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その時ロビーの一角が、にわかに騒がしくなった。雑踏の流れが、まるで川の途中に大きな岩が置かれたかのように、不自然

に左右に分かれていく。その先頭にいたのは、惑星ホリハックの紋章を付けた、仕立ての良い制服に身を包んだ役人た

ちだった。彼らは、まるで王族でも迎えるかのように、緊張した面持ちで通路を確保し、到着ゲートの一点を見つめて

いる。


やがて、ゲートから、一団の人間が姿を現した。


中央にいるのは、肥満した壮年の男だった。司祭を思わせる高価そうな絹のローブを身にまとい、その指にはこれみよ

がしに宝石の指輪がいくつも輝いている。傲慢さと猜疑心に満ちたその顔は、リャチとダヒシールが決して忘れること

のできない、あの男――ドゥアピーズの高官、カドローその人だった。


そして、そのカドローの斜め後ろを、まるで影のように、1人の少女が歩いていた。年の頃は、リャチよりもさらに

若いだろうか。けばけばしい一行の中で、彼女だけが、簡素ながらも気品のある、白いワンピースを身にまとっている。

俯きがちに歩くその横顔は、感情というものが抜け落ちた人形のように無表情で、周囲の喧騒や、カドローの尊大

な態度さえも、まるで存在しないかのように、彼女は自分だけの静寂の中を歩いていた。その姿は、

あまりにも異質で、汚濁の中に咲いた、一輪の孤高の花を思わせた。


彼女らを固めるのは、黒一色の、機能的ながらもどこか古めかしい騎士団の甲冑を纏った護衛たちだ。彼らの動きには

一切の無駄がなく、その冷徹な視線は、周囲のあらゆるものに警戒の光を走らせている。


「……カドロー!」


ダヒシールの口から、呪詛のような呟きが漏れた。リャチもまた、テーブルの下で、硬く拳を握りしめている。自分た

ちが命を懸けて仕留めようとした標的が、今、何食わぬ顔で、自分たちの目と鼻の先を歩いているのだ。


だが、セダスタの視線は、その憎むべき男の姿を捉えながらも、その傍らにいる、異質な存在感を放つ少女に、知らず

知らずのうちに引き寄せられていた。


「……あの女の子、なんだろう」

思わず、そんな声が彼の口から漏れた。


ホリハックの迎賓団が、深々と頭を下げてカドローを出迎える。カドローは、それに満足げに頷くと、周囲の雑踏

などまるで存在しないかのように、尊大な態度で役人たちと短い言葉を交わし、護衛に守られながらロビーを足早に横

切っていく。


巨大なロビーの喧騒の中、フードコートの一角でハンバーガーの残りを食べている4人組のことなど、彼らの意識の片

隅にもない。セダスタたちは、完全に背景の一部だった。その他大勢の、顔のない群衆の1人にすぎなかった。


だが、その群衆の中から、4対の視線だけが、凍りつくような警戒心と、燃え盛るような憎悪を込めて、その一団の背

中を追い続けていた。メゼキラカフは、扇の要であるカドローだけでなく、その護衛の数、装備、そしてホリハック

側の役人たちの態度まで、全てを記憶に刻み込むように、冷徹な観察を続けていた。


やがて、カドローの一団は、特別来賓用の通路の向こうへと姿を消した。ロビーには、何事もなかったかのように、

再び人々の流れが戻ってくる。


しかし、セダスタたちのテーブルに残された空気は、先ほどとは比較にならないほど、重く、そして危険なものに変わ

っていた。


セダスタの瞳に、ひとつの光が宿る。それは、王の気品でも、冒険者の好奇心でもない。追い詰められた獣が、最後の

反撃を決意した時に見せる、危険で、しかしどこまでも純粋な闘志の輝きだった。


「……殿」

メゼキラフが、苦渋に満ちた声で口を開いた。

「まさか、お考えではありますまいな?この状況で、あの男を狙うなど、狂気の沙汰でございますぞ」


セダスタは、カドローたちが消えた通路の先を、射抜くような目で見つめたまま、静かに答えた。


「考えるんじゃない。……覚悟を決めるんだ、メゼク。狂気の沙汰でだけ、掴める好機だってある」


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