25
「あれだ、あの中へ!」
セダスタが、道の真ん中に鎮座する古びた鉄のマンホールを指さす。先導役を務めていたリャチが即座に駆け寄ると、その指を蓋の隙間にねじ込んだ。
「開けます!」
だが、蓋はびくともしない。
「いけない……錆びている!」
リャチが苦戦するのを見て、ダヒシールが彼女を押し退けるように前に出ると、渾身の力
で、軋む金属音と共に蓋をこじ開けた。地下特有の湿った空気が、一気に噴き出す。
「リャチ、下でこの子を受け取れ!」
セダスタの指示に、
「はっ!」
リャチは躊躇なく暗い穴へと飛び降り、着地と同時に受け身の姿勢を取った。セダスタとダヒシールは、重い少女の体を慎重に穴へと降ろしていく。だが、その手はあまりの重みに耐えかねて途中で滑り、
「――まずっ!」
少女の体は、一気に解き放たれたかのように容赦なく落下することになった。
落下物を受け止めた衝撃に、
「ぐっ……!?」
リャチは短い悲鳴を上げて少女の下敷きになる。
「……重いです!」
「だから言ったろ!?」
潰れたカエルのような声で抗議するリャチを尻目に、セダスタとダヒシール、そしてメゼキラカフが立て続けに梯子を滑り降りた。
しんがりを務めたメゼキラカフは、頭上から迫る足音を聞きながら、静かに鉄の蓋を穴の上まで引き寄せる。そして、
「まったく、もう!」
その指先から蒼い雷光を迸らせた。バチチ、と空気が焦げる音と共に、雷の熱が蓋とその縁を瞬時に溶かし、ひとつに融合させていく。
重い金属音が響き、蓋が完全に溶接されると、地上の喧騒は壁1枚を隔てたかのように遠のき、彼らの世界は完全な闇と沈黙に包まれた。
鼻をつく汚泥の匂いと、どこかから滴る水の音だけが、五感を支配する。その、息が詰まるほどの暗闇の中で、不意に、前方の闇がわずかに揺らぎ、誰かが無言で手を上げる気配がした。
「ッ!?」
セダスタたちはそれを一瞬、追手と見間違え、即座に戦闘態勢を取る。だが、その影は静かに手招きをすると、低い声で「こっちだ」とだけ告げた。声と、闇に見慣れた目が捉えたシルエットから、それが先ほど雛壇を駆け抜けていった儀仗兵――総督を暗殺したテロリストの1人だと分かる。
疑う暇も、選択の余地もなかった。一行は、その謎めいた案内人の後を追って、ひたすら走り続ける。
ぬかるんだ足元、淀んだ空気、時折響く不気味な反響音。どれだけ走っただろうか。やがて視界が開け、一行は巨大な地下空間へとたどり着いた。古い大聖堂の身廊を思わせる、途方もなく広大なトンネル。そのすぐ脇を、轟音と共に大量の下水が滝となって流れ落ち、凄まじい水飛沫を上げていた。
*
「……また梯子、ですか」
滝の横、濡れた壁面に沿って、遥か下まで続く鉄の梯子を前に、
ダヒシールがうんざりしたように呟いた。
「文句を言うなよ。これしか道がないんだ」
セダスタは応じながら、懐から取り出した頑丈なロープを、意識のない少女の体に慎重に巻きつけ、即席のハーネスを作り始めた。その時、腕の中の少女が「ぅ……」と、か細くうなされた。セダスタはわずかに目を見開く。
「……よかった。生きてはいるらしい」
安堵の息を漏らし、彼はダヒシールへと視線を送った。
「いいか、ゆっくり降ろすぞ」
セダスタとダヒシールがロープの両端を固く握り、崖下を覗き込む。
下では、先に降りたリャチとメゼキラカフが、松明代わりに魔力を灯したメゼキラカフの手のひらを頼りに、落下予定地を見据えていた。ロープが軋み、2人の屈強な男の腕が、少女の異常な重さに震える。まるで鉄の塊でも降ろしているかのような、過酷な作業だった。
ようやく滝壺の脇にある通路へと降り立つと、案内人は一行を格子のある脇道へと導く。それは、どう見ても行き止まりだった。だが、案内人が壁の、一見ただの染みに見える箇所に手を触れると、重い石が擦れる音と共に、格子がゆっくりと横にスライドしていく。
格子の向こうに広がっていたのは、下水道の悪臭が嘘のような、乾いた空気と静寂。それは、彼らの拠点の門だった。
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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