ある男の末路
「一樹、痛い目の合わせるってどうするの?
何か、作戦があるのかしら」
「何簡単だよ、俺が一人で街の外に出れば
あいつらが、襲ってくるだろ
そこを返り討ちにするだけさ」
そう、一樹の立てた作戦は簡単である。
一樹を囮にして、敵を釣り
一気に殲滅するだけだ。
「返り討ちって一樹に出来るの?
相手もそんなに弱くはないわよ」
「そこは、亜人の皆様に協力してもらうのさ
気づかれないように付いてきてくれ
もちろん報酬は払うよ」
「そうゆうこと、罠に嵌めるわけね」
「そう、街の外なら罪に問われる心配もないし
ほどほどに痛めつけてやってくれ」
「わかったわ。
こっちで、その条件に合いそうな人を集めておくわ
それと、その作戦には私も参加するわよ」
「ミミが参加してくれるならこっちはありがたいよ。
それと、出来れば今日にも村へ戻りたいんだ。
早いとこ薬の効果も確認したいしね。
だから、今日の夕方までに頼むよ。
まぁ、無理ならしょうがないから
悪いけど今夜は、ミミの家に泊まらせてもらおうと思ってるけど」
「そう、なら一樹に泊まってもらえるように
あまり頑張らずに、条件に合いそうな人を集めようかしら」
そんな軽口を言いながら、一樹はミミと家に戻っていった。
途中ミミは、この区画に人が入り込むかもしれないと
注意しながら歩いていた。
家に戻り、さっきの男たちがこの区画に入り込んでいるのか
ミミに確認してみると。
「ミミ、さっきの奴らはここまでつけて来たのかわかるかい?」
「ええ、どうやらつけて来たみたいね
このままだと夜襲をかけてきそうな勢いね」
「それにしても、よくそんなことがすぐにわかるね」
「さっき、ドラが鳴ったでしょ
あれが、この区画に人が張り込んだ証なの」
そう、さっき大きなドラの音が2回聞こえたのだ。
どうやら、それが合図だったようだ。
(そういえば、俺が昼前に来たときは、ドラは4回鳴ってたな
ドラの鳴る回数で、色々と取り決めがあるようだな)
「そうか、なら早いとこ集めて貰えるかな?
夜襲まで掛けられるわけにはいかないからね
報酬は一月50イェンってとこでいいかな?」
これは平民の約2ヶ月半分の月収だ
「月収ってことは、今回だけじゃないの?
それに報酬が多すぎないかしら」
「これからもこういった事は起こるだろうからね
それに、すぐに優秀で信頼のおける護衛を雇うのは難しいからね」
そう、これからも一樹が狙われることもあるだろう
何しろ、あの広場にいた人間ならば
一樹が、大金を持っている事を知っているのだ。
ならば、一樹は早急にも信頼できる護衛を雇う必要がある。
自分の命の代金といえば出し惜しみはしてられない。
「わかったわ。
その金額で護衛を引き受けてくれる人を集めてもらうわ。
父さん竜人族との交渉は終わったの?」
「ああ、ただ少し時間がかかるらしい。
3日ほど時間をくれと言われたよ」
「そう、それは仕方ないわね」
そう言うと、ミミは軽く父親に事情を説明して
一樹の護衛が出来る亜人を探してきてもらうよう頼んだ。
「それじゃあ、父さんは狼族と山猫族の中で
さっきの報酬で護衛を引き受けてくれる人を探してきて貰えないかしら
父さんの頼みなら、無下に断る人はいないでしょ」
「そうだな、そういったことなら
私が行ったほうがいいだろう
では、急いで行ってくるよ」
そう言ってミミの父親は家を出て行った。
一樹はふと疑問に思ったのでミミに聞いてみた。
「なんでミミの父さんなら無下には断られないんだ?」
「お父さんはあれでも、山猫族の族長なのよ
といっても、今は形だけという感じだけどね」
(まぁこんな生活をしてたらそうもなるわな
こんな状態じゃ、族長なんて意味がないようなもんだしな
族長=稼ぎ頭なんて感じなのだろうか?
もしくは、魔力の高いものが族長にでもなるのかな?)
そんな事を考えているうちに
ミミの父親は戻ってきた。
以外に早い戻りに、一樹は驚いたが
父親の顔からすると、どうやらうまく護衛の件は話が纏まったようだ。
「大変でしたよ
声を掛けたら、私が私がとひっきりなしでしたからね。
その中で、荒事に強い者を4人集めました。
これで、ミミを合わせて5人で一樹さんを護衛します」
自分は人間なのに、何故そんなにも護衛をしたがるのか
一樹は疑問だった。
確かに、報酬は高額だろう。
しかし、それは命の危険のある護衛なら
これくらいの報酬は当然だと思っているし
何より、亜人を虐げていた人間を率先して守ろうとは思わないはずだ。
不思議に思った一樹は、父親にその訳を聞いてみた。
「どうしてそんなに志願者が多かったんですか?
