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「申し開きの、余地もありません」

燃えるような痛みの中、リャチは唇の端から血の味を感じながら、それでもなお、兵士としての上官への返答を絞り出した。


「よせ、メゼク!」

あわてたセダスタが、即座に2人の間に割って入る。彼はやにわに宰相の肩を掴んで強引に自分の方を向かせると、まるで柔道家が失神した相手に活を入れるかのように、その体を一度、したたかに揺さぶった。


「殿……!」

メゼキラカフは、まるで聞き分けのない子供のように、不服そうな声を上げた。だが、セダスタはもはや彼の激情を許さない。


「クドゥクシュが滅んだ以上、もう彼らに王室との由縁はない。自由の身だ。そんな人たちに、すくなくとも主従の関係をかざしてこんなことする権利はないだろ?」

セダスタの口調は、冒険者の青年のおおらかなものだったが、その一言一句に、決して揺らぐことのない王族としての意志が宿っていた。

「それに、考えてみろよ、死んだはずの王子が実は生きてて、こんな形で再会するなんて思うわけないって」


「そうですが――ですがァ……」

持ち前の強情を正面からへし折られた時のメゼキラカフには、決まって、やたらと若く見えるという奇妙な癖があった。

もちろんそれは、良い意味ではない。長年培ってきた権威という鎧を剥がされ、ただの意地っ張りな老人の姿を晒しているかのようだった。


セダスタは、もう宰相には目をくれず、その視線をリャチとダヒシールへと戻した。その瞳には、彼らの頬に残る赤い痕に対する、痛切な悔恨の色が浮かんでいる。

「でもな、ふたりとも。これだけは聞いてくれ」

彼の声は、先ほどとは打って変わって、静かで、そして悲痛な響きを帯びていた。


セダスタは、言葉を切った。

「俺は、クドゥクシュの遺民が、誰1人として捨て鉢になっているところなんて見たくない。むしろ、生き残れたんなら……。できる限り、昔のことは忘れて、ただ少しでも幸せに生きてほしい。それが、俺の唯一の願いだ」


「もったいないお言葉です……。俺たちは、ただ……あまりに愚かでした」

感極まったダヒシールは、男泣きに流れる涙を、硬い手甲で拭うのも構わずに嗚咽した。それは、長い逃亡生活の末に、ようやく見出した主君の言葉が胸に沁みた証だった。


「申し訳ありません。なんと無意味なことを……。一度でも禁軍の栄誉に浴した者として、我らに禄を賜った方々へ、到底顔向けのできぬ姿でございました」

リャチが、二人の気持ちを代弁するように、深く頭を下げた。


その痛切な謝罪がもたらした静寂を、しかし、鋭い声が断ち切った。

「……いや、しかし! 感傷に浸るのは後だ!」

メゼキラカフだった。彼は、まるで先ほどまでの激情が嘘であったかのように、冷徹な宰相の顔を取り戻していた。


「殿、いずれこの船は封鎖されます!

ドゥアピーズの艦隊が来るか、船が港に逃げ込むか……形は分からぬが、そうなれば万事休す!

例の役人に我らの素性が割れてしまいますぞ!――」


「――ならば、我らは賊に扮し、この機に乗じてドックから最速の飛空艇を奪い、ずらかるのです!

賊がここまで来られたのだ。この宙域は、まだ星や港に近い。……おい、お前たちの船はどこから来た?」


早口な詰問に、リャチが即座に応じる。その顔は、もう謝罪する元兵士ではなく、情報を報告する1人の戦士のそれだった。

「ホリハック。単一惑星国家です。不壊党の拠点ではありません。

そして現在の距離なら中型艇の跳躍機関でも到達は容易かと」


「ならこの大型艇に乗せておるわしらの船でも事足りるか」

「余計な盗みをしなくていいなら、それが1番だな」

セダスタが、静かに結論を下した。その瞳には、先ほどの感傷はない。

未来を見据える、指導者の光が宿って いた。彼は、まるで自分自身に言い聞かせるように、そっと呟く。


「カドローとドゥアピーズへの『挨拶』は、また別の機会に、もっと盛大にくれてやればいい」


セダスタの瞳に、決意の光が宿り始めるのを横目に、メゼキラカフは今度はリャチとダヒシールに向き直った。その声は、先ほどの激情とは打って変わり、氷のように冷たく、そして鋭利だった。


「ところで、お前たち2人はどうするつもりだ?『お国のため』という立派な建前を掲げて無駄死にしようとし、その結果、他でもない主上の歩まれる道に、無用の砂利を撒き散らした。その責任、どう取る?」


メゼキラカフは言葉を続ける。


「歴史に、主君を裏切った背信者として名を残したくなければ、今すぐその浅慮を悔い改め、本物の奉公とは何かをその身で示せ。よいな?」


「――はっ!」

「もちろんです」

それは、理屈を超えた、魂に刻み込まれた返答だった。


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