塩の価格
だんだん物語が勝手にストーリーを作り出してしまう
作者の力量不足を痛感します
(もしかすると、この足が治るかもしれない
もう一度、思いっきりサッカーが出来るかもしれない。
父さんの病気を治すことが出来るかもしれない)
そんな期待が胸を膨らませていると
一樹は、初めて異世界に来てよかったと思った瞬間であった。
そうやって一樹が、期待に胸を膨らませていると
ミミが、部屋に戻ってきた。
「ごめんない一樹、待たせちゃって
どうしたの、何かすごくいい事があったって顔してるけど?」
そう、一樹にとってとても良いことがあったのだ。
ミミの観察眼には驚かされるばかりだ。
まぁ、単に一樹が顔に出やすいだけかもしれないが
「本当にミミは観察眼は本当にすごいな。
ああ、どうなるかはわからないけど
いい事があったんだよ」
「父さん何か話したの?」
ミミはそう父に問いかけた。
父親はさっき、一樹に話した事をミミにも聞かせた。
「ああ、一樹さんは昔に膝を怪我したらしいのだ。
なので、われわれの治癒魔法と竜人族の薬について
話してみたんだよ」
「そうなの一樹は膝が悪かったのね。
でも、治癒魔法でそこまで酷い怪我でなければよくなるし、
薬を使えばほとんどの怪我はよくなるわよ」
「そうか、まぁかなりの大怪我だったからあんまり期待していないよ。
膝の十字靭帯が切れてしまったね
元通りにはなったんだけど、後遺症が残ってしまってね
膝に過度の負担がかかると、痛み出してしまうんだ」
一樹は、サッカーの大会で膝を壊している。
今では、気持ちの整理も付いているが
当時は、酷く嘆いた。
夢だったプロへの道が、閉ざされてしまったのだから仕方の無いことだ。
膝を壊した原因も、今はもう恨んではいない。
いや、当時か原因については恨んですらいなかった。
あれは、仕方の無いことだと割り切っていたのだ。
しかし、そんな一樹でも草サッカーでもいいから
もう一度思いっきりサッカーがしたいとは思っていたのだ。
なので、期待していないとは言っているものの
実は、かなり期待しているようだ。
「そうなの、どんな怪我かよくわからないけど
一樹の村で直らないような怪我なのね。
でも、一樹の村の治療より、竜人族の治癒魔法と薬のほうが
効果があると思うわよ」
「そんなにすごいのかい?」
「ええ、竜人族は亜人の中でもとても魔力が高い種族なの
治癒魔法では、切断された腕や脚なんかを元に戻すことも可能だし、
薬はそれそこ死んでなければすべてを癒すなんて言われてるくらいよ」
一樹は驚いて叫んだ。
もしそれが本当なら、どんな怪我や病気も直すことが出来そうだ。
「そこまでの効果があるのか!
それだけの効果のある薬なら、村へ持って行けるよ」
そう、それだけの効果のある薬ならば
日本でも売ることも可能だと、一樹は考えたのだ。
何より、父親のように慢性の疾患を抱えた人達の助けになるはずだ。
しかし、ミミとミミの父親は少し困った顔をしていた。
「それはちょっと難しいかもしれないわ」
そう言ってミミはその訳を話してくれた。
「竜人族の薬はあまり大量には作ることができないの
普通の薬と違って、材料に特殊なものを使うから」
「特殊なものなのかい。
希少な薬草でも使うの?