確かに、報酬はいいと思いますが
私は人間です。
亜人達にとっては、抵抗があると思うんですが?」
「いや、簡単ですよ。
まずは、報酬が破格です。
一樹さんには、分からないと思いますが
それだけの金額が貰える仕事に就いている亜人はいません。
それほど、亜人が人に紛れて仕事をするのは大変な事なんですよ。
そして何より、服従の契約の回避方法を見つけた一樹さんの護衛ですからね。
無報酬でも、やりたいと志願するものだっていますよ。
一樹さんは私達亜人にとって大切な恩人なんです」
「そうですか、それはありがたいですね。
ところで、お二人は契約の回避を行っているようですが
他のみんなは契約の回避は行ったんですか?」
そう、ミミの両親はさっそく試したようだが
この区画に住む亜人達はどうなっているのだろうと気なっていた一樹だが
すぐにその答えは返ってきた。
「昨日話を聞いた次点で、用でこの街を出ている者を除いて
全員が契約の回避を行っていますよ。
指輪や首飾りといったものを用意できていない者は
その辺りの石ころだったりに封印してあるので
時をみて、何か封印するに相応しいものにしようと思ってます」
(石ころに封印って可哀想だろそりゃ・・・
確かに、回避を優先させるべきだとは思うけど
そりゃないだろって感じだよ)
「それは、きちんとした物を用意したほうがいいと思いますよ。
さすがに石ころじゃ可哀想ですからね」
「そうですね、
ですが、いつ人にばれるとも限らないことなので
急ぎで行ったことですから、仕方ないのですよ
封印するものを選んでいる間に、人に捕まってしまったら意味がないですからね」
確かにそうだが、やっぱり石ころは酷いと思う一樹であった。
せめて、身につけられるものにすべきなのではと思ったのだ。
「それより一樹、そろそろ日が沈むわ
門までは私が見送るから
そこから森へ向かって、私達は気づかれないように後を付けるわ」
「了解
やつらが襲ってきたら、出来る限り俺は逃げるから
うまく、相手を捕らえてくれ
他の護衛方の準備は大丈夫ですか?」
一樹はミミの父親に尋ねると
「ええ、大丈夫です
しっかりと護衛するように、言い含めてきました。
一樹さんにもしもの事が合った場合
ここから追放するという約束も交わしてありますので」
(それは、有難いがやりすぎじゃないか?)
そんな事を考えながら、一樹とミミは家を後にした。
家を出ると、確かに日が沈みだしていた。
「ミミどうだい?
俺達をまだ付けて来ているかい」
「ええ」
(随分しつこいな、まぁそのしつこさが逆に仇になるんだけどな)
ミミとは街の門で別れ、一樹は一人森を目指した。
城門にハルクの姿はがなかったので少し残念だった。
ゆっくりと、薄暗い道を歩いていると不意に声を掛けられた。
「旦那ぁ~こんなところを一人で歩くのは無用心ですぜぇ」
声を掛けてきたのは、ミミを捕らえた奴隷商の男だった。
また、その男の後ろには2人は、一樹の見知らぬ男達もいた。
「何か用かな?
これから、急ぎで向かわなければ行けない場所があるのでね
用件なら手短に頼むよ」
「いいえ、例のお売りしたメスの亜人は元気ですかぁ?」
「ああ、大変元気にしてるよ。
いい買い物をしたと思っているよ」
「そうですかぁ、そいつはよかったですねぇ
まぁこっちとしては、随分安く売ってしまったと後悔していた所だったですよ」
「何が言いたいんだお前は」
「いえ、あのメスの亜人は400イェンじゃ安すぎたと思いましてね
旦那には追加料金として3000イェン支払って頂きたいと思いましてね」
「一度売買が成立したものに、
この国では追加料金を支払うなんてことがあるのか?
馬鹿な話があるか
悪いがそんな金を支払う気はない」
「まぁこちらとしては、穏便に支払って頂ければよかったんですが
こうなっては仕方ありませんね
腕ずくで支払ってもらうしかありませんねぇ、旦那ぁ!」
そう言って男達は剣を抜き、一樹に向かって来た。
一樹が逃げようとすると、
ザシュ、ザシュ、ザシュと音がしたかと思うと、
男達の胴は分かれ、そのまま倒れ血を流していた。
背後から一太刀で、男達の命を奪ったのだ。
ふと見るとミミが血の付いた剣を持ち
男達を睨みつけていた。
「これは、一樹を襲った報いよ!」
(ああ、やっぱりここは日本とは違う世界なんだな
この世界では命が軽すぎる)
そう、思いながら一樹はこみ上げる吐き気を押させることが出来なった。
感想待ってますね~
1月24日修正しました。