24
「――!」
その、絶体絶命の刹那。
1条のか細い赤光が、青い混沌を切り裂いて、少女の胸元――ペンダントに吸い込まれた。次の瞬間、乾いた銃声が響き、青い宝石が木っ端微塵に砕け散る。
ビルの影。華美な金のレリーフに、茨のように覆われた古めかしいライフル、そのスコープを覗く男の姿を、セダスタの目は確かに捉えた。総督に最初の凶弾を放った狙撃手――そう同定すべき人物とセダスタは、一瞬だけ視線を交わす。彼は闇の中へと姿を消した。
「――!」
力の源を失い、少女を包んでいた光の嵐が、急速にその身の内へと収縮していく。戦場を埋め尽くしていたエーテル体が一斉に悲鳴を上げ、光の粒子となって霧散した。
そして、髪を大きく乱れさせながら、少女がその場に崩れ落ちる。
「……!」
セダスタは視線を泳がせた。憎むべきカドローは、すでに遥か後方で体勢を立て直し、現れたばかりの増援部隊に何事か叫んでいる。今にも、新たな包囲網が完成するだろう。
万事休すかと思われた、その時。
混乱の極みにある群衆をかき分け、人影が雛壇を走り抜け、何か白いものを投げ込んだ。顔さえ上げないその姿は、総督を撃った儀仗兵の1人に見えた。
セダスタがそれを拾い上げると、1枚の布切れだと分かった。そこには、血の滲んだ指で書かれたかのような、なぐり書きの文字が記されていた。
『下水へ降りて南へ走れ』
迷っている暇はない。セダスタは意識のない少女の脇に腕を差し込み、一気に担ぎ上げようとした。だが――
「ぐっ……!?」
信じがたい重さが、彼の腕と体幹にのしかかる。見た目からは到底想像もつかない、まるで鉛の塊のような質量だった。
「ダヒシール、手を貸してくれ!この子、妙に重いんだ!」
息を切らしながら叫ぶセダスタに、ダヒシールは眉をひそめる。
「殿、女性に対してそのような……」
言いながらも少女の反対側に回り込み、屈強な腕を差し入れる。
「では、せえので……ぐっ……!?」
ダヒシールの整った顔が、驚愕に歪んだ。
「……おっっもっっっ!」
「お2人とも、遊んでいる場合ではありません!」
駆けよる騎士団を睨むリャチの鋭い声が飛ぶ。セダスタとダヒシ
ールは顔を見合わせると、意を決して、2人がかりで少女の体を持ち上げる。
「行くぞ!」
2人は、まるで巨大な金庫でも運ぶかのように、ぎこちない足取りで雛壇から駆け下りた。だが、開けた広場ではすぐに追いつかれる。その時、雑踏の奥から、聞き慣れた老人の声が響き渡った。
「――道は、こじ開ける!」
メゼキラカフだった。彼は群衆の中から魔導書を天に掲げ、そのページが風も無いのに激しくめくれる。彼は特定の頁を睨みつけると、その乾いた指先を、雛壇と騎士団との間、何もない石畳の1点に向けた。
空がにわかに曇り、次の瞬間、天からの一撃が、耳をつんざく轟音と共にメゼキラカフが指した地点に突き刺さった。それは破壊を目的とした雷ではない。凄まじい熱量が地面を瞬時に蒸発させ、分厚い粉塵と水蒸気の壁を爆的に発生させる。
視界を完全に遮る熱い白煙が、戦場を呑み込んだ。騎士団の隊列は完全に分断され、混乱した怒号だけが煙の向こうから聞こえてくる。
「今です!」
メゼキラカフの叫びを合図に、4人は灼熱の煙幕の中へと飛び込んだ。視界は白と黒の濃淡だけに支配され、熱せられた粉塵が容赦なく肺に流れ込んでくる。
「テロリストの連中が助けてくれるらしい!南へ来いって!」
セダスタの号令だけを頼りに、咳き込みながらも一行は走る。少女の異常な重さに、セダスタとダヒシールの足取りはぎこちなく、何度もよろめいた。その様子を見かねたメゼキラカフがすぐさま加わり、3人がかりで少女の体を担架のようにして運ぶことで、ようやく速度が上がった。
やがて煙を抜けた先、そこは広場から分岐した薄暗い路地だった。
高評価やブックマーク、本作のご紹介、Xのフォローなどで応援いただけますと幸いです。制作の大きな力になります。
https://x.com/piku2dgod
本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=24843658
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=25490740
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=26572256




