19
その時、2人の耳に、すぐ近くにいたカドローの側近たちの会話が、偶然にも届いた。
「……それより、あの脱出艇の件はどうなっている?」
「沿岸警備局の記録にありました。該当すると思しき中型艇が、今朝方、ケドヤーヘンに入港しています。……ただし、直後に港を離れ、現在は地上のどこかに潜伏しているものかと」
「……つまり、我々がこの星に着いた時には、すでに奴らもここに?抜け目のない連中だ」
このやり取りは、彼らにとって最後の希望が断たれたことを意味した。メゼキラカフとリャチは、無言で視線を交わす。その目には、同じ覚悟の色が浮かんでいた。もう、後戻りはできない。
老宰相の頷きを合図に、リャチは音もなくその場を離れ、伝令として駆けた。
数分後、セダスタとダヒシールを率いて、彼女は戻ってきた。だが、彼らが選んだ道は、地上ではなかった。警備兵の視線や、街の上空を規則的に巡回する警備ドローンの冷たい複眼を避けるため、彼らはその卓抜した身体能力を駆使し、石造りの建物の屋根から屋根へと、猫のようにしなやかに、そして慎重に飛び移っていく。パレードの華やかなルートを大きく迂回し、一行が目指すのはただ一点――雛壇の、ほぼ真上に位置する、教会の鐘楼の屋根。
やがて、目的地にたどり着いた3人は、彫像の陰に、音もなくその身を潜め、メゼキラカフに向け手ぶりで合図を送った。人ごみに紛れる老人からの、さりげない応答を認めてからセダスタが目線を移すと、そこには何も知らずに談笑するカドローの姿がある。
彼らの目標は、けして彼の暗殺ではない。この混乱の中でカドローを生け捕りにし、
人質として、この星から脱出する。
それは、窮余の一策というほかなかった。
だが、すべての逃げ道を塞がれた今の彼らに、この無謀な賭け以外、残された手は何ひとつなかったのも、また事実だった。
*
オープンカーが、雛壇へと続く最後の直線に入った。
そこは、このパレードにおける、いわば栄光の回廊だった。道の両側から、これまでで最も大
きな拍手と歓声が、波のように押し寄せる。空からは、色とりどりの花びらが、終わりを知らぬかのように降り注ぎ続ける。そのすべては、ただ1人、新しい時代の象徴であるオグダリエ総督のためにあった。彼は、民衆の熱狂的な視線を一身に受け、誇らしげに、そして力強く、手を振り続けている。
その熱狂の渦を、遥か上空の鐘楼から見下ろしながら、セダスタたち4人は、民衆とはまったく別の目標に、いよいよその照準を絞り込んでいた。彼らの視線の先にあるのは、栄光の道を走る総督ではない。その道を走り終えた先で、ふんぞり返って座っている、憎むべき標的、カドローただ1人。
その、刹那だった。
けたたましい歓声と、鳴り響くファンファーレの音にかき消されそうな、乾いた炸裂音が、ひとつ、響いた。
ほんの一瞬、総督の笑顔が、困惑に歪んだように見えた。振り続けていた彼の右手が、まるで何かを探すかのように、自らの胸元へと下ろされる。その白い礼服に、小さな、しかし、ありえないほど鮮烈な、深紅の染みが、じわりと広がった。
人々が、まだ何が起きたのかを理解できずにいる、そのコンマ数秒の静寂を破ったのはさらに予想しがたい事態である。
オープンカーのすぐ脇を、一糸乱れぬ行進で固めていた儀仗隊。その列の中から、何人かの兵士が、突如として、まるで示し合わせたかのように、その完璧な行進の歩みを崩したのだ。彼らは、儀礼用の長大な槍をその場に投げ捨てると、腰のホルスターから、隠し持っていた無骨な拳銃を抜き放つ。
そして、まだかろうじて息のあった総督の身体に向け、躊躇なく、立て続けに数発の銃弾を撃ち込んだのだ。
それは――もはや暗殺ではなかった。公開処刑だった。
オグダリエ総督の身体が、まるで糸の切れた人形のように、前のめりに崩れ落ちる。その頭部は力なく
垂れ、ついさっきまで万雷の喝采を浴びていた男は、もはや何の反応も示さなかった。
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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