この辺りは、ミミに相談して協力を要請するか
あの森周辺の土地を買い取って
出入り禁止にするしかないかな)
一樹が考え込んでいると
大友は、分厚いレポート用紙を持ってきて一樹に渡したのだ。
「一樹君、これは僕が卒論を書くために使ったデータだよ。
卒論自体はどこかにいちゃったみたいで
見つけることが出来なかったんだ。
でも、これを共にすれば大丈夫だと思うから
これを使って頑張ってみてよ」
「本当に、有難うございます。
大事に使わせて頂きますね
じゃあ、今日はこの辺りで失礼します
また、よろしくお願いしますね」
そう言って、一樹はレポート用紙を大事そうに抱えて店を出ると
今日の就寝場所となる、道の駅を目指して車を走らせるのだった。