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セダスタのスケッチ

挿絵(By みてみん)


「これは……何か妙ですな」


対照的に、赤髪の青年セダスタは肩をすくめ、ボードゲームの駒を指で軽く弾いた。その声には、まだ少年の面影を残した明るさがある。

「……妙か?揺れただけだろ?」


「殿は、これまで星の外に出られた際、このような経験が?」

メゼキラカフの問いに、セダスタは「うーん」と天井を仰ぐ。指先が、髭とは無縁な顎をなぞり、記憶の底を探り始める。

「あるような……いや、おかしいな?冷静に考えると、1度もなかったかもしれない」

自問自答するうち、彼の顔から笑みが消え、怪訝な光が瞳に宿った。


「そうでしょう?」メゼキラカフは確信を込めて頷いた。

「中型艇までならいざ知らず、この規模の飛空艇が宇宙風ごときで揺らぐことは普通ありません。

それが3、4回と続いたとなれば、原因は外部ではなく……内部にあると考えるべきです。空には地震は起きませぬからな」


その言葉が終わるのを待っていたかのように、船内にけたたましいサイレンが鳴り響いた。

警報音は船の隅々にまで行き渡り、偽りの平穏を無慈悲に引き裂く断末魔の叫びとなる。


直後、壁のスピーカーからは、ややノイズを含んだ冷静な通信が流れる。

「緊急警報。これは訓練ではない。中層ブロックを中心に、所属不明の武装勢力による侵入を確認。侵入箇所は複数。

船内各所で交戦状態に移行した」


それが一瞬の間を置いて、より明瞭で、しかし切迫した声のアナウンスに切り替わる。

「乗客の皆様に、緊急のご案内を申し上げます。ただ今、当船は武装勢力の襲撃を受けております。警備隊が全力を挙

げて事態の鎮圧にあたっておりますが、交戦範囲は船内広域に及んでおります」


「通路の安全は確保できません。脱出艇区画およびシェルターへの移動は極めて危険です。繰り返します。脱出艇

やシェルターへは向かわないでください」


「ただちに最寄りの客室、あるいは安全が確保できる室内に退避し、ドアをロックした後、可能な限りの手段でバリケ

ードを構築し、身の安全を確保してください。繰り返します。ただちに室内に退避し、バリケードを構築してください!」


騒がしいアナウンスが途絶えると、客室には再び、しかし先程とはまったく異なる質の静寂が訪れた。

セダスタは窓の外の穏やかな雲海から視線を戻し、静かに問う。

「どうする?」


その声に焦りの色はない。メゼキラカフもまた、動揺を見せることなく、ただ目を伏せて思考を巡らせていた。

「このタイミングで、これほど大規模な襲撃……。偶然と考える方が難しいでしょうな」

やがて顔を上げた老魔道士は、重い確信を込めて続ける。

「連中の狙いが我々である可能性は高い。ならば、ここに籠城するのは最悪手。包囲が完成する前にさっさと打って出て、

脱出艇を確保すべきです」


「……そうだな」


セダスタは短く応じると、迷いなく歩き出した。その瞳には平時の柔和な色はなく、覚悟を決めた者の鋭い輝きが宿っている。

壁に立てかけられた長大な剣へと歩み寄り、革ベルトを幾重にも巻いた、完全な長方形の鞘ごと手に取る。

それは常識的な剣からはかけ離れた異形の得物であり、まさに彼自身の流儀を象徴していた。


扉の外側では、複数の気配がわずかにうごめいている。メゼキラカフの推測どおり、敵はすでに部屋の前にまで迫っていた。

セダスタは魔道士と一瞬だけ目を合わせ、すぐさま扉へと向かう。一切の躊躇いない動きでドアを蹴り開けると、

通路を駆けていた兵士たちが反応する間もなく、彼は異形の――四角い剣を鞘から抜き放つ。

一閃――刃が左右へ鋭く振るわれ、煌めく閃光が走る。2人の兵士が呻き声をあげ、倒れ込む。


「……抵抗者あり!気を付けろ!」


廊下の奥から怒号が上がり、即座に銃口が火を噴く。

だが、セダスタはわずかな躊躇も見せず、銃火線に正面から構える。飛来する弾丸に対し、彼は剣の広い刀身を、

切っ先を下げた霞の構えで突き出した。

青白い魔力が剣の周囲に膜のようにほとばしり、金属音を高く響かせながら、弾丸は斜面で弾かれ、天井や壁に火花を散らす。


リロードの隙を突き、大剣の担い手は床を強く蹴った。射手の脇を矢のようにすり抜け、低い姿勢のまま滑り込むように着地する。

反転もせず、流れる動作のまま剣を横薙ぎに振り抜けば、刃は兵士の脚を断ち切って抜ける。

敵の胴を容易に両断できる剣技でありながら、セダスタはあくまで殺意よりも速度を選び取っていた。

機を見て飛びかかり、脚を払って体勢を崩し、戦闘を継続できなくする――必要最小限の一撃だけを積み重ねていく。


彼は息の根を止めることには固執せず、ただ道を切り開くためだけに、その重い剣を嵐のように振るい続けた。


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