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【Note】
本作は、シェアードワールド「ソーミティアユニバース」の世界観でどのような物語が描けるか、その可能性を提示するためのサンプルストーリーです。
世界観の共有を最優先として急ぎ執筆したため、とくに物語の後半は未整形のプロットや、断片的なアイデアを書き留めた「スケッチ」の状態となっております。
完成された作品ではありませんが、この宇宙の広がりを感じていただくための素材として、あしからずご了承ください。
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銃声が船内に響き渡る、少し前のことだ。
客室区画の1室は、まだ偽りの平穏に包まれていた。
そこは、船内とは思えぬほど落ち着いた書斎の趣を備えている。壁はマホガニーの羽目板で覆われ、
床には精緻な幾何学模様の絨毯が広がっていた。中央の彫刻入りローテーブルの上では、真鍮製の天球儀が静かに自転し、壁際の書棚には革装丁の古書が整然と並ぶ。
隅に置かれた見慣れぬ観葉植物は、シャンデリアの光を受けて瑞々しく輝き、長旅の慰めに選ばれたボードゲーム盤や、
読みかけで伏せられた本が、この部屋に確かな主の存在を示している。窓の外には壮大な雲海が広がり、
その静謐は、まだ遠いサイレンの響きにも、床を揺るがす微かな振動にも乱されてはいなかった。
部屋には、対照的な2人の男がいた。
1人は陰気で頑固そうな魔道士風の男。もう1人は、華やかな冒険服に身を包んだ青年である。
青年は、この空間の主であるかのようにくつろいでいた。
その存在感は部屋の豪奢さに少しも劣らず、むしろ調度品のすべてが彼のために誂えられたかのような馴染みを見せる。
その所作には一切の気負いがなく、まるで呼吸をするように、ごく自然に場の空気を支配してしまうのだ。
彼の佇まいには、豪華絢爛な宮廷や厳格な儀礼に育った者だけが纏う、天性の気品があった。
努力によって無理に適応した人がもつ空気とは無縁の、柔らかな落ち着き。
実際には存在しないはずの高貴な香の匂いさえ、錯覚させるほど彼の存在感は芳醇だった。
まさにその時、不意に床が持ち上がるような、鈍い揺れが部屋を襲った。
書棚の古書が数冊、滑り落ち、天球儀がひときわ甲高い軋みをあげて回転し、やがて何事もなかったかのように平常な動きへと戻る。
椅子に腰かけ、読んでいた本から顔を上げた魔道士メゼキラカフは、眉間に深い皺を寄せた。