だったらそれの採取や栽培の為に俺がお金を出しても構わないよ」
それだけの薬ならいくらお金を出してでも構わない。
一樹はそう思っていた。
それだけの価値があるものだし、それによって救われる人が多いからだ。
「いいえ、違うわ
材料はこの国の薬と、ほとんど変わらないの
ただ、決定的に違うのは
竜人族の血を使うのよ
だから、あまり多く作ることは出来ないの
それに、竜人族はあまり数の多い種族じゃないし」
一樹はその事を聞いて小さくないショックを受けていた。
これなら日本への持って行っても確実に売れる。
なにより、父親を傍で見ていたこともあり
苦しんでいる人達を救うことが出来ると思っていたからだ。
「でも一樹、普通の魔力を付与した薬だって
なかなか効果があるものなのよ
もちろんかなり高価な物になってしまうけど
一樹なら簡単に買えるわ
だから、その薬を確かめてもらえないかしら」
「わかった。
こっちの薬を試してみるよ・
それに、竜人族の薬だって大量に作ることが出来ないだけで
少しなら作ることは可能なんだろ
少量でいいから取引させて貰えないだろうか?」
「ええ、竜人族が許す限りの量でいいなら大丈夫だと思うわ
その辺りは父に交渉させておくわ、
お父さん竜人族に治療と薬の交渉をお願いね
私達は街の見物も兼ねて薬を買ってくるわ
それに、薬以外にも何かあるかもしれないしね
さあ、一樹行きましょう♪」
そう言って腕を取って一樹を連れ出すミミ
服装も随分とお洒落をしているようだ。
しかし、精霊魔法を使って尻尾や耳を隠してないようだ。
「ミミ、尻尾とミミを隠さなくていいのか?」
「もう隠してもしょうがないし
それに、私の顔を知ってるあの商人にもし会ったら
厄介だから、隠す必要はないわ」
「確かにその通りだな」
「それより、早くご飯にしましょう
私、お腹すいちゃったの」
そう言ってミミと一樹は急いであの飯屋に向かったのだ。
相変わらず、ミミへの視線は厳しいようだが
当の本人は、まったく気にした様子は無いようだ。
昨日の店に入り、今日のお勧めをまた注文した。
今日も昼の時間が過ぎているのか、客はポツポツとしか入っていなかった。
暫くすると、定食が運ばれてきた。
今日のお勧めは、昨日とは違い焼き魚定食のようなものだった。
「ミミ、この魚はすぐ近くの川で取れたのもの?」
「そうよ、この街には近く川があり、そこで取れた
魚はこうやって塩焼きにするとすごく美味しいのよ」
そういって美味しそうに焼き魚を食べるミミ
ネコ科なので、魚は好物なのだろうか?
一樹は、ふと疑問に思ったことを聞いてみた。
「ミミ、この国では塩は高価なものじゃないのか?」
そうここか中世ヨーロッパ並みだとすると
塩も高価なはずだ。
しかし、昨日の焼肉定食にも塩は使われていたし
この焼き魚には、塩がふんだんに使われている。
高価だとしたら、こんな店で使えるものではない。
「一樹の村じゃ高価なものなの?」
「いや、そうじゃないけど」
「この国で塩が高価だったのは大分昔のことよ
闇塩といわれるものがでてきてからは
大分値段が下がって、無理なく私達でも買えるようになったのよ」
(なんだその闇塩って、真っ黒な塩ってことかな
ちょっとみたくないな)
「ごめん、その闇塩って何なのかな?」
「闇塩はね、元々塩の販売は国の管轄で行っていたのよ。
昔は岩塩の産出量、とても少なかった所為で
塩の買占めなどを禁止する目的だったそうよ。
そこに、安い値段で海水塩を販売する商人が現れたの。
露天市や闇市なんかで、大量に安く売られていたので
闇塩って名前がついたそうよ」
(真っ黒な塩じゃなくて、
闇市で売られていたから闇塩か。
納得のいく名前だな。
確かに、塩の産出量が少ないのに
塩の買占めなんて行ったら、国が滅ぶからな)
「そうか、つまり塩では商売にならんという訳か
まあ、豊富に塩があるって言うのはいい事だよ。
塩がないと生き物は生きていけないからね」
そう、塩がないと生物は生きていけない。
戦国時代、武田信玄が今川氏真によって塩止めを受けた。
つまり戦略になるぐらい大事ということだ。
その後、上杉謙信が武田信玄に塩を送った事で
敵に塩を送るって言葉が出来たと言われている。
「そうね、まぁ闇塩なんて名前が付いてるけど
産地のほうでは、入り浜塩なんて名前らしいわよ
作り方にちなんで、そう呼んでるらしいの」
それを聞き一樹は、フォークを落として驚いた。
それはきっと、入り浜式塩田でそれは日本から持ち込まれた技術だからだ。
きっと神隠しにあった人が、この方法を広めたのだろう。
誤字脱字報告
感想をお待ちします
1月24日に修正しました。